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200話「魔狩ギルド」



「ここかな」



 そんなこんなでやってきました【魔狩ギルド】。入り口には、剣と盾の看板の代わりに四足歩行のモンスターにバッテンが描かれた看板が置かれている。おそらく、ここがモンスター討伐を専門にしていることをわかりやすくするためのものだろう。



 西部劇に出てくるようなスイングドアをゆっくりと開けると、中は思ったよりも現代に近い形の内装をしている。冒険者ギルドは木造のいかにもファンタジーな造りだったが、魔界のギルドはどちらかといえば役場に近い印象を受ける。



「おい、ガキだぞ」


「何しに来やがった?」


「依頼じゃねぇのか? まさか、あんなちっこいのが登録志願者なわきゃねぇよ」


「ははは、言えてるな」



 中に入った途端この言われようだが、確かに今の俺を客観的に見ればそんな感想しか浮かばないような見た目をしているので、彼らに反論することはしない。関わると面倒臭そうだしな。



 俺は一番近くにあった受付カウンターに向かう。そこで対応してくれた受付嬢に妙な既視感を抱いたため、思わず問い掛けてしまった。



「すまないが、名前を教えてくれないか?」


「はい?」



 その受付嬢は見た目は緑の髪を後ろで結んだ所謂ポニーテールで、目はオレンジ色をしている。そして、なによりも特徴的な二つの大きな果実と眼鏡は、あの人物を彷彿とさせる。


-

 この世界にはある法則があり、それは冒険者ギルドに勤める人間の名前が似通っているという法則だ。よくよく聞いてみると、親戚だったりはたまた他人の空似だったり、名前が似ているだけだったりと状況は様々だが、なにかしらの人ならざる者の仕業としか言いようがない偶然が重なっている。



 そして、今目の前にいる女性もまたそんな人たちの見た目に雰囲気がそっくりなのだ。これで名前を聞かない方がどうかしているだろう。



「……マーリアンですけど」


「伸ばし棒を入れてきたか……。そのパターンに入ったということか?」


「あの、何の話をしているんですか?」



 マーリアンが、怪訝そうな表情を浮かべている。そりゃそうだ。突然名前を聞かれたと思ったら、自分の名前の伸ばし棒がどうのこうのと言われる。不審者といっても過言ではない。



 だが、まだ確認しておかなければならないことがあるため、彼女には悪いが、もう少しこの確認作業に付き合ってもらうことにする。



「すまない。君に似ている人がいてね。もしかしたら知っている人かと思ったんだが、違ったようだ」


「そうだったんですね。ところで、魔狩ギルドに何か御用でしょうか?」


「その前にあと二つほど確認したい。ここに“コル”と付く受付嬢と、“ルド”と付く解体責任者はいないか?」


「はあ、いますけど」


「名前を教えてもらってもいいか?」


「……」



 再び彼女のジト目が俺に突き刺さる。しかしながら、新しい場所にきたらこれを確認しておかなければならないのだ。これは気付いてしまった者の義務と言っていい。そう、これは義務である。



 それから、先ほどと似たようなことを説明し、なんとか二人の名前を教えてもらうことに成功する。まずコルという名前の受付嬢はマコルといい、これまたお決まりで彼女の後輩らしい。そして、もう一人の解体責任者の名前は……。



「パゲルドです」


「は?」


「パゲルドです」


「……」



 俺は、その名前を聞いた瞬間、感無量で目を瞑ってしまった。マーリアンの呼びかけが聞こえたが、しばらく物思いに耽ってしまう。そんなやり取りののちに、俺はようやく彼女に魔狩ギルドに来た用向きを伝えた。



「ギルドの新規登録をしたい」


「あのー、失礼ですが年齢の方を伺ってもいいでしょうか?」


「十二だが?」



 俺が年齢を答えると、ギルド内からどっと笑い声が響き渡る。その声の正体は、俺とマーリアンのやり取りを聞いていた魔狩ギルドの所属員で、通称魔狩者まかりものと呼ばれている連中だ。



 基本的に魔狩者の素行は、人間の世界の冒険者となんら変わらないため、荒くれものが多く言葉遣いや態度も横柄なものが多い。特に弱肉強食の価値観が根強い魔族にとって、力なき者は何をされても文句は言えないといったスタンスであるため、俺の年齢を聞いて弱者が背伸びをして魔狩ギルドに登録をしに来たと思ったのだろう。



「聞いたか、十二だとよ」


「まだママのおっぱいを吸ってるガキじゃねぇか?」


「え? 俺まだ吸ってるけど?」


「おい、それはそれで問題だぞっ!?」



 途中妙な言動を取る魔狩者もいたが、概ね俺が歓迎されていないことは理解できる。それも仕方のないことかもしれない。



 魔狩者とは、基本的にモンスター討伐を生業としているため、自ずと荒事に慣れている実力者が多くなる。魔界のモンスターは人間の世界のモンスターより強力であるため、雑用をこなす冒険者よりもさらに実力主義な連中が集まってくる。



 ギルドとしても実力のない者を所属させて簡単に死なれては意味がないし、外聞的にもあまり聞こえのいいものではない。であるからして、魔狩ギルドはある一定の強さを持っている者しか所属することを許していないのである。



