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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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独身寮のお客様4

「こんにちは〜!ティアちゃん、何か新しい商品入ってる?」


辺境伯が滞在するようになって三日。


今日はお店の開店日だ。


いつものように接客をしながら過ごしていると、常連の女の子たち三人が、店のドアを開けて入って来た。


「いらっしゃいませ。そうですね……雑貨ではないんですけど、小分けのクッキーを作ってみたんです。色んな味があるので、良かったら試食どうぞ」


そう言って彼女たちに小ぶりのクッキーを差し出す。


幸運の月(フォルトゥーナ・ルナ)”では、前世の雑貨屋さんを参考に商品を置いているのだが、そういえば色んなお菓子も置いてあったなと思い出し、手はじめにクッキーを作ってみた。


プレーンにチョコチップ、紅茶味にアイスボックスクッキーなど、メジャーなものばかりだ。


普通のクッキーとちょっと違うのは、ほんの少しだが、疲労回復の魔法を付与していること。


あんまり効果が高いとバレてしまうので、本当に些細なものだけどね。


ほら、疲れた時には甘いものって言うし?


普通に考えたら、多少疲れが取れたとしても、ティータイムで癒やされたと思うだろうからね。


「んっ!美味し〜!これ、ティアちゃんが作ったの?」


「それになんかホッとする味……。あ〜貴族のご令嬢みたいに、花咲く庭園で優雅にティータイムとかしてみたいわ〜」


「ホントそれ!ま、現実じゃカフェでお茶するのが、精一杯の贅沢だけどね」


女の子たちは、そう笑いながら試食のクッキーを全種類つまんでいった。


カフェかぁ……いつかこの店にカフェ併設とかもしてみたいな。


でも一人じゃ無理ね、どう考えても回らない。


だけどカフェと雑貨の店なんて、この世界じゃ珍しいし、話題になりそう。


いや、あんまり話題になるのはマズイのか?


そうなると王宮からの仕事が回らなくなるもんね。


でもでも、こっちのお店の仕事も楽しいんだよなぁ……。


「なにを唸っとるんだ、嬢ちゃん」


「え?あ、きゃっ!」


うんうんと考えていたところに思いもよらない低い声がして、驚き叫んでしまった。


どこかで聞いたことのある声の持ち主は誰かと、うしろを振り向くと、そこにいたのは――――。


「すまん、驚かせたな」


なんと、ブルームハルト辺境伯だった。


あんぐりと口を開けて見上げると、わははと笑われる。


「どうしてこんな所に?と言いたそうな顔だな。いやな、嬢ちゃんのことはベンデルや陛下からも聞いていてな。店をやっていると聞いたから、覗いてみようと思ったのだ。うむ、なかなか良い店だな!」


