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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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月の夜の魔法1

「……ちょっとだけのつもりだったのに、飲みすぎちゃったみたい」


調子に乗ってグラスを傾けていたら、いつの間にかボトルの半分を開けてしまっていた。


でもほろ酔い程度だし、頭だってハッキリしている。


「それほど酔いはまわってないけど……顔が赤くなるタイプみたいね」


頬に手を添えてみれば、ほんのり熱を持っているのが分かった。


前世でも、実家に暮らしてた時はお父さんと一緒によくお酒を飲んでたけど、すぐ顔が赤くなっていたからお母さんに心配されて、大丈夫だいじょーぶ!って真っ赤な顔で返してたっけ。


……お父さん、お母さん、みんな。


私が死んでからも、元気にしてるのかな……。


アルコールが入ったからだろうか、今までになく感傷的になってしまう。


どうしようもない事だと分かっているから、前世の記憶が戻ってもそういうことは考えないようにしてきたのに。


じわりと目に涙が溜まっていくのを、指先で拭う。


こんなところで泣いたって、仕方がない。


いつルナが戻って来るのか分からないのに、心配をかけるだけだ。


気持ちを切り替えないと。


そこで目を閉じると、大きく息を吸い込み、ゆっくりと深呼吸をする。


吸って、吐いて。


随分と落ち着いてきたなと思ったところで、静かに目を開く。


うん、もう大丈夫。


でも、今度はちょっぴり酔いがまわってきた気がする。


ふうっと吐いた息からは、少しだけ熱を感じた。


「少しだけ、風に当たろう……」


時計を見ると、十時を少し過ぎた頃だ。


恐らく、ほとんどの騎士はまだ宴の席にいるだろう。


ほんの数分外の空気を吸うくらいなら、誰にも見咎められることもないはず。


「でも、さすがに元の姿に戻っておかないとね。えーっと、ティアの姿をイメージして……」


精霊王様の言っていた通りにティアの姿を頭に浮かべると、少しずつ目線が低くなっていく。


しばらくして鏡を見ると、そこにはすっかり見慣れた幼女の姿があった。


「……なんだか、すっかりこっちの姿に馴染んじゃったわね」


ぺたっと鏡の中の自分に触れる。


ティアとしての今の生活に、不満はない。


クリスさんのことも、嫌われるかもしれないけれど、自分にできることをするだけだと決めた。


でも、それでも不安はある。


今が楽しければ楽しいだけ、セレスティアに戻れるのだろうか、戻りたいと思えるのだろうかという気持ちになる。


クリスさんのことだけじゃない、“ティア”の存在が大きくなればなるほど、“セレスティア”のことを忘れてしまいそうになる。


陛下やベンデル男爵、セシルさんなど数名がセレスティアを知っているということが、せめてもの救いだ。


ずっとこのままではいられないと、分かっていたはずなのに。


「……蒸留器のことが一段落したら、陛下に相談してみよう。私一人で決められることでもないし」


後回しにしてしまうようだけれど、今のお酒の入った頭では、冷静に考えられそうにもない。


ああでも、陛下に相談する前にルナにも話さないと。


何で話してくれなかったの!と怒られてしまう。


ぷんぷんしながらも私を心配してくれるだろう、小さな友達の姿を思い浮かべて、くすっと笑みを零す。


少しだけ気持ちが落ち着いたところで、そっと自室を出る。


風に当たって頭が冷えたら、ベッドでゆっくり眠ろう。


ぐっすり寝れば、朝にはきっと元気になっているから。


食堂で騎士たちが騒いでいる声が、遠くから響いてくる。


静かすぎると気分が沈んでしまうだろうから、これくらいが丁度良い。


廊下を歩いてバルコニーから庭に出る。


エーレンシュタイン家のような広さはないが、ケイトさんが手入れをしている花がいくつか植えられていて、十分素敵な空間だ。


秋の夜風は少し冷たいが、酔って熱を持った頬にはそれが心地良い。


それにしても子どもの姿に戻ったからなのか、廊下を歩いてきたからなのか、先程よりも体が火照る。


そういえば前回はコップの半分以下の量で酔ってしまったみたいだし、もっと酔いがさめてからティアの体に戻るべきだったのではないか。


普段ならそのことにすぐ思い立ったはずだが、お酒のせいで思考力も低下していたのかもしれない。


しまった、そう思いながらとりあえず庭園に置かれたベンチに腰を下ろす。


ふうっと息をつくと、心臓がバクバクと鳴り響いているのに気付く。


このまま倒れてしまうのは非常にみっともない。


とりあえずしばらく座っていて、この鼓動だけでも落ち着いたら、ゆっくり部屋に戻ろう。


明日は二日酔いも覚悟しないとな……とため息をついた時、近くの茂みからガサッと音がした。


誰かいる?


ひょっとして、いや、そんなはずは……。


「ティア……?どうしたんだ、こんな時間に、こんな所で」


その声に振り向くと、現われたのは予想通りの人物で。


「クリスさん……」


どうして私が困っている時に来てくれるのはいつもこの人なんだろう、そう思いながらくしゃっと苦笑いを零した。

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