新しい魔導具3
試作品たちをマジックバッグに収納し、その日はそのまま騎士団寮へと帰って来た。
ベンデル男爵との連絡役としてカイルさんに言付けるよう言われているので、まずはカイルさんに試作品ができたことを伝えないと。
アイザックさんからもお墨付きを頂けたから、ちょっと期待できるかも。
そんなうきうきした気持ちで、ケイトさんと一緒に夕食を作る。
「ご機嫌ね。それにその鶏ハム?保冷庫に入れておいただけなのに、ちゃんとハムになっていて凄いわ」
「えへへ。美味しいんですよ、味見してみます?」
昨日の夜に仕込んでおいたものを茹でたばかりの鶏ハム、なかなか良い色に仕上がっている。
プレーンにクレイジーソルト、ハーブ入りと三種類作ってみたが、どれも美味しそうだ。
「あら、ホントに美味しい」
一口ずつ試食したケイトさんも気に入ってくれたみたい。
前世でもよく作ったのだが、作り方は調味料で漬けて一晩おき、塩抜きした後茹でるだけ。
サンドイッチの具にしても良いし、サラダの上に乗せても美味しい。
前世だとラーメンの上に乗せたりチャーハンの具にしたこともあったなぁ。
「あの子たち、サラダが出ると不服そうな顔をするけれど、このハムを乗せたら喜んで食べそうね」
ケイトさんがにこにこと野菜を出してきてくれた。
そう、そうなの!
男性ってあんまり好んで生野菜を摂らないんだよね。
大事な栄養素が詰まってるっていうのに。
弟たちもサラダなんて必要?ってよく言ってた。
そんな弟たちも、このハムを乗せたサラダは美味しいって食べてくれてたし、きっと騎士たちも気に入ってくれるはず。
「じゃあ用意しちゃいましょう。いい時間になってきたわ」
「そうですね。今日もお腹空かせて帰ってくるはずですし、野菜も多めに切っておきます!」
「え、今日サラダ?え〜……って、なんかお肉乗せてる」
「そ。プレーンとハーブとクレイジーソルト、どれがいい?」
サラダを見てちょっぴり顔を顰めたアランだったが、鶏ハムを見て表情が変わった。
「え、何それ選べるの?オレ、全種類食べてみたい!」
「じゃあ二切れずつね」
お皿いっぱいの生野菜の上にハムを乗せてアランに渡すと、うわぁとキラキラした顔をされた。
「野菜、たくさん食べてね」
「おう!さんきゅー」
そしてうきうきしながら机へと向かって行った。
すでに食べ始めている騎士たちを見ると、みんな満足そうに頬張っているので、予想通りと言えるだろう。
よしよしとにやけていると、カイルさんが現れた。
「おや、お嬢ちゃん今日はご機嫌だね。そんなに今日のメニューが自信作なのかい?」
「あ、お疲れ様です。カイルさんはどのお肉にしますか?美味しいと思いますよ」
そうして三種類の鶏ハムを見せると、へえと感心したように覗き込んできた。
「野菜嫌いの騎士たち対策ということかな?なかなかやるね。よく見れば、普段サラダなんて口にしないやつらまで、美味しそうに食べているじゃないか」
「そういうことです。数日ですが保存も利くし、色んな料理に使えるので便利なんですよ」
ついつい自慢気になってしまったが、かわいらしいねと頭を撫でられた。
……あれ?
そういえばカイルさんて、私が十六歳って知ってたはずよね?
それなのに、扱いが幼女から変わってないんですけど!?
気付くのが遅かったから今更だけど……なんかちょっと解せない。
そんな微妙な気持ちで撫でられていたが、大事なことを伝え忘れるところだったと、慌てて口を開く。
「そういえば、試作品ができたのでベンデル男爵に連絡して頂けますか?忙しいのに、すみません」
「それが私の仕事だから、気を遣わなくても良いのに。でも、そうだね。男爵に見せる前に、私にも披露してほしいな」
「あ、はい。もちろん良いですよ。カイルさんの意見も頂けると嬉しいです」
「じゃあ夕食の片付けが終わったら、私の部屋に来てくれるかい?」
こそこそとふたりで話していると、そこへ眉間にしわを寄せたクリスさんが現れた。
「……何をしているんだ」
あれ?なんだか機嫌が悪い?
「そんな顔しないでほしいね。お嬢ちゃんが試作品ができたと言うから、見せてくれないかとお願いしていただけだよ」
カイルさんの説明に、クリスさんが表情を緩める。
クリスさん、私の正体については知らないけど、王宮の要請で魔導具を作っていることは知っているのよね。
でもそれは内密の話なので、周りに聞かれないよう内緒話をしていたのだと理解してくれたようだ。
「なるほどな。順調に進んでいるのか?」
「はい、まあまあです」
クリスさんの問いに答えると、良かったなと微笑みが返ってきた。
「それで……今日のサラダはハムを乗せているのか。美味そうだな」
「あ、クリスさんはどれを乗せますか?三種類あるんですけど」
「全部美味そうだが……ティアのおすすめは?」
「うーん。個人的には、ハーブチキンが好きですね」
「じゃあ、それを多めに。他の二種類も一切れずつ乗せてくれるか?」
「はい!」
いつもの穏やかなクリスさんに戻ったのに安心して、和やかな会話をしていると、カイルさんにじっと見つめられているのに気付いた。
「君たち……あんまり堂々とイチャイチャしないでくれるかい?」
「はい!?な、ななななに言ってるんですか!」
呆れたようでいて、にやにやとしたカイルさんの笑みに、ぶわっと顔の熱が上がる。
そうか、カイルさんは私の本当の年齢を知っているから、面白がっているのね。
だからって、本人を前にしてそんなこと……!
私がひとりであわあわしていると、クリスさんが馬鹿馬鹿しいと一笑する。
「ただの食事についてのやり取りを、下世話な方向に持っていかないで下さい。それより、ティアさえよければ、俺も一緒に作ったものを見せてもらっても良いか?」
「え?はい、構いませんよ」
珍しい、クリスさんも興味があるのかな?
まあ確かに、意見はできるだけ多くの人からもらえた方が良い。
「では、後ほどカイルさんのお部屋で」
そう約束すると、ふたりはトレーを持って食卓の方へと向かって行った。