いやいや、そんな娘の授業参観に来る父親みたいなこと言われても。


夕食を作って(餌付けして)いることで、気に入られた感はあったけど、実の(エーレンシュ)父親(タイン侯爵)よりも気にかけてくれている気がする。


出会ってまだ三日なのに……あれか、クリスさんが過保護なのは辺境伯に似たのか。


「えっと……ありがとうございます。ご自由に見て回って下さいね」


「おお!ありがとな、嬢ちゃん」


そう言って辺境伯は上機嫌で店内を歩き始めた。


こう言っては何だが……完全に浮いている。


そりゃそうだ、この雑貨屋は女性向けのものが多いこともあり、店内の装飾はシンプルだが可愛らしくまとめている。


そんな店に、いかにも武人という風貌のオジサマ……どう見ても場違い感がある。


先程の三人組だって、ぎょっとした顔で辺境伯を見ている。


別に男だからとか、そんな偏見はないつもりだけど、違和感というのはどうしても……。


しかし、私たちが戸惑いの視線を送っていることを気にも留めず、辺境伯は店内の商品を物色している。


「ふーむ、女性のものはよく分からんが、珍しいものが多いということは分かるぞ。嬢ちゃんが考えたのか?」


「そうですね、人からヒントをもらうことも多いですが、基本的には私が」


そして興味深そうに、これは何だとか、どうやって使うんだとか、私に色々と聞いてくる。


そしてそれに丁寧に答えていくと、ほほう!と感心したような反応を返してくれた。


試食のクッキーも、せっかくだから食べてみてもらった。


クリスさんとは違って、辺境伯は甘いのもいけるみたいで、ぱくぱくと食べてくれる。


「嬢ちゃんは、菓子作りも上手いのだな!ところで、このビーズのようなものが入った小さな袋はなんだ?」


辺境伯は満足気に頬張りながら、クッキーの袋の中にある小袋が気になったらしく、つまんで取り出し、聞いてきた。


そう、これが食品を扱うために私が作り出したものだ。


「それは、乾燥剤です。クッキーを長持ちさせるために一緒に入れてあるんです」


いわゆるシリカゲル。


でも、本物はさすがに作れなかった。


でも魔法付与さえあれば、なんの変哲もないビーズだって、乾燥剤代わりになる。


実はクッキー自体にも防腐作用の魔法をかけているのだが、そんなこと言えるわけもないからね。


「成分が何かは企業秘密ですが、変なものじゃないですよ」


企業秘密。


なんて便利な言葉だろう。


この魔法の言葉を使えば、大体はそう簡単に話してくれないよねって分かってくれる。


目の前の辺境伯も、ただただ感心したように、ビーズをしげしげと眺めるだけだ。


「話には聞いていたが、本当に聡明な嬢ちゃんだな。この年でこれ程とは、先が楽しみだな!」


そして辺境伯は、私の頭を撫でた。


うわ、ちょっとびっくりしたけど、この人の撫で方も嫌いじゃない。


それにしても、この言い方だと、辺境伯は私の正体のことは知らないみたい。


陛下やベンデル男爵から色々と聞いているって言ってたから、てっきり知っているのかと思っていたのだが。


まあ、あの二人はべらべらと人の秘密を話したりしないか。


一応機密情報ってやつだしね。


「ああ、そろそろ時間だな。仕事中に邪魔して悪かった。そうだ、領地にいる妻へ、土産にこれを買いたいのだが」


そして最後にと、辺境伯がゴムに飾りのついたヘアアクセサリーを手に取ると、レジの机に置いた。


「陛下も妃に贈ったと聞いてな。せっかくだから、俺もと思って」


「……へ?」


寝耳に水だったのだが、なんと陛下は私の知らない所でヘアアクセサリーを購入し、王妃様に贈っていたらしい。


嘘でしょ!?こんな平民向けのアクセサリーを!?と困惑する私の顔が大変面白かったようで、辺境伯に爆笑された。


「はっはっは!いや、実に楽しかった。さて、他の客の迷惑にもなってしまったし、俺はそろそろ行くよ。ではまた今日の夕食も楽しみにしているぞ、嬢ちゃん」


ひらりと手を振ると、辺境伯は扉を開けて去って行った。


他のお客様は、辺境伯の存在感に圧倒されてしまったので、遠慮してずっと遠巻きに見ていたようだ。


せっかく来店してくれたのに、ほったらかしになってしまい、申し訳ないことをしてしまったわ。


「みなさん、ごめんなさい。どうぞお気軽に手にとってご覧になって下さいね」


「あ、ティアちゃんレジお願いしまーす」


辺境伯が現れて、ちょっと遠慮していた先程の常連の女の子たちも、いつもの調子に戻っていた。


確かに辺境伯には私も驚いたけど、ちょっと楽しかったかも。


それに。


「おっきくて、優しい手だったな……」


クリスさんの撫で方とは少し違ったけれど、優しい温かさは似ていたかもなと、私はこっそりと笑みを零したのだった。

書籍が5月5日に発売されることになりました!

活動報告に、書籍情報と書影を載せておりますので、ご興味のある方はぜひご覧下さい♡

これからもよろしくお願い致します(*^^*)

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