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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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戦いの後に1

「みなさん、お疲れ様でした。予想外の二泊になってしまいましたが、しっかり食べて休んで下さいね」


蜘蛛の大群との戦いを終えた後、やっとほっとできたと思ったら、すぐに他の隊からの援軍要請が入った。


どうやら目撃情報のあったAランクの魔物が出たらしい。


そこで疲れ知らずのクリスさんや辺境伯はそちらの援軍に向かい、私はセシルさん達数名の騎士と一緒に野営の場所まで戻り、夕食の準備をすることになった。


予定よりも魔物に遭遇するのに時間がかかってしまったので、もう一泊することになったのだ。


討伐への同行はもう十分させてもらえたし、お腹を減らした騎士達の食事を作るのは、まあまあ時間がかかるからね、先に戻らせてもらうことにした。


そのAランクの魔物も無事に討伐完了となり、騎士達の大きな被害もなく二日目を終え、今は夕食の時間だ。


今日のメニューは、パンとビーフシチュー。


もちろんルーなんてものはないし、デミグラスソースもここでは無理。


だからトマトやケチャップ、コンソメを使った、なんちゃってビーフシチューを作った。


でもこれが意外と美味しいのよね。


「うまい!パンによく合うな!」


「予定外の二泊で材料が少ないはずなのに、こんな夕食が食べられるなんて思ってなかった……」


ちょっぴりお肉少なめになってしまったのだが、そんなことは気にせず、みんな美味しいと言って食べてくれている。


夜は少し冷えるから、温かい料理は美味しく感じるよね。


「いえ、肌寒いからということを差し引いても、これはかなり美味しいですよ。まあ、あなたの作るものはいつも美味しいですけどね」


そしてふたりで話したいという誘いを受け、私は今セシルさんとふたりきりで、みんなから少し離れたところに座っている。


まあルナが一緒だから、正確にはふたりきりではないのだけれど。


「あはは、そんな気遣ってもらわなくても大丈夫ですよ。王子様なんですから、高級で美味しい料理をたくさん食べているでしょう?」


セシルさんの社交辞令に、笑ってそう返す。


高級なものは食べ飽きたから庶民料理が珍しい、みたいな感じかしら?


「はぁ……全く、あなたのその謙虚なところはとても好ましいと思いますが、たまには素直に受け止めて良いんですよ?」


「う……」


呆れた顔のセシルさんに、何と返せば良いのか分からなくて、言葉に詰まる。


そう言われても、元日本人の性というか……。


「えーっと。では、はい、ありがとうございます」


とりあえず褒められたことへのお礼を口にすれば、にっこりと微笑んでもらえた。


あ、素敵な笑顔。


「ちょっと、ティア!」


セシルさんに表情に見惚れていると、こつんとルナに頭を叩かれた。


「この王子様、絶対何か企んでるわよ。ふたりで夕食食べながら話したいだなんて。油断しちゃダメよ!」


いくら姿が見えないし声も聞こえないからって、そんな本人の前で堂々と言っちゃう?


うーん、でも確かにふたりきりで話したいっていうのは気になるかも……。


「あの、それで話したいことって……?」


この話を続けても仕方ないし、ここは直球で聞いてしまおうと思い、意を決して口を開く。


すると、焚火の明かりに照らされて色を変えた綺麗な碧眼が、こちらを覗き込んできた。


「ええ、何か少し悩んでいるみたいでしたから、気になって」


うっ……!セシルさん、鋭い!


「あはは……別に、大したことじゃないんです」


「大したことないって顔ではありませんでしたよ?……クリス隊長のこと、ですよね?ひょっとして、女性嫌いの話でも聞きましたか?」


ほぼ確信めいたセシルさんの問いに、ぎくりと肩を揺らす。


「〜〜っ、どうしてそんなに分かってしまうんですか……」


これはもう誤魔化せないと観念した私は、ぽつぽつと胸の内を明かしていく。


セシルさんは、私の本当の身分も年齢も知っているから、すぐに悩みに気付いたらしい。


少し話しただけで私の言いたいことを理解してくれたのだが、最後まで黙って聞いてくれた。


「――――それで、嫌われるんじゃないかって怖くなっちゃったんですね」


「はい……。事情はどうであれ、私はみんなを騙していることになるんだなということに急に気付いて。それでも、みんなは笑って許してくれそうですけど……」


多分だけど、騎士達はそんなの関係ないと言ってくれそうだ。


それくらい懐の広い人達だし、それなりの信頼関係を築けたと思うから。


けれど、そんな私の考えに、セシルさんは曖昧に笑った。


「……う〜ん、許すだろうけど、戸惑いはあるでしょうね。……色めき立つ奴も少なからずいるだろうし」


「え?ごめんなさい、最後だけ聞き取れなくて……」


「ああ、別に何でもないから気にしないで。うん、みなさん戸惑いつつも笑って許すと思いますよ。……でも、クリス隊長は違うんじゃないかって心配なんですね?」


こくりと頷いて俯く。


クリスさんは優しいから、騙していたことは許してくれるかもしれない。


だけど、女性嫌いとは、心のもっと深い部分の話だろう。


中身が(ティア)だと分かっていても、大人の姿の私(セレスティア)を受け入れられるかは、また別の話だ。


彼から嫌悪感を露わにされたら、私は平気でいられるだろうか?


「いつかは、本当の私(セレスティア)に戻る日がやって来ます。その後も、クリスさんと今までと同じように親しくしたいと思う私は、強欲なんでしょうね」


苦笑いを零すと、そんなことありませんよと、セシルさんが励ましてくれた。


「それほどまでに、クリス隊長の存在があなたにとって、大切だということでしょう?そう思うのは、悪いことではありません」


そして、セシルさんは優しい表情で私の手を取った。


「ティアも、セレスティア・エーレンシュタインも、どちらもあなたです。あなたは、あなたらしく彼と向き合えば良いんですよ」


にこりと笑うと、本当に綺麗だ。


「まあ、“今までと同じように”は無理かもしれませんけどね……」


「ええっ!?やっぱりそんなの高望みですよね……」


「あ〜、いえ、そういう意味ではないのですが……」


今度はセシルさんが苦笑いだ。


どうしたのだろう?


「まあとにかく、あまり思い詰めなくても大丈夫ですよ。クリス隊長にとってのあなたは、もうすでに大きな存在になっていますから」


「そうでしょうか……」


「ええ、あなたと会って以来、彼の変わった姿に驚く者を何人も見ていますからね。それは僕が保証します」


そう言うとセシルさんは、きゅっと私の手を一度だけ握って、腰を上げた。


「では、あなたと話したい方がまだいらっしゃるようなので、僕はこの辺で失礼します。あ、ごちそうさまでした。今日も美味しかったです」


話したい方……?


不思議に思ってセシルさんの視線を追うと、向こうからクリスさんがやって来た。


えっ、待って待って、この話の後にタイミング良く来るかなぁ!


「あなたらしく、ですよ」


セシルさんはぱちっとウィンクをすると、食器を持って去って行った。


あああ……とその背に追い縋るように手を伸ばしたが、立ち止まってはくれなかった。


そして入れ替わるようにして、近付いて来たクリスさんが目の前に立った。


「ティア、少し良いか?」


今はちょっと心の準備が……などとはもちろん言えず、先程までセシルさんが座っていた場所にクリスさんが座ったのだった。

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