表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

155/155

最終話 村人A、史上最強の大魔王に転生する

 まるで、時が逆巻いているかのようだった。

 荒涼たる大地がそのとき、急速な変異を見せ始め……元の景観へと戻る。

 ラーヴィル国立魔法学園。見慣れた景色を目にしたことで、一堂は安堵の息を吐いた。

「……どうやら、結果が覆るようなことはなさそうだな」

「あぁ。メフィストは完全に、この世界から消滅した。この光景が何よりの証だ」

「とはいえ。勝利を収めたとは言い難い」

 オリヴィア、アルヴァート、ライザー。複雑な表情のまま彼等は言葉を交わした。

 目的を達することは出来たが……失ったものは、あまりにも大きい。

 とてもではないが、喜べるような状況ではなかった。

「確かに、最善ではないよね。でも……落ち込んではいられないよ。ワタシ達の戦いはまだ、終わったわけじゃないんだから」

 ヴェーダの言葉に、四天王の面々は首肯を返す。

 これにイリーナも加わって、

「ヴェーダ様の言う通り、あたし達には次がある。でも……しばらくは、休みましょ」

「さんせ~だわ。さすがにもう、クッタクタだもの」

「そうですわね……本当に、疲れ果てましたわ……」

 彼女等の会話は、皆の総意であった。

 休息を取りたい。何かを考えるにしても、その後だと。誰もがそう思っていた。

「まだ陽は高いけれど……寮に帰って、ベッドに転がりたいわねぇ」

「同意いたしますわ」

「アタシはご飯が食べたいのだわ。お腹ペコちゃんで死んじゃいそうだもの」

 腹の虫を鳴らすシルフィーに、イリーナとジニーは笑った。

 実感が湧いてくる。平穏が戻ってきたのだと。

 今はこの場に居ないアードもまた、いずれは。

 と――そのように考えた瞬間。


「残念、だけれど……再会の場面を、描くつもりは、ない……」


 天空より、声が飛んでくる。

 イリーナとジニーには、聞き覚えがあった。

 記憶が確かなら、それは。

「……嘘でしょ」

 皆がそうするように、イリーナもまた蒼穹を見上げ、そして。

 相手の姿を視認したことで、苦渋を味わう。

 白服を纏った青い髪の少年。

 間違いない。アレは、神を自称する存在だ。

「僕達は、基本的に……世界へ、直接的な干渉が、出来ない……だから、予期せぬ過程を経ることは、ときたまあるけれど……定めた結末は、決して、変わらない」

 青い空に、歪みが生じた。

 それはまさに始まりの合図。

 連続してやってきた絶望を前にして、オリヴィアが一言。

「やはり、虚言の類いではなかったか」

 誰もが心のどこかで、メフィストの言葉に疑いを持っていた。

 世界の終わりなど、訪れはしないのでは、と。

 真剣なふりをして、虚言を吐き、こちらの反応を楽しんでいたのではないか、と。

 だが今。

 皆の考えを否定するように。

《邪神》をも遙かに超えた脅威が、世界に牙を剥いた。


「さぁ……終焉の、始まりだ……」



◇◆◇


 世界に対し直接的な干渉が出来ない。そうした言葉はきっと、偽りないものだったのだろう。神を自称する少年が行ったことは、自らの手による破壊、ではなかった。

 巨獣である。

 ただ一体の、巨大なる獣が召喚され……

 その日、ラーヴィル魔導帝国は、半壊した。

 王都にて突如出現した怪物に対し、現代における最強戦力が抗戦。

 しかしその結末は、あまりにも無惨なものだった。

 終焉の獣が暴れ始めてからすぐ、ヴェーダがこれを別の土地へと転送。

 そして、人気のない平野にて第二の決戦が開幕し……彼等は、敗れた。完膚なきまでに。

 そもそも、それは戦いですらなかった。巨獣は攻撃の全てを無視して侵攻。周囲にあらん限りの破壊を振りまき……二五の村と街と村が滅んだ。

 それと時を同じくして。

 巨獣が、世界全土に出現。

 村を。街を。国を。一斉に、蹂躙し始めた。

 その行いに慈悲はない。遊びもなければ、慢心もない。

 滅ぼす。

 ただ、それだけだった。


 そして――災厄の始まりから、一月後。

 イリーナ・オールハイドは、そこに居た。


 王都の一角に構える、集合墓地。

 並び立つ墓標の一つを前にして、彼女は語る。

「この前、サルトワ大陸が危ないって話、したわよね? ……昨日、滅んだわ。新種の巨獣が現れて、一発で大地が消し飛んだって、オリヴィア様が言ってた。それで……現地に居たヴェーダ様が、行方知れずになった、らしいの」

