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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第二章

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新しい魔導具4

* * *


ティアとの会話を終え、クリスとカイルは食卓で向い合わせになり夕食をとっていた。


サラダを口に入れると、カイルは目を見開いてもくもくと咀嚼する。


「お、美味いな。私もサラダなど、あまり好んで食べることはないが……この肉が乗っているだけで、かなり箸が進む」


「そうですね。恐らく、生野菜をあまり摂らない騎士たちのために、ティアが工夫してくれたのでしょう」


もくもくとクリスもサラダを口に運ぶ。


相変わらずこの男は、ティアのことになると表情が緩むなとカイルは思う。


「ところで、先程自分も一緒にと言ってきたのは、お嬢ちゃんが私とふたりきりになるのが嫌だったからか?」


「……いいえ?純粋な、魔導具への興味ですよ」


クリスに無表情でそう返され、カイルは苦笑する。


(自覚があるのかは分からないが……。ティアの正体を知った時に、この冷静沈着な一匹狼がどんな反応を見せるか、今から楽しみだな)


ここにサクがいたら、間違いなくカイルと気が合っていただろう。


そんな内心を隠して、カイルは再び夕食を口に運ぶのであった。





* * *


夕食の後片付けが終わり、試作品を取りに一度部屋に戻る。


クーラーボックスの中に水筒やシュラフを詰める。


幼女には少々重いが、クリスさん達の前でアイテムバッグを使うわけにもいかない。


カイルさんの部屋はそれほど遠くないし、まあ引きずって行けばいいかと思いながら部屋を出ると、廊下にクリスさんが立っていた。


「荷物」


「え、あ、ありがとうございます」


クリスさんはすっと手を差し出すと、クーラーボックスを私の手から取り上げた。


もしかして、荷物を運ぶために、待っていてくれた?


そのまま歩き始めたクリスさんの後を、慌てて追いかける。


小走りしてクリスさんに追いつき、横に並んでちらりと見上げると、涼しい顔をしている。


これくらい、普通のことだって思ってるのかな。


でも、私は嬉しかったから。


「ありがとうございます。助かりました」


ちゃんと聞こえるように、お礼を言った。


「……別に。これくらい、なんでもない」


そう答えた時のクリスさんの頬が、少しだけ赤いような気がしたのは、多分気のせいではないだろう。


温かな気持ちで少し歩いた先のカイルさんの部屋に入ると、なにか良いことでもあったのかと聞かれてしまった。


「なんでもありませんよ。きっと副団長に見てもらえることに、ワクワクしているだけでしょう」


「ふぅん?まあ、そういうことにしておこうか。それで、クリスの持っているそれが、例の魔導具かい?」


そう言って誤魔化すクリスさんを、カイルさんはにやにや顔で見たが、深くは突っ込まずにクーラーボックスを指さした。


まあね。荷物を持ってもらえて嬉しかったんですなんて、別に大したことじゃないしね。


そんな話をするのも確かにちょっぴり恥ずかしいし、このままスルーして説明に移ろう。


そうして私は、クーラーボックスに入れてきた魔導具たちを取り出し、アイザックさんに話したようにひとつひとつ丁寧に説明した。


カイルさんは物珍しそうに、クリスさんはあまり驚きはないが、なるほどと感心したように聞いてくれた。


「んーどれも面白いね。特にこのスイトウ。飲料水は荷物になるから全員携帯しているわけじゃないし、保温保冷の効果までついているのは嬉しいなぁ」


「そうですね。補給用の水は皮袋に入れているので、すぐにぬるくなってしまいますから。まあもう慣れましたけど、やはり冷たい水が飲みたいとは思います」


意外にも水筒の食い付きが一番良いかも。


まあ討伐時って気を抜けないし、食事と水くらい美味しいものをと思う気持ちも分かる。


でもそれなら、クーラーボックスや保冷バッグにも反応しても良さそうだけど?


「うーん正直、私たちはあまり調理には関わらないからね。それに騎士たちも、それほど料理が得意というわけではないから……。いやしかし、肉や魚が日持ちするのはありがたいな」


あまり需要がないだろうかと聞いてみたら、カイルさんが苦笑いしてそう答えてくれた。


そうか、お貴族様がお遊びに行くのとは違うんだし(騎士団のみんなは一応貴族だけど)、料理人を連れて行くわけはないか。


それにふたりは副団長様と隊長様だし、料理なんて担当しないよね。


それでも長期の遠征時に、保存食ではない食材を持って行けるのは助かると、クリスさんがフォローしてくれた。


「まあ実際に使ってみないと分からないが、かなり便利なものばかりだと思うよ。お嬢ちゃんの発想は素晴しいね」


カイルさんもそう言ってくれて、ほっとする。


このふたりからも良い評価をもらえたなら、ベンデル男爵の反応も悪いものにはならないだろう。


「実際に使ってみないと……かぁ。私もクリスさんたちみたいに戦えたら良かったのに。一緒について行くことができたら、もっと魔導具作りのアイディアが浮かんだかもしれません」


そんなのは無理だと分かっているが、やっぱり実際に目で見て、経験するということは大切なことだ。


もちろん騎士のみんなからの意見を聞くのもすごく参考になるが、前世の感覚を持っている私が自分の目で見たからこそ、閃くものもあるだろう。


そう考えると、実際に騎士たちがどんな風に討伐に出向いているのかを、知りたいと思ってしまったのだ。


「ティア、それは……」


「いや、行けないことはないぞ」


窘めようとしたクリスさんの声を、カイルさんが遮る。


「お嬢ちゃんが嫌でなければ、仕事の一環としてついて行くことは、可能だぞ?」


とうする?と、カイルさんが試すような目で私を見る。


「ティア―――」


「……行きたい。ぜひ、同行させて下さい。お願いします」


クリスさんが止めようとしたのには気付いたけれど、それでも私は、カイルさんにそう答えていた。

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