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13話「偽装工作についての話し合い」



「……」


「……」



 視線と視線がぶつかり合い、まるで火花が散ったような錯覚を覚える。両者とも一歩も引かず、膠着状態が続いている。

 何が彼女たちをそうさせるのか、まるで一歩でも引いたら負けだと言わんばかりの剣幕に俺もそしてマークも成り行きを見守る事しかできないでいた。



 俺の左腕にはローレンの腕が絡みつき、さらに反対の右腕にはローラの腕が絡みついている。

 状況的には両手に花のそれだが、それはあくまでもそういう状況を享受できる人間である場合だ。



 では俺はその部類の人間なのかと問われれば、断じて否。そう、否なのだ。

 十歳の男子が、八歳の妹と同世代の美少女にくっつかれればそれは嬉しいことなのかもしれない。だがしかし、それは相手が何のしがらみもない平民だったらという注釈が付く。



 まあ、所謂“ただしイケメンに限る”の貴族バージョンと思ってくれればわかりやすいだろう。

 二人とも貴族の家の出身であり、増してやローレンは未だ婚約者のいないフリーな状態だ。そんな立場のある人間が俺に身を寄せているのを目撃すれば、どんな鈍い相手でも勘ぐってしまうのは仕方のない事だ。



「ローレン様、お兄さまにくっつき過ぎです。離れてくださいまし」


「あなたの方こそ、妹だからって干渉が過ぎるのではなくて」



 これである。女の戦いはどこか空寒い感覚が体を突き抜ける感じがして見ていてとても居たたまれなくなるのは俺だけなのだろうか?

 いつまで経っても平行線な状況を見かねた俺は、二人を宥めすかし、この状況を誤魔化すための偽装工作の話し合いに無理矢理持っていく。



「というわけでローレン殿。あなたに一つお願い事があるのだ――」


「わかりました」


「……まだ説明していないのだが」



 命の恩人である俺の頼みは無下にできないということなのだろうが、それにしたってきちんと説明は聞くべくではないだろうか。……あと目をハートマークにしないでいただきたい。

 という建前を並べたところで、今回の件は当事者であるローレンの協力なしには実現不可能なため、本人が強力的なのは俺的には助かる。



 俺はできる範囲で自分の置かれた状況と望みを伝え、今回の一件の手柄をマークに押しつ……もとい、担ってもらうことを説明した。

 最初は笑顔だったローレンは次第に訝しげな表情を浮かべ、顔に出ていた疑問を投げかけてきた。



「ロラン様は、マルベルト領をお継ぎになりたくないのですか?」


「そうだ」


「何故でございましょう?」



 ローレンの疑問はもっともだ。なにせこの世界において領主というのは、なりたくてもなることが難しいものなのだ。

 まず領主になるには貴族でなければならない。この時点ですでに大多数の人間が領主になるレースから脱落してしまう。



 そして、次点として貴族家の長男または次男以降の優秀な人間でなければならない。これはごく限られた人間しか該当しないものだ。

 それ以外で領主になるには、何かしらの功績を上げ国王から新たに貴族に任命されるくらいだ。とどのつまり、領主になる方法というのはこれだけ限定的で、なりたくてもなることができないものであるというのがこの世界の常識だったりするのである。



 だが、俺から言わせれば領主など領地に縛り付けられた奴隷も同然なのだ。領地で何か問題があればその責任の全てを押し付けられ、場合によっては自分の命で償うということもあり得る。

 敵対する他国の軍や大規模なモンスターの群れが現れた時、真っ先に矢面に立って戦わなければならない。それが領主の仕事であり責務だ。



 仮に自分が治める領地が繁栄していれば自分の命を懸ける価値は十分にあるが、俺が継ぐ領地はこう言っては何だが命を掛けるに値しない。

 こんなことを言ってしまうとマルベルト領に住んでいる領民に申し訳ないが、これが俺の正直な感想なので仕方がない。



 チートな能力を使った領地改革系ファンタジー小説を読んだ前世の記憶を思い出したが、あれとて自ら領地を改革する意志を持ってやっているからこそ改革も上手くいくというものなのだ。

 俺にはそんなチートな能力もなければ領地経営の経験もない。何より前世のような馬車馬のように働く人生など真っ平ごめんである。



 であるからして、俺はローレンにこう切り返した。



「面倒臭い」


「はい?」


「だから、面倒臭いんだ。それに領地経営なんてよっぽど優秀な奴でなきゃ務まらんし、何より領地に対して愛着のある人間でなければ上手くいかん。俺はこの地に愛着もないし、優秀な人間でもない。だから俺はマークを優秀な人間に育て上げ、この領地を継いで欲しいんだ」


「兄さま……」



 などともっともらしい理由を並べたが、本音を言えばこんなビンボー領地で一生過ごすのが嫌なだけである。

 せっかく異世界に生まれ変わったのだから前世とは違うことをしてみたいと考えるのはごく自然である。そして、俺は見知らぬこの世界を観光してみたいと考えている。



 剣と魔法とモンスターの世界なのだから、RPGに登場するキャラクターように旅をしてみたいと願望を抱くのは現代人であれば仕方のないことではないだろうか。諸君、ファンタジーとは幻想と書くのだよ?



 とにかく俺の言葉に一応理解を示してくれたローレンだったが、偽装工作の件に関して少し渋っていた。本人曰く「私を助け出してくださったのはロラン様です」という彼女の中で譲れないものがあったようなのだが、俺が一言「俺のために嘘をついてくれ」と言うと即座に「わかりました。あなたのために私は嘘をつきます」という返答があった。先ほどまでのこだわりは何だったのだろうか。



「それにしても、こんな大きなレッサーグリズリーを倒してしまうなんて……さすが兄さまです」


「ホントにね」


「何を言ってるんだマーク? これくらいの相手なら今のお前でも楽勝に勝てるはずだ。そう俺が仕込んだからな……ふふふふ」



 俺の戦果を褒めたたえる双子に対し、俺はそう返答してやる。実際のところマークの今の実力であれば、俺ほどではないが勝つことは難しくないはずだ。

 マークの持つ魔法の才能は貴族の生まれだけあって高水準で、俺のような緻密な魔法の制御はまだまだだが、一般的な初級魔法であれば使いこなす程度の実力はあるのだ。



 それに他の人間たちにレッサーグリズリーを倒してローレンを救ったという偽装工作のためにも、マークにはその実力があると本人も含めて理解させておかねばならない。

 相変わらず温和な性格だが、こと戦闘に関しては相当な実力を兼ね備えていると俺は考えている。できれば、領地経営のためにももう少し知力の方を底上げしていただきたいのだが、武人の息子だけであって若干脳筋気味になってきているのは気のせいか?



 それから偽装工作についての話し合いを進め、一通り内容が決まったところでさっそく計画を実行することにした。

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