魔導具の評判5
すみません、短めです……
みんな大満足の夕食を終え、大きな問題もなく一日目が終わろうとしていた。
やっぱり森の中だし、秋の夜は結構冷える。
「おっ、これ意外と良いな!軽くて薄いが、暖かいぞ」
「本当ですね!最初はミノムシみたいだと思いましたが、寝心地も悪くありません」
そう、就寝の時間ということで、シュラフの出番だ。
くるくる巻いてコンパクトになった状態のものを渡すと、何だこれ?という顔をされ、広げてみると、こんなもん何の役に立つんだ?という表情をされた。
だが実際に包まれてみると、意外な心地良さを感じたらしく、騎士たちはみんなすっぽりくるまって横になった。
寒い人はその上から毛布もかければ、しっかりぬくぬくだ。
でもこれだけじゃさすがに、冬場や風の強い日は寒いだろうな。
やっぱりしっかりとしたテントがあると良いよね……。
それはこれからの課題だなと思っていると、シュラフを持ってクリスさんが近付いてきた。
「ほら、ティアの分だぞ。火の側の方が暖かいから、そこで寝よう」
「あ、ありがとうございます。……って、え?」
気のせいかしら?
そこで寝ようって、一緒にって意味に聞こえるけど……?
「ああ、さすがに個室なんてないし、ひとりでは何かあった時に危ないからな。俺の隣で寝ると良い」
え、えええええー!?!?
「え、ええっと、それはちょっとさすがにご迷惑かなと……」
「?そんなことはない。俺は構わないから、ほら行こう」
いやいやクリスさんが構わなくても私は構う!
誰に何と言われようと心は乙女なのだ!
かっこよくて頼りになるクリスさんの隣でなんて、ドキドキしすぎて眠れる気がしない!
「おっ、では嬢ちゃんは俺の側で寝るか?丁度ふたりでゆっくり話してみたいと思っていたところだしな」
断固拒否!の姿勢の私に助け船を出したのは、辺境伯だった。
「……父上が?」
「ああ、俺が一緒なら何かあった時も対応できるしな。嬢ちゃん、どうだ?」
クリスさんの訝しげな視線など気にも留めず、辺境伯はにやりと笑って私を見た。
辺境伯と一緒も緊張する、けど!
クリスさんの添い寝よりはまだマシな気がする!
「ク、クリスさん、私も辺境伯様とゆっくりお話ししてみたいですし、今日のところはお誘いに乗ろうかと……」
迷いながらもそう答えると、クリスさんがすごい顔をして辺境伯に向かってチッ!と舌打ちをした。
そんな息子に驚きつつも勝ち誇ったような顔をする辺境伯に、クリスさんの顔がさらに不穏なことになったのだが、仕方ないなと引き下がってくれた。
良かった、絶賛睡眠不足は免れそう。
「では、話をするなら少し静かな所に移動しようか。小さなレディ、エスコートさせてもらえるかな?」
そう言って辺境伯は、少し腰を下げて私の前に手を差し出した。
こんな扱いをされたことがほとんどないということもあって、ちょっとドキドキしてしまう。
それに、辺境伯の貴族らしい振る舞いが珍しくて驚いたのもある。
こう言っては失礼だが、意外と様になっているのだから余計に。
そんな内心を隠しながら、そっと辺境伯の手に自分のそれを重ね、ゆっくりと歩き始める。
ルナは一緒についてきてくれるみたいで、ぱたぱたと飛んできて、私の肩に止まった。
「話って何かしらね?ティア、あいつの父親だからって油断しないのよ」
耳元で囁くルナに、こくんと小さく頷いた。
これまでの辺境伯の私への態度から、そんなに変な話ではないだろうとは思うが、一応ね。
クリスさんたちにも、すぐに心を開くなと言われていたし……。
そうして辺境伯に手を引かれながらみんなから少し離れた場所まで移動すると、石の上に腰を下ろす。
まあここなら私たちの姿がクリスさんたちからも見えるし、もし魔物に襲われたりしてもすぐに気付いてもらえるだろう。
「さて、初めて討伐に同行したということだが、疲れてはいないか?」
まずかけられたのは、私を気遣う言葉。
「はい、意外と大丈夫です。こう見えて私、すごく体力あるんですよ?」
そう答えると、そうかと笑顔が返ってきた。
この方の笑顔は、太陽みたいだなと思う。
「かわいらしくて、賢くて、優しい。しかし、あいつがあんなに肩の力を抜いて、君に心を許しているのは、それだけだからではないのだろう」
しかし、すぐにその笑顔に影を落として辺境伯はぽつりと呟いた。
「君は、どんな魔法を使ったんだい?」
少しだけ、寂しそうに。




