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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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魔物討伐1

朝食を終え、身支度を整えてクリスさんのところに向かうと、すでに騎士たちが集まっていた。


「ごめんなさい、お待たせしてしまいましたか?」


「いーや、俺達が早いだけだから気にするな」


にかっと笑ったのは辺境伯。


「ティアは朝食の準備と配膳をしてくれたから、食べ始めや終わりが遅かったですもんね。仕方ありませんよ」


そうフォローしてくれたのは、セシルさん。


そう、今回同行してもらうグループには、クリスさんだけでなく辺境伯とセシルさんもいるのだ。


辺境伯は言わずもがな、隊長職のクリスさんに王子とはいえ騎士としても優秀だと聞いているセシルさんも一緒だなんて、なんてVIP待遇なんだろう。


「本当に大丈夫なのか?急いだがために準備が疎かになってはいけないぞ」


これだけ周りを固めてもまだ心配そうにしているクリスさん、どんだけ……。


「大丈夫です。できるだけ邪魔にならないように気を付けますので、よろしくお願いします」


みんなに向かって深々と頭を下げてお願いすると、こちらこそー!と明るい声が返ってきた。


その他の騎士も独身寮の人が多いし、みんな私の参加を受け入れてくれているみたい。


お荷物扱いされても仕方ないと思っていたので、ありがたいことだ。


「あたしもいるし、一応サクも一緒だからね。安心して」


「まあお前には美味いものをご馳走になってるからな。危なくなったら助けてやるよ」


そしてルナとサクもいるのだ、こんなに心強いことはない。


「では行こうか。嬢ちゃんは大船に乗ったつもりでついてくるといいぞ!」


頼もしい辺境伯の言葉を受け、出発の一歩を踏み出したのだった。







そうしてしばらく森の中を歩いていると、時々魔物に遭遇した。


この世界の魔物は、強いものからS、A、B……と階級付けられており、最弱のものでGランクとなっている。


しかし、現れるのはG〜Cランクの低・中級の魔物ばかりみたいで、このメンツならば余裕で倒せていた。


辺境伯は今日も、つまらんとボヤいている。


いや、私としてはありがたいんですけどね?


しかし、そもそも今回の討伐は、森の魔物の出現が増えたことと、Bランクという高ランク魔物の目撃情報があったことが理由だ。


それならば、討伐隊最強であるに違いないこの豪華メンバーが、強い魔物と遭遇するに越したことはない。


まるで赤子の手をひねるかのように、ゆうに五メートルはあろうかというCランクのビッグベアを辺境伯が一撃で仕留めたのを見て、そう思った。


「……こりゃ、あたしの出る幕はないかもね」


出発時にはりきっていたルナがそう言ったのも、無理はない。


だって辺境伯だけじゃなくて、クリスさんは闇属性魔法を中心として、様々な属性の魔法とキレのある剣技で魔物を倒しているし、セシルさんはアイテムでの回復役はもちろん、スキのない剣捌きでフォローもぬかりない。


他の騎士もかなりの腕前だし、うちの国の騎士団って優秀だったのねと感嘆の息をつく。


そういえば、クリスさんやセシルさんが使っているアイテムバッグも使いやすそうだし、配置に合わせてサイズを変え、全員に配給できると良いかも。


辺境伯もふたりのアイテムバッグを見て、それ良いなとまじまじと見ている。


テントにしてもそうだが、帰ったら作ってみたいものもできたし、これから忙しくなりそうね。


「そろそろ少し休憩するか」


体感だが昼前くらいだろうか、クリスさんの声に、少しだけ開けた場所にみんなで腰を下ろす。


それぞれに水筒の水を口に含み、一息ついた。


「なくなってしまった方は、水筒を持って来て下さい。一応私、綺麗な水を出せますので」


この隊には、クリスさんをはじめとして水属性の高レベル者が何人かいるが、余計な魔力を使うことになるので、ここは私が請け負おう。


こうやって隊の中に補給役の人がいれば良いのだが、全員分の補給となるとまあまあ魔力を消費することになる。


一人分なら微量でも、塵も積もれば……ってやつね。


それが日に何回もとなると、さらに消費量が増える。


水属性魔法の低レベルな人が出す水じゃ、飲料水には出来ないのって本当に不便。


誰でも綺麗な水が出せたら良いのに……って。


「あ、そっか」


「?どうかしたか?」


「いえ、水筒についてちょっと思い付いたことがあって。帰ったら試しに作ってみようと思います!」


首を傾げるクリスさんに、にっこりと笑って返す。


そうだよ、辺境伯の『別の方向から物事を考える』っていうのがヒントになった!


「おっ、何か掴んだみたいだな嬢ちゃん」


「はい!あ、そうだ。良かったら皆さんこれもどうぞ」


そう言ってごそごそと精霊王様のマジックバッグから取り出したのは、お店(フォルトゥーナ・ルナ)でも売り始めたクッキー。


二日目の昼食は非常食用のもので済ませるだろうと聞いていたので、商品と同じくシリカゲルもどきを入れた小袋包装のものを、たくさん持って来たのだ。


今回は甘いものというより、お腹に溜まりやすい、ナッツ入りのものやさつまいもベースのものを中心に選んできた。


甘さ控えめだから、クリスさんにも食べてもらえるしね。


「おっ!俺も非常食代わりに良いなと思って、嬢ちゃんの店で買ったものを持って来たんだ。ほら!」


そう言って辺境伯が懐から取り出したのは、私のものと同じ、見慣れた包装のクッキーだった。


……が、ボロボロに崩れていた。


「まあ、そんなところに入れていたら、そうなるよな」


「おやおや、勿体ないですね」


クリスさんとセシルさんの容赦ない一言に、辺境伯は膝を折った。


「嬢ちゃん、すまない……」


「だ、大丈夫ですよ!ほら、私のものと交換しませんか?小さい欠片の方が私は食べやすいですから」


ずーんと落ち込む辺境伯に、そう声をかけて新しいクッキーを手渡す。


ボロボロだが、ルナやサクが食べるのに丁度良い大きさだし、ふたりと分けて食べよう。


気を取り直してみんなでクッキーを頬張り、お腹も少しだが満たされた。


「なんか、ちょっとだけど疲れが取れた気がする」


「あ、分かる。腹一杯になったわけじゃないのに、回復した感があるよな」


「あ〜えっと、甘いものって疲れが取れますもんね〜」


あはは〜と騎士たちの話に適当に相槌を取る。


「いつもの硬い非常食より、断然こっちの方が良いな。嬢ちゃん、コレもあいつに提案しといてくれ」


「え……あ、そうですね!はい、分かりました!」


あいつとは、ベンデル男爵のことだろう。


そうか、魔導具っぽくはないが、乾燥剤と密封包装があれば、非常食の幅が広がる。


「ありがとうございます、辺境伯様!」


「うん?礼は俺たちがする方だろ。騎士のために色々と考えてくれて、ありがとな」


そうして辺境伯は、クッキーを頬張りながら笑って私の頭を撫でてくれたのだった。

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