*番外編*ある騎士団員たちの集い2
難しく考えなくても良い話が書きたくて、こちらの続編を……笑
魔物討伐から帰った数日後くらいのお話です。
「……ねえ。これ、まだ続いてたの?」
「……みたいだな」
ある秋の夜長。
ふらりと散歩していたルナとサクは、偶然独身寮のある部屋の前で出会った。
そういえば少し前、奇妙な騎士達の会合が開かれていたのがここだったなと、ルナはその時のことを思い出した。
それでなんとなく部屋の中に目を向けたのだが、それがいけなかった。
「それではこれより、第二十五回、我らが天使ティアちゃんのかわいさを語る会を開催する!」
「「「「「いえーい!」」」」」
ぴーぴーと盛り上がる室内、聞き覚えのある会の名称が耳に入り、ルナは脱力した。
それから一通り騎士達の報告が終わり、相も変わらぬこの会合の様子に、窓の外でルナがげんなりしていると、こほんとひとりの騎士が咳払いをした。
「さて、今日は我々以外にも参加希望の者がいるので、ここで紹介したいと思う」
「希望者?」
「誰よ……まさか、あんたの主人の父親じゃないでしょうね」
サクが首を傾げ、ルナが嫌な予感がするわと眉を顰めると、歓談室の扉が開かれた。
「ここに来ればティアちゃんのかわいさについて語れると聞いて……」
「独身寮でのティアちゃんについて、教えて下さい!」
「「「よろしくお願いします!!」」」
現れたのは、先日の魔物討伐に参加していた騎士達だった。
実家から通う者や家庭持ちの騎士達で、訓練の休憩時間にこの会合の噂を聞き、こうして駆けつけたようだった。
「……あのチビ、美味いメシ作ったり水の補給を率先してやったり、やたらと世話焼いてたもんな」
ぼそりと呟いたサクの言葉を横で聞きながら、ルナは口をあんぐりと開け、放心状態だった。
「ちょっと待った」
わいわいと新しい同胞達を歓迎しようというムードの中、ひとりの騎士が希望者たちに厳しい視線を送った。
「!きっとこんな恥ずかしい会、寮外にまで広めるのは止めようっていうのね!?良かったわ、まだまともな人間がいて――――」
「テストを行おう」
「……は?」
一瞬、その騎士の真剣な表情に期待して意識の戻ったルナだったが、続けて発せられた言葉に、再度固まることになった。
「この会は、ミーハーな心で参加されても困るんだ!俺たちはただティアちゃんをかわいがっているだけじゃない!その幸せを願い、望みを叶えるために情報を共有しているんだ!一度遠征を共にしたからといって、軽々しく仲間扱いすることはできない!」
「た、確かにそうだ……」
「そうだな、テストが必要だ!」
「「…………」」
俄然盛り上がる古参メンバー達の言葉に、ルナだけでなく、さすがのサクすらも石化してしまう。
しかし、ちょっとだけ良いことを言っているような気もして、否定はできなかった。
そうして、窓の外から精霊たちに白い目で見られているとは露知らず、室内ではよく分からないテストが始まってしまった。
「よし!それではまず、ティアちゃんのどんな姿を見てこの会に参加したいと思ったのかを、それぞれ話してもらおうか!」
なんだそれ……とのサクの突っ込みなどもちろん聞こえるはずもなく、参加希望者達はすぐさま手を挙げた。
「はい!私、討伐初日の夕食作りをご一緒させてもらったんです。最初はちっこくてかわいいなーくらいに思ってたんですけど、遠慮しながらも丁寧に指示してくれる姿が微笑ましく、簡単なことをしただけでもちゃんとお礼を言ってくれて……。母や姉(我儘放題の貴族夫人・令嬢)を見てきた私にとって、すごく癒やしだったんです」
騎士の面々は貴族の出身であるし、任務で高慢な令嬢達の護衛をすることもあるため、これには多くの同意が集まった。
それゆえ、謙虚さと可憐さを持ち合わせたティアへの好感度がかなり高いのだろう。
「オレには、今年十三になる娘がいます。騎士団の任務が忙しくてなかなか構ってやれなかったオレが悪いんですけど、最近オレのことを透明人間扱いするんです……。嫌うならまだしも、いないもの扱いはキツくて……」
まあまあブラックな騎士団に在籍していると、こういう話はよく聞く。
この騎士に対しても、皆が憐れみの眼差しを向けた。
「そんな時にティアちゃんに出会ったんです!こんなおっさんの名前を覚えてくれて、食事の配膳の時にはお疲れ様でしたって声をかけてくれて……。ああ、娘にも優しくしてやれば良かったって激しく後悔しています!娘にできなかった分も、ティアちゃんを愛でたい!」
それはちょっと違うのでは……と何人かが思ったが、主にクリスのシゴキを体験している第一部隊の隊員たちや年頃の娘を持つ者は、仕方ないよな、気持ちは分かると涙を流した。
――――世の奥様方、娘さん方。
疲れて帰宅するパパに癒やしを与えてやって。
でないとこうなっちゃうから。
……ただ、あんた達もこんな時間にこんなことしてないで、早く帰って家族サービスしなさいよ。
ルナは死んだ魚のような目をしながらそう思った。
「よし、では次だ!ティアちゃんが大人になったらどんな女性になるか、未来予想を各自述べてみろ!」
はい!はい!と、これには先程よりも勢いよく手が挙がった。
「間違いなく美人ですね!それでいて変わらず優しくて、料理上手で……。よ、嫁にしたいです!」
「馬鹿野郎!誰がテメェなんかの嫁にやるか!そうだな、俺は今流行りのつんでれとかいうヤツになると思うな!しっかり者だから、だらしない俺に怒りつつも、『……もう、あなただから許すんだからねっ!』とか言われてぇ!」
いやオレなら、いやいや私は……!と、生産性のない話で室内のボルテージは最高潮になった。
「「…………」」
「信者、こわ……」
「男ってホント馬鹿」
窓の外で行く末を見守っていたふたりの精霊たちは、ひどく疲れた顔をしてそれぞれの主のもとへと帰ったのだった……。