 そんな背景があるからこそ、今俺を罵倒している連中も“自分は選ばれた特別な存在なんだ”というようなエリート意識が生まれ、結果として大した実力もないくせに大きな態度を取っているという勘違い野郎共の集団と成り下がっているのだ。



「マーリアン。いくつか質問する。ちゃんと答えてくれ」


「え? ああ、はい」


「質問その一、魔狩ギルドに所属するために、一定の実力は求められるが、年齢制限はない。間違いないな?」


「はい、実力があれば例え赤子でも所属できます」


「では、次の質問だ」



 といった感じで、俺は魔狩ギルドに所属するために必要な条件をマーリアンから聞き出していく。特に、ギルドに求められる実力については、概ねCランク相当のモンスターを単独で狩ることができれば問題ないらしい。未だに、俺を罵倒してくる魔狩者に一言言ってやりたい。SSランクを単独で狩れますが何か?



「なるほど、じゃあ最後の質問だ。ここはモンスターの買取はやってるのか?」


「はい、もちろんです。それがメインと言ってもいいくらいですから」


「じゃあ、これを買い取ってくれ。俺が倒したオーガキングだ」



 そう言いながら、俺はギルドの床にオーガキングの死骸をストレージから取り出してやる。すると、先ほどまで俺を罵倒していた連中が急に黙り込み、ざわつき始める。



「お、おい。オーガキングだってよ」


「ホンモンかあれ?」


「間違いない。ありゃあオーガキングだ」


「だ、だがあのガキがやったっていう証拠がねぇ!」



 確かに、オーガキングの死骸を持っていることと、オーガキングを倒したということはイコールでは繋がらない。倒した者は別にいてそれを俺が持っている可能性が残っているからだ。



 だが、実際に物的証拠が目の前にある以上、その抑止力は絶大だったようで、先ほどよりも俺を罵倒する声が減ったように思える。



「これだけじゃあ、俺がやったっていう証拠にならんか?」


「はい、残念ですが……。けれど、モンスターの買取自体は可能ですので、査定に入らせてもらってもいいでしょうか?」


「構わない。それとオーガやゴブリンキングが率いていたゴブリンの群れも持っているんだが、解体場に持っていった方がいいか?」


「そ、そうですね。そうしていただければ、助かります」



 俺がそう言うと、マーリアンは戸惑いながらも俺を解体場へと案内するため受付カウンターから移動する。俺は黙ってその後ろを付いていった。後に残された魔狩者の中に、俺を罵倒する者はいなくなっていたが、そんなことはどうでもいいとばかりに、俺は解体場に向かった。



 解体場には、何人かの解体職員がおり、現在も魔狩者が狩ってきたモンスターの解体作業を行っている。その中の一人がこちらに気付き、近づいてくる。その姿に見覚えのあったため、思わず叫んでしまった。



「ハゲとるやないかい!!」


「ハゲてねぇよ! どいつもこいつも、俺を見てハゲハゲハゲハゲ言いやがって! これは剃ってんだっていつも言ってんだろうが!! ……ってか、俺お前のこと知らねぇぞ? 誰だ?」


「ハゲルドさん、いい加減にしてください」


「俺の名前はハゲルドじゃねぇ。パゲルドだ! パ、ゲ、ル、ド」


「どっちも似たようなもんじゃないですか。とにかく、パゲルドさん仕事です」



 いい加減鬱陶しくなってきたマーリアンが、パゲルドにおざなりな言葉を投げつけ、仕事だと宣言する。そんな彼女のパゲルドに対する態度に、若干の冷たさを感じつつも、若い女性のおっさんに対する態度などこんなもんかと妙な納得感を感じつつも、俺は指定された場所にモンスターの死骸を並べていく。



 本来であれば、自身の持つ【分離解体・改】のスキルで傷一つなく綺麗な解体が可能なのだが、それこそ自分で倒したのではなく、どこからか素材のみを調達してきたと勘繰られかねないと思い、初回のみ解体職員に任せてみることにしたのだ。



 本当に膨大な数のモンスターの死骸に目を見開き驚愕するマーリアンを尻目に、こういったことに慣れた様子のパゲルドがランク毎にモンスターを仕分けしていき、職員の解体レベルに合ったモンスターを振り分けていく。こういうところは熟練の職人としての風格を漂わせるあたり、ただ年を食っているだけのハゲたおっさんではないなと内心で感心する。



「っ!?」


「なんだ?」


「ハゲてねぇからな!? 剃ってるだけだ!!」


「……何も言っとらんが?」


「そうかぁ? そんな風に思ってる顔をしていたと思うんだがなぁ?」



 なんということだ。俺の考えていることを見通すとは、あれも熟練の技というやつなのだろうか? 文字に起こすと“自分のことをハゲだと思っているかどうかがわかる技”といったところか? なんだその無駄な熟練の技は、要らなすぎるぞ。



 とりあえず、パゲルドにモンスターの死骸を渡した後、一度受付カウンターに戻ると、俺たちを待ち受けていたかのように、一人の魔狩者が声を掛けてきた。

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