魔物討伐5
すみません、短めです(´・ω・`)
「なるほど、これが噂の……。おし、お前等!一気にカタをつけるぞ!」
「「「はい!!」」」
愛剣に氷の魔力を付与されたことに驚きつつも、辺境伯はすぐににっと笑って騎士達に指示を飛ばし始めた。
騎士達もその的確な指示に従いつつも、自分達で状況を見極めて巨大蜘蛛の攻撃を凌いだり、辺境伯のサポートを行っている。
それにしても辺境伯はさすが歴戦の騎士だ、素人目にも素晴らしい判断力と行動力だと思う。
そして、そんな辺境伯のことをみんなが信頼して戦っていることがよく分かる。
今まで魔物討伐なんて未知の世界すぎて、恐いとか大変そうとか、漠然としたイメージしかなかったけど……。
「すごい……」
「ええ、さすがですね。王族として、あの方がこの国を支えてくれているということが、どれだけ頼もしいことかと心から思います」
王子様なのに私の護衛をしてくれているセシルさんが、隣で眩しいものを見るように、辺境伯を見つめていた。
「みなさん、お疲れ様でした!すごいです、Sランクの魔物を倒してしまいましたね!」
「嬢ちゃんの助けが大きかったな!いやまさか氷魔法まで使えるレベルとは、驚いたぞ」
「しかも、氷魔法の中でもかなり難しい魔法だったよな……」
「ティアおまえ、本当に八歳か?」
そうして巨大蜘蛛が完全に息絶えたのを確認し、笑顔で駆け寄ると、みんなの肩の力も抜けたのが分かった。
辺境伯がぐりぐりと私の頭を撫でてくれ、他の騎士達もやんややんやと褒め称えてくれた。
痛い痛い!辺境伯、力強すぎ!!
「私はちょっと手伝っただけで、倒したのはみなさんの力ですから!それに、あの巨大蜘蛛の特殊攻撃を防いだのは、クリスさんのおかげです!」
もみくちゃにされて堪らずそう叫ぶと、みんながぴたりと手を止めた。
そして一斉にクリスさんの方を向くと、クリスさんはふいっと顔を逸らした。
が、その耳と頬がほんのり赤くなっているのが分かる。
「……嬢ちゃん、そりゃどういう意味だ?」
全然気付いていなかった辺境伯をはじめとするみんなに向けて、私は口を開いた。
あの巨大蜘蛛を鑑定した時に、“猛毒の霧や火を吐く”と書かれていた。
巨大蜘蛛は火を吐くブレス攻撃こそ一度だけ見せたが、猛毒の霧を起こすことはなかった。
しかも、ブレス攻撃もただ一度だけ。
いくら魔物だから知能が低いかもしれないとは言え、あれだけの人数、しかも実力者揃いを相手にし、なおかつ巨大蜘蛛からしたらピンチの場面が多い中で、自分の強力な攻撃を行わないのは不自然だ。
ではなぜ行わなかったのか。
答えは、させてもらえなかったから。
クリスさんは闇属性魔法を得意としている。
闇、というと暗いイメージがあるが、実は防御的なものや補助的な魔法も多くある。
蜘蛛の糸から逃れ、私がセシルさんと合流したのを見届けると、サクは私の元を離れクリスさんの所に飛んでいった。
どんな魔法を使ったのかは分からないが、魔力の流れも感じたし、クリスさんはサクの力を借りて、巨大蜘蛛の攻撃を封じていたのだろう。
巨大蜘蛛は闇属性の攻撃には耐性があるようだったが、補助魔法は含まれなかったのかな?
もしくは、他の属性の魔法を組み合わせていたのかもしれない。
サクの存在は伏せつつ、恐らくクリスさんが魔法で補助してくれていたのだろうという私の予想を、みんなに説明していった。
「と嬢ちゃんは言っているが、本当か?」
「……まあ、概ね合っています」
誤魔化すなよという辺境伯からの無言の圧力を受け、気まずそうな顔をしながらもクリスさんはそう答えた。
「そうか……」
辺境伯が俯いて唇を噛んだ。
?え、何かまずかったかしら。
もしかして私、余計なこと言った!?
ひょっとして何か秘密にしなくてはいけないことを、ぽろっと言ってしまったとか?
それとも……「さすがだなクリス!」
ぐるぐると考えていると、急に辺境伯はがばりと顔を上げ、キラキラと目を輝かせた。
「正直、お前の魔法に気付けなかったことには自分を情けなく思うばかりだが……。しかしその実力も、あえて自分の活躍をひけらかさない謙虚な姿勢も素晴らしい!お前は俺の自慢の息子だ!!」
そう早口でまくし立てる辺境伯の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。
“自慢の息子”
たくさんの騎士達の前で、父親にそう言われたのが恥ずかしかったのだろう。
クリスさんは、一瞬ぽかんと口を開けた後、すぐに顔を赤く染めて「大したことではありませんよ……」と振り絞るように小さな声を出したのだった。




