腹黒国王のひとりごと1
「これはまた……。規格外だと知ってはいたが、随分色々と作ってくれたものだね」
「ちなみに陛下、野営用のテントの改良案も彼女から出されまして。職人たちに伝えて、試作品を作っている段階ですよ」
急遽二泊三日となった討伐から無事に帰ってきて、二週間が経った。
この二週間、それはもう、魔導具を作って作って作りまくった。
もちろん家政婦の仕事は疎かにしてないけどね。
あ、でもお店はちょっとお休みする日が多かったかな……。
作るだけ作って開発欲求がずいぶん落ち着いたから、またいつもの開店ペースに戻さないと。
そんなこの二週間の成果を携えて、今私は王宮の応接室に来ている。
陛下とベンデル男爵の前で、その魔導具たちを披露しているところだ。
「どうやら討伐の同行は、とても有意義なものだったらしいね。参加した騎士達からも、いつもよりも快適で遠征時の憂いも少なかったと聞いているよ」
先程は少し呆れ顔だったランドルフ陛下だが、今はご機嫌な様子で私を褒めてくれた。
……たぶん、何か腹黒いことを考えているのだろう。
にこにことした微笑みの奥に、黒い何かが見える。
「……なんですか、おだてても何も出ませんよ」
「嫌だなぁ、素直に受け止めてほしいね。思っていた以上に頑張ってくれているから、嬉しいんだよ」
本当にそれだけなのだろうか。
不敬だと思いつつもジト目で陛下を眺めていると、コホンとベンデル男爵が咳払いをした。
「うむ、まあセレスティア嬢の気持ちはよく分かる」
「おやおや、随分と悪者扱いしてくれるじゃないか。まあ良い。さて、それではひとつずつ詳しく説明していってくれるかい?鑑定で粗方“視”させてもらったけど、君の口から聞きたいからね」
本題に戻ったところで、私もぴんと背筋を伸ばす。
ここからはお仕事モードだ。
「ではまず、この水筒から。今回遠征に同行して実際に使用する中で、改良の必要があると思いました」
「騎士達からの評価は悪くなかったと聞いているぞ?それに見た目は以前見せてもらったものと変わらないが……どう改良したんだ?」
首を傾げるベンデル男爵に、討伐に参加した時のことを話し始める。
確かに休憩時に配給する手間が省けるし、持ち歩けることで好きに水分補給ができて便利だったが、なくなってしまった時の補給方法が限定されてしまう。
補給部隊の所で補給してもらうか、もしくは綺麗な水を作り出せるレベルの人に魔法で出してもらうか。
全員分の水を遠征に持ち運ぶのはなかなかに重いし、だからといって魔法で出すのにも魔力の消費量が少なくない。
でも、ある程度の品質の水は、ほとんどの人が魔法で出せる。
飲めるレベルの綺麗さを求めなければ、魔力の消費量も少ない。
それならば、水筒に水を綺麗にする魔法を付与すれば良い。
「水筒の内側に、水の中の不純物を取り除き菌を殺すよう魔法を付与してみました。これなら、魔力があれば誰にでも水を補給することができます」
遠征時でも濾過して煮沸すれば綺麗な水を作れるが、魔法付与を使えばそんな面倒な工程をすっとばせる。
「ほう……。では水筒に限らず、そういう魔導具を作っても良いかもしれんな」
「簡易蒸留器ってことですね。なるほど、それがあれば、災害が起こった地域やスラム街などでも役に立ちそうですよね」
「セレスティア嬢……今、なんと言った!?」
陛下の言葉に何となく思い付いたことを口にすると、ベンデル男爵が血相を変えて立ち上がった。
「え、ですから……被災地など飲み水の確保が難しい時に、便利だなぁって」
「素晴らしい!!」
そしてベンデル男爵は、がしっと私の両手を掴んだ。
「それが出来れば、たくさんの人命を救うことになる!飲み水というのは、それひとつで生死に関わるものなんだ!」
ベンデル男爵が真剣な面持ちでそう語る。
元々は騎士だったんだもの、魔物討伐だけじゃなく、たくさんの戦地や救助に赴いた経験があるのかもしれない。
確かに、水が絶たれたら人は生きていけない。
日本でも、災害時非常用に飲み水の備蓄はよく言われていた。
「気付いたようだね。君のそのアイディア、具現化できればものすごい発明になるよ」
陛下のこの笑み、ひょっとしなくても鑑定で“視た”時から分かってましたねー!?
さっきの腹黒い笑顔、あれはきっとこのことだ。
「い、いえ……。別に私はものすごいものを作りたいわけでも、目立ちたいわけでもないんですけど……」
「じゃあ、止めるかい?たくさんの人を救うことになるのは間違いないんだけどなぁ……」
ふうっとため息をつく陛下の様子に、ベンデル男爵がすごい顔で私を見た。
くっ……この国王、性格が悪すぎる!
そんなこと言われて、「目立ちたくないので作りたくありません」なんて言えるわけないじゃないの!!
そうじゃなくてもベンデル男爵の圧がすごいのに!!
もちろん断るわけないよな小娘、という心の声が聞こえてきそうなくらい、素晴らしい眼力で私を睨んでいる。
「が、頑張りま〜す……」
「そうかい!やってくれるかい!いやぁさすがセレスティア嬢だ、騎士達もますます喜ぶに違いないよ」
くそう、無駄に良い笑顔をして!
腹が立つから、今日はランディさん呼びもしないし、他人行儀な喋り方でこの後の魔導具の説明をすることにしよう。
私ができるささやかな抵抗は、これくらいだ。




