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140話「新境地で見つけた物」



 せいろを作った翌日、朝食を食べたあと俺は王都の外へと出掛けることにした。その目的とは、王都の周辺の地形の把握とそこにある新しい素材の探索を兼ねて一度王都周辺を見て回ることにしたのだ。



 シェルズ王国の王都ティタンザニアは、立場的にも地形的にも国の中心部としてその存在感を放っており、国中のありとあらゆる物資や人が集まる大都市だ。



 五角形の形に張り巡らされた王都を守る防壁の高さは十メートルにも及び、百万人以上もの市民の命を守り続けている。その五角形の一辺ごとに王都に入るための門があり、それぞれ街道が通っていて王国に属する貴族が治める領地に続いている。



 王都周辺は見晴らしのいい平原となっており、滅多なことではモンスターなども出ない平穏な土地柄となっている。仮にモンスターが出たとしても、定期的に兵士や騎士が訓練と称して周辺を巡回しているため、すぐに駆逐されてしまう。



 そのため盗賊の類も寄り付かず、王都周辺は一定の安全が確保されている。そして、その安全性の高さから行商人や旅人なども安心して通行することができるため、日に王都を訪れる人の数はシェルズ王国の中でも迷宮都市オラルガンドよりも多いと言われている。



「あっちに行ってみるか」



 特に目的の場所はないため、東西南北の順に回ってみることにする。



 東側は平原と街道が続き、その途中で休憩ができそうな岩場があった。西側は綺麗な清流の川があり、ここも休憩を取る場所としては最適だが、特段目新しいものは見つからない。

 南側は小高い丘がある丘陵地帯で、膝丈辺りまで鬱蒼と茂った草原が広がっていた。そして、最後の北側だが……。



「ふむ、森か」



 そこには、一定の間隔で木々が生え揃った雑木林寄りの森があった。森というだけあってそこには森の幸があり、料理に使う香草や茸や果物などの食材などもあったが、そこでとある植物を発見した。



「これは……アブラナか?」



 雑木林の先に進んでみると、開けた広い空間があり、そこに見覚えのある真っ黄色の花が咲き並んでいる。一つ手に取って解析してみたところこのような結果が表示される。




【イエロープラント】:黄色い花を咲かせる植物で、種子から油が取れる。取れた油は食用油として最適。




「いよぉっしゃあああああああ!!」



 解析の結果に俺は思わず雄たけびを上げた。待ち望んでいた植物性食物油の原料となる植物を発見したのだ。



 これを大量生産して油として加工すれば、新たに揚げるという調理法を広めることができる。まずはうちの屋敷で試験的に栽培して、次に孤児院でも育ててもらい。最終的には、国王にその話を持っていて大量に生産してもらうとしよう。国としても新しい調理法と油が手に入るので、文句はないだろう。



 とりあえず、根こそぎ取っていくと二度と生えてこないかもしれないので、必要な分だけを摘み取りストレージへと放り込む。



「いいぞ、いいぞー。フライドチキンにフライドポテト、ポテトチップスもいけるな。あとは、天ぷらもできるし鶏のから揚げやトンカツも作り放題だ!」



 俺が料理名をぶつぶつと口にしながら植物を刈り取っていく光景は、傍から見れば怪しいことこの上なかっただろう。だが、今その場にいるのは俺だけであり、仮に見られたとしても事の重要性を理解できない人間に何を言っても無駄なため、俺が気にすることはないだろう。



「ふうー、とりあえずこんなもんかな」



 俺はその場に自生していたイエロープラントの三割程度を刈り取ると、残りはそのまま残しておくことにした。王都の周辺探索に来て、何の成果も得られませんでしたと叫ばなくてもよくなったことに俺は安堵する。



 そして、新たに手に入れたこのイエロープラントから取れる食用油を使って、どんな料理を作ってやろうかと頭の中で考えながら、俺はスキップで王都へと戻って行った。



 余談だが、戻っている途中で瞬間移動を使えばいいということに気付き、苦笑いを浮かべる一幕があったことを伝えておく。





   ~~~~~~~~~~





「ドドリスはいるか!」


「そんな大きな声を出さなくても、聞こえてますぜローランドの坊っちゃん。それで、こんなところに何の用ですかい?」



 屋敷に戻った俺は、速攻で庭師ドドリスの元に向かい事情を説明する。ストレージからイエロープラントを取り出しドドリスに手渡すと、怪訝な表情を浮かべながらしげしげと観察していた。



「これを庭の一角に植えたいってことですかい?」


「そうだ。適当に開いている場所はあるか?」


「そりゃ、この屋敷は広いですからね。畑の一つや二つ増えたところでまだまだ場所には余裕がありやすが、本当にこれを育てるんですかい?」


「そうだ。とにかく、これを植えてもいい場所を教えてくれ」



 半信半疑ながらも自分の主人の言葉には逆らえないのか、首を傾げつつイエロープラントを育てる場所に案内してもらう。



 案内されたのは、周辺にドドリスが管理している植物などはなく本当に何もない場所だった。確かにここであれば多少妙な植物を育てたところで問題はないだろう。



「ここだな」


「へい、ここでなら他の植物の成長を邪魔することもないでしょうし、問題ありやせん」


「そうか、ならさっそく植えてみるか」



 ドドリスの言葉を聞き、俺はさっそくイエロープラントを植えてみる。植えると言っても、取ってきたものを直接植えるのではなく、錬金術を使って種の状態にしてからそれを植えるという意味だ。



 待っている時間が勿体ないので、木魔法を使って成長を促進してやると、瞬く間にすくすくと成長し辺り一面が黄色い花で埋め尽くされた。



「うん、問題ないようだな」


「ローランドの坊っちゃん……これはいくらなんでも無理矢理が過ぎるんじゃあないんですかい?」



 庭師のドドリスにとって何か矜持に触れるものがあったのだろう、顔を歪めながら難しい表情を浮かべていた。だってすぐに結果がわかるんだからしょうがないじゃないか。



 とりあえず、王都でも問題なく栽培が可能だという結果がわかったので、これ以降は庭師のドドリスに一任することにした。それを聞いたドドリスは最初は渋っていたが、この植物を使って新しい料理ができるという話を聞くと、手のひらを返したように喜び勇んでいた。ふっふっふっ、料理の力は偉大である。



 油として加工するにはまだ量が足りなかったので、さらに植える面積を増やし、木魔法で成長させて一定数のイエロープラントを収穫した。



 一応確認のために二回目は時間を掛けて育ててもらい、一回目との差異がないか確認してもらうとして、俺はその足で工房へと向かった。

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