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407話「アレはどうなっている? 宿編」



「ここが、冒険者ギルドおすすめの宿か」



 街へと戻ってきた俺は、その足で冒険者ギルドに向かい。受付嬢のマリヘルからおすすめの宿を聞き出す。もうわかっていると思うが、目的は二つ目のアレの確認である。



 冒険者ギルドについてはアロス大陸にいた巨乳眼鏡と後輩、そして頭頂部――本人談では剃っているだけらしい――が寂しい解体専門の職員というお決まりの人物がいたが、今回は某国民的RPGに登場するキャラクターに酷似した名前だった。



 今回は宿ということで、アロス大陸では妖艶熟女とその遺伝子を受け継ぎし看板娘という組み合わせだったが、果たして今回はどうなのだろうか?



「いっらっしゃいませませー。【ル・イータの酒場】へようこそ」


「そっちかぁー」



 なんと、今回はどうやら宿の名前にそれが起用されているらしく、さらにはその名前も某国民的RPGに合わせてきているらしい。人はそれをこう呼ぶ。“使い回し”であると……。



 まあ、この世界にあの酒場があるわけでもなく、無感情な目をしているスライムやクラゲのような見た目をした回復魔法が使えるモンスターや全身金属仕様で倒すと莫大な経験値がもらえるモンスターも存在しない。



 だからこそ、この世界においてあの世界を知らないわけであるからして、使い回しというものに該当するかと言われれば、首を縦に振ることはない。何せ、そのことを知っているのは今のところこの世界では俺だけなのだから。



「あのー、何がそっちなんです?」


「いや、こっちの話だ。それよりも宿を頼みたい。日数は二日分、食事付きで頼む」


「かしこまりました。食事付きでしたら、一泊千二百ジークになりますので、合わせて二千四百ジークになります」



 看板娘らしき少女が提示した金額を支払い、鍵を受け取ってさっそく二階にある部屋へと向かう。基本的にこの世界の宿というものは、一階に受付があって食事処と酒場を兼任する食堂があり、二階に宿泊するための部屋がある。



 渡された部屋の鍵で中に入り、内装を観察する。特に物珍しいものはなく、簡易的なベッドと丸テーブルに椅子が二脚あるだけのただ寝るためにあるような部屋だった。王都にそれなりの屋敷を持つ身としては、こんなところに泊まるというのは耐えられないかと思ったが、元々そういった生活をする前までは同じような場所で寝泊まりしていたこともあって、特に気にすることもない。



 ベッドの埃が少し気になったので、魔法で綺麗にしてからそのまま仰向けに倒れ込む。冒険者たちは、今頃後処理にあくせくと働いているのだろうが、俺は俺でやるべき仕事は果たしているため、ここでのんびりとしていても文句は言えないはずだ。



「少し寝るか」



 疲れはそれほどなかったが、意外にも眠気があったので、誰かが呼びに来るまで少し仮眠をすることにした。



 しばらく経って、ドアがノックされる音で意識が覚醒し、ドア越しに「誰だ」と問い掛けると、宿の受付にいた少女だった。



「何か用か?」


「その、冒険者ギルドから伝言を預かってまして“すぐに来てくれ”ということらしいです。それじゃあ、伝えましたからね」



 どうやら、モンスターの後処理は終わったらしく、外も夕方の時刻に差し掛かっていた。寝ぼけ眼で頭を振って意識をはっきりさせると、俺はある程度身だしなみを整え、宿の階下へと向かう。時間的に夕飯時のようで、宿の食堂は混み合っており、ほぼ満席の状態だ。



 夕方のピークを迎えているようで、看板娘の他にもウエイトレスがあくせくと忙しなく動き回っている。しかし、困ったことになったぞ。これでは夕飯を食べることができないではないか。



 冒険者ギルドから呼び出しが掛かっているが、俺は行くつもりはない。すでにギルドマスターとの間で依頼の受注と達成は完了しており、報酬金も先払いで百万ジークをもらっている。つまり、俺からすればもはや冒険者ギルドに用はないということだ。



