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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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魔物討伐3

そうこうしているうちに、クリスさんたちはポイズンスパイダーたちとの戦闘に入ってしまった。


「ティア、恐らく今はそこが一番安全だ!こちらが片付いたら必ず助けるから、そこで待っていてくれ!」


そう言うとクリスさんは、剣を構え群れに向かって突っ込んでいった。


「“黒炎(ダークファイア)(スラッシュ)”」


そしてクリスさんの漆黒の剣が暗い炎に包まれると、みんなの周囲に張られた蜘蛛の巣が、まるで溶けるようにして切られていく。


「おし、これで動きやすくなった。こいつらの糸は厄介だからな、でかしたぞクリス」


どうやら普通に切っただけではびくともしない、特殊な糸のようだ。


サクが言うには、燃やすか熱で溶かすかしか、あの糸を処理する方法がないらしい。


「耐久性のある糸で敵や獲物の動きを封じ、毒で仕留めるってのがあいつらの常套手段だな。単体ならCランクの魔物だが、群れだとBランク相当だ。まあ、あいつの敵じゃないけどな」


クリスさんと行動を共にしているだけあって、サクはさすがに詳しい。


そしてそれだけの魔物を物ともしないところを見ると、やはりあのメンツは実力者揃いなのね。


「それで、やっぱり弱点は火属性なの?」


「だろうな。お前、鑑定が使えるんだろ?魔物相手にもできるはずだから、やってみたらどうだ?まあ、もう半分ほどは倒しちまってるけどな」


さすがと言うべきか、私達が話している間にクリスさんたちは、あっという間にたくさんのポイズンスパイダーを討伐していた。


しかし、試しに鑑定を使ってみたいという気持ちもあるし、ここなら誰にも気付かれない。


「じゃあ折角だし……“鑑定”」


うしろの方のポイズンスパイダーに向けて手をかざすと、すぐにウィンドウが現れた。


************

ポイズンスパイダー

Cランク

HP:745//1005

MP:76//76

耐久性の高い糸を使う。

毒を含む牙で噛まれると、麻痺する。

耐性:水

弱点:火、光

************


「わ、出た出た!本当だ、“弱点:火、光”って書いてある」


あとは噛まれると麻痺かぁ……うわ、恐いな。


そしてやはり糸は耐久性があるのね。


……そういえば、これって魔導具の材料にならないかしら?


「“鑑定”」


気になった私は、自分の足や腕に絡みついている糸に向かって鑑定をかけてみる。


************

ポイズンスパイダーの糸

Cランク魔物、ポイズンスパイダーの生み出す糸。

耐久性が高く、水に強い。

毒を軽減する。

素材として使用可。

効果:水属性強化、防御力向上、毒軽減

************


「あ、使えそう」


「なあに、どうしたの?」


ウィンドウの見えないルナが、不思議そうに覗き込んできた。


「この魔物の糸、素材として使えるみたいなの。防御力を高めてくれるみたいだから、装備品に加工すると良さそうね」


嬉しそうに報告する私に、ルナとサクは微妙な顔をした。


「お前……。よくこんな状況でそんなこと考えられるな。しかも、自分を捕らえた糸まで素材として見るか、普通?」


「コイツと意見が合うのは癪だけど、今回ばかりはあたしもそう思うわ」


だ、だってもう少しで戦闘も終わりそうだし、ピンチなわけじゃないんだもの!


それに捕らえられているといっても、別に何か害があるわけじゃない。


まあつまり、暇なのだ。


「だからといって、ここから魔法で援護するのも、かえって邪魔になりそうだしね……」


サクサクと順調に討伐していくみんなに、うーんと首を捻る私の頭上を見て、ルナとサクが顔色を変えた。


「!ティア、上よ!」


「っち!おい、クリス!」


ふたりのただならない様子に、何が……と首だけを動かして上を向くと、そこには。


「キイイィィ」


「え、ええっ!?デカっ!!え、ちょっと待って!!」


下にいるポイズンスパイダーなんて比じゃない、象くらいの大きさのバカでかい蜘蛛が、こちらを睨んでいた。


真っ黒の体躯に、深い緑の目が五つ。


巨大な身体と、長い手足を覆う体毛もくっきり見える。


――――っっ!!


はっきり言って、さすがにこれは気持ち悪い!!!!


「ティア!!」


気持ち悪すぎて悲鳴も上げられない私を、地上からクリスさんが呼んだ。


「オレが目くらましをかけてやる。おい、さっき言っていた方法で自分で糸から抜け出せ!」


「あたしがあいつの時を止めるから、ティアを受け止めて。頼んだわよ!」


サクとルナがクリスさんにそう声をかけると、分かったと返ってきた。


ふたりが援助してくれるなら、落ち着いて魔法が使えるかも。


それにクリスさんなら、きっとちゃんと受け止めてくれる。


「分かった、やってみる」


サクとルナが巨大蜘蛛を足止めしてくれているのを確認して、ふっと一度息をつき口を開く。


木は燃やさず、糸だけ燃やす。


集中しないと、大火事になってしまう恐れがある。


だから、みんなを信じて。


「――――“(フレイム)”」


慎重に魔力を注ぐと、無数に編まれた蜘蛛の巣の一本一本に、熱が広がる。


ピンと張られたそれが熱で溶かされていき、手足が自由になっていく。


―――――ということは。


「お、ちるぅぅぅーーー!!!!」


そういえば今になって思い出したけど、私は絶叫マシーンが大の苦手だった!


そして今更だけど、地上約二十メートルからの落下、こんな高さから落ちて、いくらクリスさんでも受け止められるのー!?


ぎゅっと目を瞑った瞬間、上昇気流のような風に下から押され、落下速度が下がった。


それから風の勢いが調整されていき、ゆっくりと降下していく。


ぽすりと温かい腕の中に収まると、心配そうなクリスさんと目が合い、ああクリスさんが魔法で助けてくれたのだと、ほっと安心した。


「ありがとうございます。サクまでこちらに向かわせてくれて、助かりました」


「ああ、無事で良かった。サクとルナの魔法も、そろそろ解けそうだな」


上を見ると、ルナの魔法で静止していた巨大蜘蛛が、丁度動き出すところだった。


「――――来るぞ」


獲物()を奪われ、怒った様子の巨大蜘蛛が、唸り声を上げてこちらを睨み付けた。

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