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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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新商品を開発しよう1

陛下とベンデル男爵への報告を終えた後、私の生活は少しずつ元に戻りつつあった。


しばらくお休みしていたお店も、普段通りの頻度で開店するようにして、新作も並べている。


今日も常連の女の子たちの賑やかな声が店内に響いていた。


「わ、イニシャル付きのハンカチ?かわいいわね!」


「ご自分の名前に合わせた文字のものをどうぞ。贈り物にも喜ばれますよ」


イニシャルの刺繍をしたハンカチ、先日のベンデル男爵とのやりとりから、お店の新商品にしても良いなと思ったのだ。


イニシャル付きは“自分のもの”感があって、オーダーメイド気分になれる。


平民の人には、ちょっとした贅沢を感じてもらえるのよね。


ちなみに幸運の魔法を付与してはいるが、刺繍糸は普通のもの。


さすがに魔物の素材は使っていない。


いくら私でも、それくらいの常識はある。


「素敵!色も選べるんだ」


「はい、ピンク、ブルー、イエローからお好きなものをどうぞ」


女の子達が、きゃあきゃあと夢中で選んでいる。


うんうん、やっぱり女の子のこういう姿ってかわいいわよね。


「そうだ。イニシャルものがお好きなら、こんなものもありますよ」


そう言って私が取り出したものを見て、女の子たちは目を輝かせた。


「「「か、かわいー--い‼」」」







「あら、ティアちゃん。父さんなら、奥で作業中よ」


「ありがとうございます、リナさん。お邪魔します」


店番をしていたリナさんに挨拶をして、もう慣れ親しんだ作業場までの廊下を歩いていく。


「こんにちは。この間はお世話になりました」


「あら、ティアちゃん!待ってて、もうすぐキリが良いところで休憩するつもりだから」


今日訪ねたのは、グレンさんのお店だ。


先日、蜘蛛型の魔物から取れた糸を使って弓矢を作るのに、数日間足を運んでいたのだ。


もちろん糸を使ったのは、弓の弦。


ジャイアントスパイダーの糸を利用して、火属性効果付きの弓矢を作ろうと思ったのだ。


矢じりはともかく、弓を作ったことがなかった私は、グレンさんに相談して知り合いの武器職人を紹介してもらった。


魔導具師のチートスキルで割と何でも作れはするが、やはりその構造や仕組みを理解しているのとしていないのとでは、出来上がりが全然違う。


ある意味魔法だからね、イメージがしっかりしていることが大切なのよ。


魔法付与のことがバレてしまうので、職人さんとは普通の作り方を特訓し、色々と事情を知っているグレンさんのお店でアドバイスをもらいながら試作品を作っていた。


まあ、それだけじゃないんだけど……。


「そういえば、アイザックも後から来るって言ってたわねぇ。丁度良いわ、みんなでお茶しましょ♪」


ぱちこーんとグレンさんのウインクが飛んだ。


「この人も相変わらずよね……」


「あはは……」


例によって肩に乗ったルナも認める、綺麗なウインクだ。


やろうとすると顰めっ面になってしまう私とは大違いである。


まぁ練習して上手く出来るようになったところで、誰を相手にするんだって話だけど。


私、そんなキャラじゃないし……。


あ、シャーロットならやっても不自然じゃないかも?


やっぱりああいうかわいい系の子は何やってもかわいいもんね……。


ちょっぴり卑屈な考えを持ちながらぼぉっとしていると、接客カウンターのある部屋の方からアイザックさんの声が聞こえてきた。


「お待たせ。あら、アイザックも来たみたいね。行きましょ!」


丁度グレンさんも一息ついたみたいで、休憩室でお茶することになった。


「んーっ、ティアちゃんお手製のチーズケーキ、美味しいわぁぁ」


「ん、本当に美味いな。んで?お嬢の今回の新作は何だ?」


先日のお礼にと焼いてきたチーズケーキは、おふたりの口に合ったようだ。


ルナもこっそり陰でぱくついている。


ちなみにアイザックさんは、私の呼び方を“おチビちゃん”から“お嬢”に変えた。


本当の年齢を知って、おチビはないなと思ったらしい。


でも元日本人の私からすると、お嬢という呼び方は、恐い顔の人が沢山いるお家の娘さんぽくて呼ばれ慣れない。


「これです!グレンさんにもお手伝いして頂いてるんです」


「そうなのよぉ。カッワイイでしょー?」


アイザックさんに見せたのは、小振りのチャーム。


チェーン部分も合わせて女性の掌に収まるくらいのもので、イニシャルを形どったものと小さな宝石がはめられた細工のものとを一緒にチェーンで留めてある。


「自分のイニシャルのチャームと、好きな色の宝石をカスタマイズできるようにしたんです。昨日も常連の女の子たちに大絶賛されて、ハンカチと合わせてお買い上げ頂けました!」


ほくほく顔でそう話すと、アイザックさんが頬を引き攣らせた。


「お前さん……よくもまあそうホイホイ何でも思い付くな。ついこの間王宮に新しい魔導具の報告に行ったと言ってたのに、雑貨屋の新作まで……」


「スゴイわよねぇ!弓の試作品を作っている時にチャームの話を聞いて、アタシもお手伝いすることにしたのよ」


「イニシャルと石の種類も増やすとなると、私だけじゃ手が足りませんから……。グレンさんが手伝いたいと言って下さって、本当に助かりました!」


武器も作っているグレンさんだが、カトラリーなど繊細な仕事を得意としている。


その伝手で宝石は宝石でも、平民が手を伸ばしやすい屑石を安く仕入れてもらい、チャームに付けられるよう細かな金属で細工を作ってもらっているのだ。


イニシャルの方は私の仕事。


こっちはスキルのおかげで、ハンマーを一振りすればイメージ通りの形に作れる。


でも石をはめた細工はちょっと時間がかかるので、こんなの作りたいと思ってるんだけど時間がないんですよね〜と世間話でグレンさんにぼやいたところ、協力してくれることになったのだ。


いくら魔導具師がチートでも、ひとりでできることには限界がある。


本当にグレンさんには感謝だ。


「しかも、石の色によって様々な効果があるのよ?すごいでしょ」


そんなグレンさんも、アイザックさんにノリノリで説明してくれる。


「ピンクのローズクオーツが恋愛運、黄色のシトリンは金運、紫のアメジストが精神安定で青のラピスラズリが全体運だったわよね?あーん、アタシ全部欲しいわぁぁ!」


「お前……。いやそれよりも、宝石の色で効果が違う、か」


「はい、実は石には元々様々なパワーが込められているんです。だから普通の素材に魔法を付与するよりも、効果が高いんですよ。まあこのチャームの宝石はかなり小さいですし、魔法付与のことがバレても困るので些細なものですけど」


前世でもパワーストーンとかあったわよね。


それと同じように、この世界の宝石にも様々な力が込められている。


ある程度の大きさの石を使って、元々持つ力を高めるように魔力を込めれば、効果は抜群だろう。


「……それ、良いな」


急に真面目な顔になったアイザックさんに、私は首を傾げるのだった。

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