 そのことはギルドマスターであるアロスも重々理解しているだろうし、今回の呼び出しについては“出来れば来てほしい”程度のものであると考えている。もし、違うのであれば直接部屋にギルド職員がやってきて「急ぎ伝えたいことがありますので、ギルドまでお越しください」と言っているはずだ。だが、看板娘伝いでの伝言に留めたのはそれほど重要度が高くない用であるといういい証拠だ。



 よって、今回の呼び出しについてはパスさせてもらう。そんなことよりも、飯をどうするべきか……。



「仕方ない。部屋で何か食べるか」


「表に出ろゴルァ!」


「上等だ! やってやんよコノヤロー!!」



 俺が部屋に戻るタイミングで、隣同士の客が口論となり喧嘩に発展したようだ。机に金を叩きつけているところを見るに、あのまま宿を出ていくらしい。……なら、俺が座ってもいいよね?



 などと。誰にも聞かずにしれっと席に着席する。テーブルには、前にいた客の食べた食器などが置いてあったが、今は席を確保することが最優先であるため、この際気にしない。



 俺が席に着いてから、すぐにそれに気付いたウエイトレスがすぐにテーブルを片付け、注文を取りに来る。壁に掛けられているメニュー表には一般的な料理名が並んでいたので、俺はその中からスタンダードなパンと肉と野菜スープがセットになったものを注文した。



 すぐに料理が運ばれてきたので、すぐに夕飯にありつけることができた。気になる味は、まあ普通だった。特に絶品というわけでもなく、食べられないほどに不味いというわけでもない、だが、毎日食べても飽きない味付けであり、それを考えれば料理人のこだわりがしっかりと行き渡っている料理だった。



「あのー、冒険者ギルドに行かなくていいんですか?」



 多少手が空いたのか、隙を見て看板娘が声を掛けてきた。その一言に手を振って「問題ない。どうせ大した用ではないから」と答えてやると、それで満足したのか自分の仕事へと戻って行った。



 夕飯を食べ終えたところで、すでに外は暗くなっていた。今日はモンスターと慣れない戦い方をしたため、多少精神的な疲れが出ている可能性を考慮し、俺はそのまま床へ着いた。



 翌日、朝の訪れを告げるかのようにドアがノックされる。多少乱暴なところを見るに、どうやら来客は男のようだ。



「うるさいな。この朝っぱらから何の用だ」



 一体誰がこんな真似をと考え、すぐにベッドから起きてドアを開けた。するとそこには白い歯をむき出ししてニカッとした笑顔を浮かべたアロスの姿があった。その顔面をぶん殴ってやろうかとも思ったが、本人としてはただ笑顔を浮かべているだけで殴られるのは流石に理不尽であろうと考え、そのまま黙ってドアを閉めようとしたところ手と足をドアに差し込んで防がれてしまう。



「何で閉めるんだよ!」


「朝、眠い、二度寝、よろしく」


「よろしくじゃない! 昨日もギルドに来いって言ってたのに無視しやがって」


「もう用はないはずだ。依頼の受注も達成もした。報酬金も先払いでもらった。だから、ギルドに行く必要性はない」


「詳しい説明がされてねぇじゃねぇか!! あれは一体何なんだ!? あの霧は? 物凄い轟音は? 黒焦げになったモンスターたちは? 説明してくれ!!」



 どうやら、俺がモンスターを倒した経緯を知りたいらしく、この朝早くにやってきたらしい。確かに、モンスターを倒すという事前打ち合わせはやっていたが、具体的にどう倒すのかということは言ってなかった気がする。



 これでは、報告書などを作る時にすごく不便だ。そこは、天変地異的なものが起きて気付いた時にはモンスターが瀕死状態となっていた的な手段を取れないのかとも思ったが、アロスのようなタイプの人間があまり嘘が得意そうではないし、他のギルドとの連携を取る可能性があるため、正確な情報の把握をしたいという状況も理解できないわけではない。



「かくかくしかじかだ」


「なんだそれは?」



 説明が面倒だったため、いつものノリでやってみたが、残念ながら通じなかったようだ。いや、通じる方がどうかしているか?



 それから、どうやって俺が対処したのか今度はちゃんと説明してやったが、それがアロスの頭を悩ませることになるとは思わなかのであった。

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