 たった一月。

 そんな短期間で、奴等は世界に甚大な被害をもたらしていた。

 イリーナにとって無関係な存在、だけでなく。

 見知った者達もまた傷付き、斃れ続けていた。

「一人、また一人と、日を重ねる毎に居なくなっていく。……夢なら覚めてほしいって、もう何度思ったかわかりゃしない」

 けれど、一向にその瞬間は訪れず。

 なればこそ、夜を越える以外に進むべき道はなかった。

「……ねぇ、アード。あんたはきっと、あたし達のことを信じてくれたのよね。自分が居なくても、この世界を守り続けることが出来るって、そう信じてくれたのよね」

 でも、と前置いて。

 イリーナは瞳を涙で濡らしながら、言った。

「情けないけど、アードが居なきゃ、あたし達……!」

 零れ落ちそうな涙を。

 漏れ出てくる弱音を。

 しかし、イリーナは寸前で堪えた。

 挫けたなら、そこで終わりだ。

 たとえどのような絶望を前にしても、折れてはならない。

 この世界は親友から託されたもの。

 自分はそれを守らねばならぬと、イリーナは決意している。

 そうだからこそ。

「……二日前、王都の近くに新しい巨獣が出現してね。オリヴィア様が討伐しようと、したんだけど……負けちゃった。今、あの人は左腕を失って……意識が、ない」

 しかし巨獣は活動を続けている。

 村や街を滅ぼしながら、今もなお北上しており……

 明日には、この王都に到達する。

 そうした状況を前にして、イリーナは。

「逃げられない。逃げちゃいけない。あたしは、アードの代わりだから。アードの分まで、皆を守らなくちゃ、いけないから。……討伐隊に、志願したわ」

 近しい友人達も同じだった。

 ジニー、シルフィー、そしてエルザード。

 彼女等と肩を並べ、明日、出陣する。

 それがどういうことか、イリーナは十全に理解していた。

 楽観もなければ自負もない。

 この二月で、それらは脆くも崩れ去った。

 当初、口癖のように言い続けた「なんとかなる」という言葉も、今はもう二度と吐くつもりになれない。

 だが……イリーナの内心に悲観はなかった。

 あるのは、勇気だけだ。

「負けないわよ、あたしは。アードが帰ってくるまで、立派に役目を果たしてみせるわ」

 瞳に闘志を宿し、宣言する。

 だが、その心には、当たり前の弱気が隠れていて。

 イリーナは終ぞ、それを誰にも見せることなく――


 親友の墓前にて、決意を表明した翌日。

 全てが予想された通りに動いていた。


 明朝。

 王都の目前に広がる、平野にて。

 討伐隊が巨獣を迎え撃った。

 一流の魔導士を中心とする、数万規模の軍勢。

 王都より定期的に繰り出される、支援魔法の数々。

 それだけではない。

 総指揮を執るのは、かの大魔導士夫妻と英雄男爵である。

 一〇年前に復活した《邪神》を見事討伐し、世界を救った三人の大英雄。

 その参戦は兵の士気を大きく向上させ、希望をもたらしてもいたが……


 だからこそ。

 敵方によってもたらされた絶望は、ことさら彼等を苦しめた。


 相対する巨獣。

 その姿はまるで、足が生えた大山……あるいは、子供の落書きといったところか。

 天に届くほど巨大な三角形の体。それを支える、糸のような三本足。

 外見からしてまっとうな生物ではない。そもそも、生物であるかもわからない。

 だが、英雄達の内心に怖じ気はなく。

「総員、放てぇッッ!」

 号令と共に、ジャックが火球を放った。

 これに従う形で、討伐隊による攻勢が開幕。

 万単位の攻撃魔法という、文字通り桁外れのそれだけでも、十分に威容と呼ぶべきものだったが……

「デカいだけの、ウスノロがぁッ!」

「オリヴィアに代わって、大暴れしちゃうのだわッ!」

 狂龍王・エルザード。

《激動》の勇者、シルフィー・メルヘヴン。

