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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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魔導具の評判4

「お手伝いさせて頂きます、ティアと申します。よろしくお願いします」


「ああ、独身寮の家政婦さんでしょ?ちっこいけど料理上手って聞いてるし、期待してるよー」


夕食担当の騎士達に挨拶し、一緒に調理を始める。


私が家政婦をしていることも伝わっているし、独身寮の騎士もちらほらといるので、戸惑いなく受け入れてもらえた。


というか、献立決めとか味付けとか、なんなら指示に従うから指揮取ってやってくれとまで言われた。


……まあね、騎士なんだから料理に精通してるわけじゃないし、慣れている者に任せたくなる気持ちは分かる。


だからといって見た目は幼女だし、騎士たちを顎で使うのも憚れるので、丁重に野菜の皮むきやカットをお願いしていく。


今回はクーラーボックスにベーコンやウインナー、牛肉を入れて来た。


遠征時に食べられる肉類は干し肉くらいだと聞いていたので、今回はクーラーボックスを活用するために、肉類を多めに持って来たのだ。


結局男は肉が好きだからね。


一泊くらいならクーラーボックス二箱くらいで済むので、それほど荷物にもならない。


メニューは牛丼と厚切りベーコンのポトフ。


米料理はこの国であまり一般的ではないが、独身寮の騎士は食べ慣れているし、他の騎士も食べてみたいと言っているという話を聞いていたので、チャレンジしてみることにした。


牛丼を嫌いな男なんていないはず、という主観的な理由もあるし、鍋で一度に大量に作れるという手軽さも良い。


美味しくて簡単ならば、今後、騎士だけでの遠征時でも作れるだろうしね。


ポトフは切って煮るだけなので、騎士たちも手際良く進めてくれている。


牛丼はみんな初めてなので、私が指示しているが、簡単だなと驚いている。


出汁と調味料を入れた鍋に、たっぷりの玉ねぎを入れて火が通るまでしばらく煮る。


柔らかくなってきたら牛肉も入れ、アクを取りながら煮詰める。


その後生姜のすりおろしを入れ、砂糖と醤油で味をととのえると、香りも立って美味しそうだ。


「いい匂いだ……なんか、食欲をそそる」


「だよな、初めて見る料理だが、絶対うまいって分かる!!」


騎士たちも牛丼の匂いに魅了されているようだ。


味見をしたがなかなかの出来だったし、気に入ってもらえると良いのですがと言っておいた。


ポトフも野菜の甘みとベーコンの旨みがしみ出てすごく美味しいし、上出来だろう。


そこへルナがやって来て、もじもじと口を開いた。


「……あたしも食べて良いかな?」


「うん、もちろん。サクと一緒にこっそり食べてね」


精霊ふたりにも美味しく食べてもらいたいしね。


そんな気持ちで言ったのだが、なんであいつと!と怒られてしまった、


まあとりあえず、討伐組のみんなが帰ってくるのが楽しみね。






「「「う、うまい!!!!」」」


「お口にあって良かったです。おかわりもありますから、たくさん食べて下さいね」


日がとっぷりと暮れて、討伐組が帰ってきたところで夕食となった。


思っていた通り、米料理に慣れていない騎士たちも、牛丼の魅力にすっかり取り憑かれたようだ。


ちなみに、ルナとサクもこっそり物陰で食べている。


サクはかなり気に入ったようで、おかわりまで要求してきた。


そんなふたりは置いておいて、牛丼といえば……と思いついたことを口にする。


「今回は持って来ていないのですが、生卵を上からトッピングすると、まろやかになって美味しいですよ」


「「「な、生卵……!!!!」」」


おや、思っていた以上に心に刺さったようだ。


「ティ、ティア、たのむ!これ、独身寮でも作ってくれ!」


「もちろん生卵のせで!!」


「え?あ、うん、分かった」


「「「くそ、ズルいぞお前ら!」」」


ものすごい形相で独身寮の騎士たちが私にそう頼むのに、寮外の騎士たちがブーイングする。


そんなケンカしなくても、誰でも簡単に作れるのに……。


「あいつら……あれでも貴族のくせに、みっともない……」


「ですが、確かにこのギュウドン、すごく美味しいですよ」


騎士たちの醜い争いに頭を抱えるカイルさんを、セシルさんがまあまあとなだめる。


そんなふたりを見て辺境伯は笑い、クリスさんは無言でガツガツと牛丼をかきこんでいる。


心なしかその頬が緩んでいるように見えるのは、私の気のせいだろうか。


「まあ、なかなか遠征時にこんな美味い飯は食べられないからな、騎士たちの気持ちも分かる。アーレンスの倅も大目に見てやれ。それにしても、嬢ちゃんは本当に料理上手だな!俺もこっちに来て、すっかり米料理の虜になったぞ。うむ、このギュウドンも気に入った!」


辺境伯に至っては、もうおかわり三杯目だ。


ものすごい勢いで牛丼が消えていく。


多めに作っておいて正解だったわ。


「はぁ……。でもまあそうだね。私はこのポトフも気に入ったよ。粗挽き黒胡椒がアクセントになって、とても美味しいね」


あ、さすがカイルさんは気付いてくれたようだ。


ポトフには、仕上げに盛り付け後に黒胡椒をひと振りしてある。


些細なことだけど、これが意外と利くのよね。


「温かいし、身体に沁み入るね……」


スープを口に含みしみじみと呟くカイルさんからは、騎士たちをまとめる苦労が見られる。


……最近お色気キャラから苦労の長男にキャラ変したように思っているのは、私だけだろうか。


「……味噌汁が欲しくなったな」


そこへ、ずっと無言だったクリスさんが口を開いた。


「ああ、確かに。米料理ですし、合いそうですね。私もミソシル、好きですよ」


美味しそうに食べてくれているが、牛丼が似合わないセシルさんがそう同意した。


そうなのよね、私もそう思ったけど、さすがにどちらも食べ慣れない料理だと、苦手な人がいた時に申し訳ないから、汁物は食べ慣れたポトフにしたのだ。


「じゃあまた寮で作る時は、味噌汁も一緒にお出ししますね」


それは楽しみだと微笑むクリスさんに、周りからざわりと声が上がる。


「独身寮のやつらが言ってたのは、本当だったんだな……」


「ああ、クリス隊長のあんな顔、初めて見たぞ」


騎士たちが驚いていることは分かったが、何を言っているのかまでは聞こえなかった私は、気にせず食事を食べ始めることにした。

 

「ふーむ、やはりあの嬢ちゃんが相手だと、表情が変わるな」


そして、辺境伯がそうぽつりと呟いたことにも気付かず、久しぶりの牛丼に舌鼓を打つのだった。

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