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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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魔導具の評判1

辺境伯が独身寮に滞在するようになって、二週間が過ぎた。


あの後も、辺境伯は二度ほどお店にふらりとやって来て、商品を物色したり、魔導具制作の様子を見学したりした。


ひょっとして、魔導具に興味を持ってくれたのかも。


魔法付与のことは知っていたみたいで、付与するところを見たいとキラキラした目で言われた。


ずいぶん打ち解けた気がするし、三日後に同行させてもらう予定の討伐で、実際に魔導具を使ってみた感想とか、私からも聞いてみようかな?


「いたいた。ティア……って、今日もありえない数を作ったわね……」


そんなことを考えて水筒を作っていると、窓から精霊姿のルナが現れた。


基本的に私と一緒にいることの多いルナだが、こうして魔導具を大量生産している時には、つまらないだろうから散歩でもしていたらと言っている。


今日もしばらく出かけていたのだが、そろそろ帰ろうと呼びに来てくれたらしい。


「うん。水筒とシュラフは、できるだけ全員分あると良いかなと思って。ルナが言っていた通り、光の精霊のおかげで魔法の付与もたくさんできて助かるわ」


魔法付与にもMPを使用するから、気を付けないと魔力切れを起こしてしまう。


そうルナに注意を受けていたのだが、今のところ倒れる寸前までに至ったことはない。


かなりの量を付与しているのに、どうして?と思っていたら、その理由を不服そうな顔のルナが教えてくれた。


曰く、光の精霊が、魔力の自然回復力を高めてくれているのだとか。


それなんて過保護?と思ったのは、私だけじゃないだろう。


しかもそれだけでなく、幼女姿の私の体力でダブルワークに耐えられているのも、光の精霊の回復魔法のおかげのようだ。


どちらも私が頼んだわけではなく、気を利かせた精霊たちが勝手に施してくれているらしいのだが……いや、正直助かってます。


だって騎士ひとりずつに用意しようと思ったら、百近い数を揃えないといけない。


いくら魔導具師になって効率が上がったからとはいえ、それだけの数を作るのはなかなか骨が折れる。


時間も体力も魔力も必要なのだから、光の精霊様々なのだ。


まあそれを言ってしまうと、今のようにルナが不機嫌そうな顔をするから、あまり口には出さないようにしている。


でも、心の中ではこっそりお礼を伝えているけどね。


とにかく、そんなわけで三日後の討伐にはなんとか納品が間に合いそうだ。


キリの良いところまで来たので、そろそろ片付けようと思い席を立つと、ルナがため息をついた。


「全く……討伐に参加したいだなんて、ティアってば魔物を甘く見てない?」


うっ……確かに魔物に対峙したことがないから、そんなことない!ときっぱり否定はできない。


それに、確かに恐いとは思うし、私がいるとお荷物になるだろうなという自覚もある。


だけど…………。


カイルさんの提案に、迷うことなく了承した理由を呟くと、何故だかルナは変な顔をした。


「……はぁ。ティアらしいと言えば、らしいんだけどね……」


そして脱力し、もういいやと言った。


そんなに変な理由だったかしら?


なんとも言えない顔をしたルナに首を傾げながら、片付けを終えた私は独身寮へと帰るのだった。






そしていよいよ討伐当日。


「おっ!嬢ちゃんもちゃんと来たな!ん、装備もしっかりしてるし、体調も良さそうだな」


集合場所に着くと、辺境伯やカイルさんたちがもう準備を整えていた。


「朝からちょっと暑苦しいわね」


「こら、ルナったら!」


勿論というべきか、ルナも一緒だ。


そんなルナの声が聞こえない辺境伯は、私を頭のてっぺんから足の爪先まで眺めると、親指を立てて合格!と示してくれた。


「できるだけご迷惑をかけないように気を付けますので、よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げると、明るい返事が返って来る。


辺境伯は私の事情を知っているから、この同行にも好意的だ。


独身寮のみんなも、詳しくは知らなくとも、なんとなく察しているところがあるから、上に同じ。


でも寮住まいじゃない騎士は、なんでこんな子どもが?って不審に思ってるだろうなぁ。


貴族のお嬢様が、好奇心から来る我儘で無理矢理ついてきたんじゃないか〜とかね。


まああながち間違ってはいない気がするけど……。


「ところで、どうしてウチの息子はそんなに機嫌が悪いんだ?」


私のうしろに立つクリスさんを見て、辺境伯が訝しげな顔をした。


や、やっぱりそう思います?


「……別に、何でもありませんよ」


素っ気なくそう返すクリスさんの声は、お世辞にも機嫌が良いとは言えない低さだった。


クリスさんも今回の討伐に参加するので、寮から一緒にここまで来たのだが、ずっと顰めっ面で眉間にしわが寄ったままだ。


もしかして寝不足?それとも体調不良?


そう思って、道中恐る恐る聞いてみたのだが、どちらも答えはノー。


それ以上は空気が重くて何も聞けなかった。


そして未だに理由が分からず、黒いオーラ全開の魔王様みたいになっている。


「おいおい。お前がそんな顔をしているから、嬢ちゃんが怯えているじゃないか。そんなことでは、嫌われてしまうぞ!?」


ビキッ。


あ、何かがキレた音が聞こえた気がする。


「……ご心配なく。この討伐が終われば元に戻りますので。それに、ティアは俺を嫌ったりしませんから大丈夫です」


目は笑っていないけど、口角は上がっている。


そんなクリスさんの微笑みが怖すぎて、私はぶるりと身震いした。


「すごい自信だな。しかしそんな傲慢ではいかんぞ!いくら幼くとも、女心というものは複雑だ。こう、真綿に包むように優しく紳士的にだな……」


「母上を怒らせてばかりの、脳筋のあんたには言われたくないですね」


空気を読まない辺境伯の言葉に、クリスさんの周りの温度が段々と下がっていくように感じているのは、多分私だけではないだろう。


言葉遣いもちょっと悪くなっている。


そして辺境伯は奥様に弱いようだ。


若干カオスになった空間に、まあまあとカイルさんの声が響いた。


「つまりクリスは、ティアを危険な討伐に連れて行きたくないと思っているが、下手に反対することもできず、イライラしているということだろう?」


「へ……?」


「ほぉ」


「あら」


「っ!副団長!」


呆気にとられる私、興味深そうに声を上げた辺境伯とルナ、そして慌てた様子のクリスさん、そしてそんな私たちの様子を見て、カイルさんはふふっと笑った。


ばつの悪そうなクリスさんの顔は、ほんの少しだが赤くなっていて、図星だったことが窺える。


そっか、心配、してくれたんだ……。


心配してくれた気持ちと、それでも私の意思を汲んで反対せずにいてくれたことに、胸が温かくなる。


「――――が、――――だからです」


その気持ちが嬉しくて、無意識に口から言葉がこぼれた。

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