 両者による大技が混ざり合ったことで、討伐隊がもたらす破壊の嵐は一層、恐るべきものへと変じた。

 が――

「Uhhhhhhhhhhh」

 ソプラノボイス。

 まるで歌声のようなそれが、巨獣から放たれた、次の瞬間。

 攻勢の全てが掻き消された。

 三角形の肉体から放たれし無数の光線。

 それは神話に名を刻む怪物(エルザード)英雄(シルフィー)、両名の大技さえも消し飛ばして。

 ただの一撃で、討伐隊は半壊へと追い込まれた。

 地上を薙ぎ払った光線を直撃した者はあえなく消滅。

 発生した衝撃波による副次被害も尋常ではない。

 ある者は全身をバラバラに引き裂かれ、ある者は手足を失い、ある者は意識を喪失。

 イリーナは、運良く生き延びた。

 その隣に居たジニーもまた。

 シルフィーとエルザードは光線の射線上に立っていたが、防壁の魔法によってどうにか攻撃を防ぎ、軽傷を負った程度。

 しかし。

「パパ……! ジャックおじさん、カーラおばさん……!」

 三名の安否は不明。

 今はただ、無事を祈ることしか……

 いや。

 そうすることさえ、巨獣は許さなかった。

 追撃である。

 二射。三射。四射。

 ただの一撃で数万の軍勢を半壊させた超威力を、容赦なく連発する。

 その姿勢には、一つの強烈な目的意識が込められていた。

 即ち……殲滅。

 生きとし生けるもの、ことごとくを消し去る。

 ただの一匹さえ、逃しはしない。

 巨獣とはまさしく、純然たる殺意の具現化であった。

 まるで地表を掃除するかのように、命を散らしていく。

 そんな地獄のような光景の中で。

 イリーナ達も、例外ではなかった。

「っ……! エルザード、あんた……!」

「ボクのことなんか、どうでも、いい……! 君が、無事なら……!」

 イリーナを庇い、重傷を負ったエルザード。

 竜族の治癒能力は、しかし、いつまで経っても機能しなかった。

 巨獣の攻撃は治癒の効果を打ち消してしまう。

「ハァ……! ハァ……! ミス・イリーナ……!」

 地面に倒れ込むジニー。

 その瞳にはまだ、闘志が残されていた。

 だが……彼女の負傷はあまりにも甚大で、立ち上がることは出来なかった。

「まだ、まだぁ……!」

 気迫を放つシルフィー。

 彼女は比較的軽傷であったが……

 手にした聖剣は。姉貴分(リディア)から引き継いだ大切な相棒は。

 その美しい刀身を、半ば以上、失っていた。

「エルザード……ジニー……シルフィー……」

 傷付いた友。

 失われた命。

 それらを前にして、イリーナは。

「負けて、たまるもんですかッ……!」

 聖剣・ヴァルト=ガリギュラスの柄を握る手に力を込めて、巨獣を睨む。

 出来たのは、それだけだった。

 反撃しようとする直前。

 再び、光線が襲い来る。

 シルフィーはジニーを、イリーナはエルザードを抱え、どうにかこれを回避。

 だが、直撃を避けてもなお。

 衝撃波は彼女等の全身を打ち、四方八方へと吹き飛ばした。

「ぐ、う……!」

 動けない。

 まるで地面に張り付けられたように。

 イリーナは、起き上がることさえ、出来なかった。

「負け、て……たまる、か……!」

 仰向けの状態で、巨獣を睨む。

「死んで、たまる、か……!」

 その言葉を嘲笑うように。

 次の瞬間。

 光線が、やって来る。

 されど――そんな特大の絶望を前にしてもなお。

 四人、誰もが、諦めようとはしなかった。

 皆、同じ気持ちを抱いている。

 皆、同じ男の姿を思い描いている。

 アード。

 アード・メテオール。

 こんなときに、彼が。


 彼が、自分達を助けに来ないわけが、ない。


 もし巨獣に自己意思があったとしたなら。

 きっと彼女等の思考を嘲笑うだろう。

 絶望を前にした人間の哀れな妄想であると、揶揄していただろう。

