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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第一章

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黒の騎士1

焦っても泣いても事態は変わらない。それはよく分かっている。


だけど、だからといってどうにか逃げる方法も見つけられない。


相手はガタイの良い男三人。対するこちらは幼女の私と猫姿のルナ。


どう考えても詰んだ。


魔法を使うことも考えたが、人間相手に使ったことなんてないし、そもそも攻撃魔法なんて軽く習っただけで、いきなり実戦で使えるわけがない。


前世で弟とやっていたゲーム、それに出てきた魔法をイメージすればできるかもしれないけれど、不確定すぎる。


それに、下手に相手を刺激して被害が大きくなるのも避けたい。


どうしようかと思い巡らせている時に目に入ったのは、ルナ。そうだ、ルナの魔法!


「ねえ、時空の精霊ってことは、時魔法と空間魔法が使えるのよね?あいつらの時を止めたり、私達をここから空間転移(テレポーテーション)することはできる?」


「うう……。時を止めるのはできるけど、集中力がいるし、時間もかかるの。それに三人となると……」


確かに男たちは今にも襲って来そうだし、例えひとりの動きを止めたとしても、残りのふたりを刺激してしまうだろう。


「おいおい、猫ちゃんと仲良くおしゃべりかぁ?」


「まあ金目の物さえ渡してくれりゃあ、痛いことは何もしねぇからよ!」


ルナと小声で話していると、男たちが馬鹿にしたように笑う。


金目の物を渡せば何もしないって、本当かしら?


いやいやそれだけじゃ済まないよね、きっと。


よく分からないけれど、売られたりとかするのかしら?


そんなことになるくらいなら、いちかばちか――――。


ぎゅっと右手を握りしめて、魔法を放とうとした、その時。


「こんな所で何をしている?」


不意に聞こえた第三者の声に、驚いて私たちが振り向くと、そこには黒ずくめの騎士服を着た、長身の男性が立っていた。


それほど長くはない漆黒の髪、暗くてよく分からないが、目も深い色合いをしている。


格好からして、王宮の騎士だろうか?


少なくとも、こいつらのように狼藉を働くようには見えない。


「た、たすけ……」


「ぐあっ!」


「ぎゃっ!」


「うわあっ!」


助けを求めようと手を伸ばした瞬間、私達の周りを囲んでいた男たちが急に倒れた。


……え?


驚いて黒ずくめの騎士を見ると、剣を鞘に収めているところだった。


まさか、この人が?


恐ろしい程の速さと正確さ、剣のことはよく分からないけれど、きっとものすごく強いのだろう。


啞然としていると、ルナがてしてしと私の足を叩いた。


「あ、えっと。ありがとうございます、助けて頂いて」


慌てて騎士に近付きお礼を言うと、騎士はちらりと目だけを動かして私の方を見た。


「問題ない。どうやら、ギルド所属の荒れくれ者のようだな。それよりも、こんな時間に、こんな場所で子どもがひとり。一体何があった?」


うっ……!確かに疑問に思うのも当然だろう。当然だろうが、答えにくい。


まさかこんなことになるとは思っていなかったので、とりあえず孤児院で事情を聞かれた時用に考えていた設定を話す。


私はそれなりに裕福な商人の娘だったが、両親を不慮の事故で亡くし、孤児院を訪ねようとしていたこと。


そして追加で、森の中で迷子になってしまったが、怖くて眠ることも出来なかったので、町に出るまではと歩いていたところ、この男たちに絡まれてしまったことにした。


「……なるほどな。一応筋は通っている」


騎士は、三人の男たちをロープで縛りながらそう言った。


うん、一応納得してもらえたみたいだし、この設定でいこう。


その他は色々聞かれても、思い出して辛くなるから言いたくないとか、それらしいことを言っておこう。


設定を増やしすぎると絶対にボロが出る。私はそんなに器用な人間じゃないのだ。


口を開きすぎると、いらないことまで話してしまいそうだと思い俯いていると、騎士が静かに近寄ってきた。


「今まで辛かったな。泣かずによく頑張った」


どうしたんだろうと思い見上げると、ぽすっといきなり頭に温かくて大きな手が乗り、撫でられた。


こ、これは……!頭ぽんからのなでなで!?


しかも、先程まではあまり気に留めていなかったが、この人かなりの美形だ。


前世から今までを考えても、イケメンにこんなことをされた経験はない。


最初はただただ驚くだけだったが、恐る恐る撫でる仕草や、照れているのか頬が少し赤いのに気付くと、なんだかとても心がぽかぽかしてきた。


それと同時に、温かいものが目の奥にじんと滲む。


にゃあとルナが擦り寄ってきたら、もう我慢は出来なかった。


「……もう大丈夫だ。落ち着くまで待っているから、泣けばいい」


アンナ以外の人からの優しさに触れたのが久しぶりで、私は大人げもなくぽろぽろと涙を流してしまった。

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