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270話「新商品とバージョンアップ」



「よし、これに決めた」



 次の生産する商品を生活必需品に決めた俺は、さっそく生産するために考えを巡らす。生活必需品といっても様々あり、一括りにできないのが悩みどころではある。



 とりあえず、試しにスプーンやフォークなどの食器類を作ることにし、ストレージから適当な木材を取り出す。



 この世界の主な食器類は木から作られており、有力な商人などは鉄製のものを、貴族や王族などの富裕層は銀製のものを使っていることが多い。その製造方法も材質によって様々だが、基本的に木製は木材を削って作られる。



 適当な木材をスプーンの大きさほどの長さと幅に切り分け、そこから魔法を使ってスプーンの形に切削していく。この程度のものであれば、ものの数十秒で出来上がってしまうため、あまり苦労せずに完成してしまう。



「ふむ、悪くはないがどこにでもあるって感じだな」



 完成したスプーンは本当にどこにでもあるごく普通の木製スプーンで、これといった特徴のないものだ。強いていれば持ち手の部分を少し曲げることで、握りやすくしているくらいだろう。



 この世界の木工職人であれば誰でもできるようなものであり、目新しい商品とは言い難い。だが、そのスプーンを眺めているうちにあるアイデアが浮かんできた。



「そうか、ありきたりなら大きさを変えればいいんだ」



 前世の地球では文明が発展し、様々な技術やものが溢れていた。スプーン一つとっても大きさ、重さ、材質に至るまで多種多様なものが作られており、同じように見えても使い勝手も異なる。



 文明力の低いこの世界では、それぞれの手にあった大きさや重さのスプーンなど作られるはずもなく、どれも一律同じものが作られることが多い。ならば、使う相手に合わせた大きさのものを作ってやればいい。



 まずは男性が使う大きめのスプーンと平均的な今までのスプーンを作る。この世界の男性は平均的に体格が大きく、同時に大食漢であることが多い。だからこそ、一度にたくさん食べることができる大きさのスプーンは需要があるのではと考えたのだ。



 そして、次に平均的なスプーンよりも少し小さな女性用のスプーンと、さらにそれよりも小さな子供が使うスプーンも作ることにした。



 男性用、従来のスプーン、女性用、子供用と使う相手の性別や年代層に分けることで、それぞれの手に合ったスプーンで食事を楽しむことができるようになっている。



「フォークも作るか」



 同じようにフォークも手早く作り上げ、こうして大きさの異なるスプーンとフォークが完成する。完成したそれぞれのスプーンとフォークの値段をどうするか考えたが、相場がわからないため、これはあとでグレッグやマチャドと相談することにする。



 次に俺が着目したのは、料理をしている際にある道具がないということだ。何かといえば、トングである。



 トングは肉をひっくり返す時やサラダを混ぜる時など様々な用途で使用されるが、今までそういった類のものは見ていない。たまにルッツォの厨房を借りたりしているが、その厨房にもトングなどの器具は置いていないのだ。



 その理由としては、トングは構造的に二つのスプーンが組み合わさったようなもので、その二つのスプーンを接合しておく技術がないものだと推察される。ならば、その技術を再現してやればいいのだ。



 まず途中までスプーンの形に似たものを作り、その二つが組み上がるよう加工する。組み上がった部分の中心部に二ミリから三ミリほどの穴を開け、それがバラバラにならないよう中心部の穴に木で作った留め具のようなものを詰める。



 この留め具は両方の先端部を細く中心部になるにつれて太くしておくことで、組合部の穴に入り込んで抜けないような仕組みとなっている。その留め具をトンカチなどで叩いて入れることで組合部を固定し、外れないようにする仕組みだ。



 ひとまずはスプーン型とフォーク型のトングの二種類を試作し、トングについてはこれでよしとすることにする。続いては服飾系の生産作業だ。



「服飾系は、服というよりもサンダルとかスリッパ系がいいかもな」



 服飾という言葉を聞くと、イメージとしては服を思い描く傾向がある。だが、今回は服自体ではなく足下の部位に着目した。



 一般的に庶民が履いている靴は、ウルフ系のモンスターの皮を使った革靴で、貧困層や村落などの村人などは植物の蔦で織り込んだ草鞋のようなものかもっぱら裸足だ。



 そこで、簡単な素材で何か足を保護できるような履き物を作ることができないだろうかと考えた俺は、ある素材を使ってサンダルを作ることにしたのである。その素材とは、スライムゼリーだ。



 名前でお察しの通り、スライムから頻繁にドロップするこのスライムゼリーは、主に家畜などの飼料として与えられることが一般的で、その他の用途はあまり知られていない。



 スライムのようにプルプルとしたそれは、よくよく観察すれば小さなスライムのように見えなくもないが、俺は知っている。ある加工をすればこいつの性質が変化することを。



 その加工とは加熱であり、熱したお湯にスライムゼリーを入れることで、前世にあった玩具として販売されていたスライムのようにゲル状のドロドロとした液体に変化する。



 それからしばらく放っておくと、ゲル状だったものが硬質化し、まるでプラスチックのような硬度と皮のようなしなやかな材質に変化することがわかったのだ。



 さらに研究を進めた結果、同じドロップアイテムのスライムの核を細かく砕いたものとゲル状になったスライムゼリーを混ぜ合わせることで、ゴムのような弾力のある材質を作ることもわかったのだ。



 これらの性質を利用して今回はスライムのサンダルを作ろうと思う。まずは足との接地部分となる底は弾力のある材質を使用し、サンダルが脱げないようにするバンド部分はプラスチックの硬度と皮のようなしなやかさを持つものを使用することにした。



 サンダルの形状はシンプルなものとし、底部分の側面部にバンド部分を接合することで、見た目的にはスリッパに近いサンダルが完成する。



 試しに履いてみると、底部分の弾力がなかなか良く、履き物としてはなかなかいい感じのものができあがった。



「今回はこんな感じかな」



 これにて生産作業を終了させ、できあがった品を増産するため、久々の職人ゴーレムを生産しようとしたその時、ストレージの空間から奴が姿を現した。



「ご主人様、お久しぶりでございますムー」


「ああ、プロトか。ってか、そんな流暢に喋ってたっけ?」


「実はストレージ内の高ランクモンスターの魔石を少し拝借いたしまして、言語レベルを引き上げさせてもらいましたムー」


「そ、そうか」



 何を勝手なことをしてくれているのかと思ったが、以前のような片言の喋りではなくなったことをプラスと捉えることにした。そんな主人の思いを知ってか知らずか、プロトが俺に問い掛けてくる。



「ところでご主人様、何をなさっているのですかムー?」


「ああ、今からこの商品を増産するために職人ゴーレムを召喚しようと思ってな」


「そうでしたか、であればこのプロトにお任せくださいムー」



 プロトの言葉を皮切りに、プロト自身が職人ゴーレムを生成していく。そして、的確に指示を出し始め、瞬く間に生産が開始された。



 どうやら、バージョンアップによってプロト自身がゴーレム生成を習得したようで、これからは生産ラインのすべてを任せられるようになった。



 その後、お試しで大きさの違うスプーンとフォーク、さらにトングを各百個ずつ。サンダルも百個生産してもらった。



「よし、あとは値段を決めるだけだな。ちょっと、出掛けてくる」


「了解ですムー。いってらっしゃいませムー」



 そうプロトに告げた後、ひとまず俺はグレッグ商会へと向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] プロトの臨機応変さは主に似たんだな。きっとw
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