 だが。

 そんな、都合のいい妄想を。

 そんな、ありえぬ現実を。

 実際のものとするがゆえに。


 その男は、アード・メテオールなのだ。


 イリーナ達が光線によって命を失う、寸前。

 煌めく黄金色の防壁が、彼女等を守った。

 いかなる物質、概念をも破壊してきた巨獣の一撃。

 なれど。神に遣われし、終焉をもたらす者でさえ。

 彼の力には及ばない。

 そのとき。彼女等は、見た。

 天空に走った亀裂を。

 そこから舞い降りた、一条の光を。

 それはやがて人の形を作り……

 美の化身めいた存在(、、、、、、、、、)へと、変わった。


「――やれやれ。帰還して早々、荒事とは。私もつくづく運がありませんねぇ」


 唇の間から漏れ出た声もまた、あまりにも美しい。

 彼が何者であるのか、外見だけで判断することは困難であった。

 別人のような変化が、そこにはあった。

 しかし、それでも。

 イリーナは一瞬で理解した。

 ジニーは一瞬で感じ取った。

 エルザードは一瞬で把握した。

 シルフィーは――――

「えっ、ヴァル? なんでヴァルがここに居るのだわ?」

 ――シルフィーだけは、いつも通りだった。

「いや、君、今まで気付いてなかったの? 嘘でしょ?」

「えっ? 何が?」

 別々の当惑を見せる両者。

 そんな二人を天から見下ろしながら。

 男は。

 彼は。


 ――俺は。


 久方ぶりの友人達へと、声を送った。

「皆さん。不肖アード・メテオール、ただいま帰還いたしました」

 応答の声はない。

 シルフィーは唖然とした顔で沈黙。

 エルザードは安堵したように微笑。

 イリーナとジニーは、大粒の涙を流しながら、こちらを見つめている。

 ……もっと早く帰還出来ていたなら、彼女等を泣かせることもなかったろう。

 いや、しかし。

 それを我が責任とするには、いささか抵抗がある。

 何せ元凶は、俺の不手際ではなく。

 リディアの馬鹿がヘマをしやがったからだ。

 あの別次元世界は、異世界同士を繋ぐ通路のようなもの。

 よってこの世界以外にも、行き先はそれこそ無限に存在する。

 だが、まさか。

「……間違えるか? 送る世界を。あんな、粛然とした場面で」

 馬鹿野郎、もといリディアによって送られた世界は、俺が生まれ育ったこの土地ではなかった。

「……はぁぁぁぁぁぁ。思い出しただけで腹が立つ。あのクソ馬鹿、次会ったら対面して早々、殴り倒してくれる」

 天空にて悪態をついた……そのとき。

「Laaaaaaaaaaaaaaa」

 すぐ近くに居たそれが、なにやら音を放った。

 それに対し、イリーナは血相を変えて。

「ア、アードっ!」

 気を付けろと、そんな声だったが。

 今の俺からしてみると。

「La――」

「五月蠅い」

 虫だ。

 相手の存在が。

 相手の音が。

 俺にとっては、虫のそれだった。

 ゆえに。

 地を這うそれを潰すような感覚で。

 俺は、敵方を圧殺した。

 重力操作。

 敵の全身に掛かる負荷を数万倍へと増幅し、山のような巨体を豆粒サイズへと圧縮する。

 そうしてから、イリーナ達のもとへ降り立つと、

「アァアアアアアアアアアドォオオオオオオオオオオオオッッ!」

 イリーナが、飛びついてきた。

 ジニーもそのようにしたかったのだろうが……

「ふむ。足をやられましたか。では」

 彼女を再生するついでに、エルザードやシルフィーのダメージも回復した。

「……いや、ちょっと、これ」

「ア、アード君なら、当然、ではあるのですけれど……」

「おや? どうされました? 鳩が豆鉄砲を貰ったような顔をして」

 エルザードは言う。

 俺が倒したアレは巨獣と呼ばれる怪物で、その攻撃によって負わされた傷は、魔法、魔道具、いずれの方法を用いても治癒出来ぬのだと。

