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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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独身寮のお客様3

「えっ、辺境伯!?あ、えーっと、お料理どうぞ……」


「おお、すまないな。ふむ、今日はパンではないのか。それと、これは変わったスープだが……嬢ちゃんが作ったのか?」


その日の夕食。


いつものように配膳していると、辺境伯も他の騎士たちに混じってトレーを持ってやって来た。


普通ならテーブルにつくだけで、料理を給仕される地位にあるはずなのに……。


さも当然という様子で列に並んでいる。


「あ、はい。私のオリジナル料理なんです。豚汁といいます」


おそらく味噌汁初体験の辺境伯に、いきなり出すメニューではなかったかもしれないが……。


なにぶん滞在を知ったのがつい先程だったので、メニューの変更は無理だった。


味噌汁、この寮でも馴染みがないから少し前まで避けてきたのだが、一度試しに出した時に意外と好評で、苦手だという騎士は誰もいなかった。


今だってすぐ近くの食卓に座っているアラン達が、うまーい!と声を上げて食べている。


しかも、彼らは初めて味噌汁を飲んだ日に、米に合うはずだ!と気付いた。


それなら意外と、辺境伯のお口にも合うのではないだろうか?


それに私的には今日のメニュー、おにぎりと豚汁、この組み合わせは最強だと思っている。


「クリスさんも好きだと言ってくれた料理なので、お父様にも気に入って頂けると嬉しいです」


「ほお、クリスが?……ふむ、悪くない匂いだ。ありがたく頂くぞ」


どきどきしながらも笑顔で豚汁をトレーの上に乗せると、辺境伯は興味深そうに匂いを嗅いだ後、にっと表情を綻ばせて食卓へと向かって行った。


「あらあら、あんなに嬉しそうな顔をして。相変わらず食いしん坊なのねぇ。――――って、ティアちゃん?」


「は、はひ……」


隣で同じく配膳していたケイトさんに、大丈夫?と声をかけられた。


何故かというと、辺境伯の無邪気ともいえる少年のような微笑みが眩しいせいで、顔が赤くなりぷるぷる震えていたからだ。


なにあの笑顔!!


そして予想はしていたけれど、この世界、本当に素敵なオジサマ率高くない!?


とにかく大きくてガッチリしているという印象の辺境伯だが、クリスさんのお父様なだけあって、顔の造作はものすごく良い。


なんと表現したら良いか……運動部の頼りになるイケメン先輩の無防備な笑顔にヤラれた、みたいな。


思わずキュンとしてしまったじゃないか!!


「……ティア、何をしているんだ?」


「ふっ……くくっ、お嬢ちゃんの百面相、面白いね」


ひとりでわたわたしていると、そこへクリスさんとカイルさんが現れた。


カイルさんは、多分私がなぜこんな状態になっているのか、なんとなく分かっているのだろう。


笑いが隠しきれていない。


対するクリスさんはというと、何故か顔が険しい。


はて、辺境伯が結局ここに滞在することになったからだろうか?


同僚たちの手前、父親と一緒にいるのを見られるのは、ひょっとしたら照れくさいものがあるのかもしれない。


「くくっ……んんっ!うーん、クリスの仏頂面の理由は、お嬢ちゃんが思っているのとは違うと思うよ?」


首を傾げている私に、カイルさんがぷるぷる震えながらそう声をかけてきた。


……なにが面白いんだろう、まだ笑いは収まらないみたいだ。


「副団長、余計なことを言わないで下さい。ティア、あまり男に対して無闇矢鱈に笑顔を振りまいたりそんな表情をしたりするのは、誤解を与えるぞ」


「?誤解?」


どういう意味だろうと頭をひねる私に、クリスさんは呆れたような視線を送ってきた。


「うーん、そんなにかわいらしい顔をしていると、自分に気があるんじゃないかと思われてしまうということだよ」


「へ?」


何も言わないクリスさんを見て、カイルさんが補足してくれたのだが……まさかの内容に、思わず変な声を出してしまった。


「まあ今はまだ小さいからいいけどね?これが成人した御令嬢なら、そりゃあ男共だって誤解するさ。変な男を寄せ付けないためにも、気を付けた方がいい」


私が本当は十六歳だと知っているカイルさんが、意味深な口調でそう言った。


そ、そうか……引きこもりだったから、確かにそういうことには疎いかも。


前世の私くらいの顔面レベルなら、そんなこと気にしなくてもよかったかもしれない。


しかし、今世の私はシャーロットほどとは言わないが、まあまあ綺麗な顔立ちをしている。


これでも一応貴族令嬢だし、いずれは元の成人の姿に戻るのだから、気を付けるに越したことはないのかも。


「……分かりました」


「うん、素直で良い子だ。さて、私達も頂こうか。今日も美味しそうだね」


ぽんぽんとカイルさんが軽く私の頭を撫でた。


そんな優しさに、ちょっぴり多めに豚汁をよそってトレーに乗せる。


もちろんクリスさんにも。


最初に私に忠告してくれたのはクリスさんだもんね。


「まあ、そうやって表情豊かなのはティアの魅力ではあるが、気心知れた者はともかく、初対面の人間にそうそう気を許さない方が良い」


「クリスさんのお父様だったから、良いかなって思って……」


納得はしたが、いくら私だって、そんな簡単に初対面の人に気を許すほど危機管理能力に欠けてはいない。


確かブルームハルト辺境伯は愛妻家だと聞いているし、何よりもクリスさんのお父様だ。


クリスさんが嫌っているのならばともかく、そうではなさそうなので、悪い人ではないはずだ。


ベンデル男爵だってそう言ってたし。


だから初対面でも警戒せずに接していたのだと伝えてみると、クリスさんがぐっとたじろぎ、はあっとため息をついた。


「だから、そういうところが……いや、なんでもない」


「?」


どうしたんだろう、急に歯切れが悪くなったけど……。


「おやおや。相変わらず無自覚のようだね」


「これはクリスの分が悪いわねぇ」


「??」


カイルさんとケイトさんがやれやれと微笑み合うが、こちらも私にはさっぱり分からない。


少し離れた食卓からの、辺境伯の「うまい!」という叫びを聞きながら、私は首を傾げた。


ちなみにその後、辺境伯はおにぎりも豚汁も、とんでもない量をおかわりして、私を驚かせてくれたのだった。

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