「なのに、どうして?」

「ふむ。おそらく、発動した力の性質が違うのかと」

「力の、性質?」

「えぇ。私が先程用いたのは魔法ではありません。超力(サイキック)と称されし、異世界の業です」

「い、異世界の業……!?」

 そう。

 俺はただ異なる世界に飛ばされ、必死こいて戻ってきたというわけではない。

 あちらの世界でもさんざん面倒臭い事件に巻き込まれ続けてきた。

 その過程において、俺は新たな業を身に付けたのだ。

 結果として今、我が力は以前までとは比にならぬほど高まっている。

 ……もっとも、それは一つ、マイナスを生み出してもいた。

 そのことに関連する質問を、ジニーが口にする。

「と、ところで、アード君? その、お姿は?」

「あ~、それが、ですね。私としてもアード・メテオールとしての姿で皆さんと再会したかったのですが……強くなりすぎたことが原因、なのか。変装の魔法が機能しなくなりまして。別の姿になっても、数秒ほどで元に戻ってしまうのですよ」

 俺という存在は、あまりにも強力な定義になったのだろう。

 変装によってそれを捻じ曲げることは、もはや叶わない。

 ゆえに俺は今後、ヴァルヴァトスの姿で居続けることになるのだが。

「……このような私は、お嫌いでしょうか?」

「いいえッ! むしろ最ッ高ですわッ!」

 鼻血を出しながら叫ぶジニー。

 その横で。

 シルフィーがジットリとした目で、こちらを睨みながら。

「……王都に戻ったら、ちゃんと説明してもらうのだわ」

 なんというか。来たるべき時が来た、と。そんなところだな。

 俺は彼女に首肯を――

 返したと、同時に。

「Laaaaaaaaaaaaaaa!」

 潰したはずの巨獣が復活した。

 なぜだか、六体に分裂して。

 ――されど。

 誰一人、不安など見せることはない。

「アード」

「アード君」

「アード・メテオール」

「……今は、アードって呼ぶのだわ」

 信頼。

 声と眼差しでそれを表明されたなら、返すべき意思は一つしかない。

「安心していただきましょうか。皆さんだけでなく、この世界に住まう人々、全てに」

 その足がかりとして、皆に我が姿を焼き付けよう。

 イリーナ達、だけではなく。

 まだ残っている者達に。

 そして――喪われた、者達に。

「いかな道理があろうとも、今の私はそれを無視出来る。命の喪失さえも、また」

 次の瞬間、巨獣の犠牲となった者、全てが復活した。

「えっ……? お、俺……?」

「し、死んだ、よな? 間違いなく」

 人々の困惑を前に、俺は微笑し、それから。

「では、片付けて参ります」

 天へと飛翔し……イリーナ達を始めとする、多くの人々がこちらを見守る中。

「今の私は《魔王》を超えた存在――さしずめ、《大魔王》といったところでしょうか」

 世界を終わらせんとする獣へ、俺は宣言する。

「来るというのなら、どうぞご自由に。そのことごとくを掃討しましょう」

 終わらせない。そんなことは、絶対にさせない。

 俺はこの世界を守る。

 大切な者達が住まう、この世界を。

 いずれ、愛する(リディア)を迎え入れる、この世界を。

「さぁ――どこからでも、かかってきなさい」

 微笑と共に。

 

 ――俺は新たな戦いへと、身を投じるのだった。


 本日、最新10巻が発売となります。


 また、本作と併せて、新作「グールが世界を救ったことを私だけが知っている」が発売いたします。

 こちらコミカライズが決定しておりまして、「となりのヤングジャンプ」様にて連載させていただくことになりました。


 それでは――

 ここまでのお付き合い、たいへん、まことに、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