新しい魔導具1
今日から新年度ですね。
新しい環境となる方も多いかと思いますが、ティアに負けずに頑張りましょう!
……と自分にも言い聞かせています^^;笑
「うーん、こんな感じかな?形状はやっぱり筒状がいいかしら?軽い素材にして、容量アップの魔法と、保冷保温の効果を付与して……」
「今日はなに作ってるの?」
今日はお店の定休日。
お休みといっても、店の作業場で魔導具作りをしているから、仕事には変わりないんだけどね。
昨日ベンデル男爵から依頼を受けて思い付いたものを、早速企画書として書き起こしていたところ、猫姿のルナが現れた。
「これ?水筒。ほら、討伐の時なんかに、個人で水分補給できるものがあると便利でしょ?」
イラスト付きの企画書をルナに見せると、ふーんとあまり興味なさげな返事が返ってきた。
まあ精霊は水分補給なんて、特別必要ないものね。
本当は食事だっていらないんだけど……なぜだか私の作るものは美味しいからって、ルナもサクもよく食べに来る。
「そんなもの持たなくても、水属性魔法で出せばいいじゃない」
「まあ、それはそうなんだけど……」
私だって最初はそう思ってた。
でも、これにはなかなか繊細な魔法操作が必要らしいのだ。
「人間ってね、綺麗な水じゃないと、お腹壊しちゃうのよ……」
「……面倒くさいわね」
私の言葉に、ルナは全てを理解してくれたようだ。
そう、飲み水とは綺麗な水でないといけない。
しかし、一般人が魔法で出せる水とは、決して飲めるほど綺麗なものではないのだ。
「手を洗ったりする分にはいいんだけどね。飲むとなると、一度煮沸して菌を殺さないといけないらしくて。それから飲める温度まで冷まして……って、なかなかの手間よね」
実際に、昔はそれでよくお腹を壊した騎士がいたらしい。
そりゃ魔法で手軽に美味しい水が飲めるなら、その方が良いだろう。
しかし、そのための水を作り出すためには高い魔法レベルと魔力操作が必要なのだった。
「それでそのスイトウね。いいんじゃない?今のティアのレベルなら、軽量化の魔法も付与できそうよ」
「本当!?じゃあ、さっそく試作品を作ってみましょ」
ルナの言葉に、俄然やる気が出てきた。
まずは容器ね。
大きさは……そうね、とりあえずアイテムバックに入るくらい、200ml程の容量でいこう。
前世でちょっと一口飲むサイズの水筒があったけれど、意外と役に立っていた。
容量二倍をつければ、ペットボトルくらいの量は持ち歩けることになる。
そう考えながら、ステンレスに似た軽めの合金鋼を素材に、底になる円の周りに、長方形の板をくるりと覆っていく。
魔導具師としてのスキルを使えば、溶接も楽ちんだ。
別でフタも作り、ひねって開けられるように組み合わせる。
これも火属性魔法を使って、合金鋼の形を変えれば簡単。
容量二倍の効果と軽量化、それに保冷保温の魔法付与も忘れずに。
「できた!うん、なかなかいい感じ」
あっという間に試作品は完成。
「鑑定」
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水筒
合金鋼製の水筒。
容量二倍、重さ二分の一、保冷保温効果付き。
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「よし。魔法付与もちゃんとできているし、試作品としてはなかなかね。次は何にしようかしら?」
「まだ他の依頼があったの?」
そうか、ベンデル男爵との打ち合わせの時にはルナはいなかったっけ。
そこで、ルナに男爵から受けた依頼を簡単に説明していく。
実は水分を持ち運びできるような道具がほしいと言われたわけではなくて、魔物討伐や遠征の際に便利な道具の開発を頼まれたのだ。
普段の遠征の様子を聞かせてもらって、まぁ色々と不便なのだなぁというのが第一印象。
少し前に前衛の騎士も持てるようなアイテムバッグを作ったのだが、それが好評な理由がよく分かった。
まぁなんというか、機動力重視なのよね。
余計なものは持たない!って。
飲食物は、補給部隊っていう専用の人たちが持ち運びし、食事の準備もする。
分業するのは効率的だし、戦う人間は身軽にって考えは分かるけど、持っておくと便利なものってあるじゃない。
ポーション然り、水分然り。
あ、でもさすがに携帯食料は各自持っているんだって。
某携帯補助食品みたいな、硬いビスケット的なやつ。
もし自分の隊だけはぐれたら、洒落にならないもんね。
まあとにかく、こうした騎士たちの不便を解消するための魔導具を作ってくれないかということらしい。
ちなみにベンデル男爵は、若い頃騎士だったんだって。
騎士団の独身寮に住んでいたこともある、いわば先輩。
確かにガッチリしてたし、見た目強そうだもんね。
そして騎士時代にその不便さを知っているということもあり、陛下からこの役目を請け負ったのだとか。
本人もすごくやる気満々だったし、陛下の采配もバッチリってことよね。
私も身近な人たちの役に立てるのは嬉しいし、毎日騎士たちと接しているから、意見も聞きやすい。
なんだかんだで陛下の掌の上な気はするけれど……。
「……ティア、楽しそうね」
「えっ!?分かる?やっぱり分かっちゃう?」
緩んでいる頬をぐにぐにと自分で潰し、お仕事モードを取り繕おうとしたのだが、どうやら失敗のようだ。
「だって作るの楽しいんだもん!あると便利だけど、どうやって作っていいか分からなかったものも、魔導具師のスキルなら簡単に作れちゃうし!」
「別に悪いなんて言ってないじゃない……。まあ、好きなことをして人の役に立ててるなら、良いんじゃない?」
呆れたようにルナは言うが、その通りだ。
好きなことが人に喜ばれる、こんな嬉しいことはない。
「でも熱中しすぎて無理はしないこと。忘れてるかもしれないけど、体は子どもなんだからね。光の精霊のおかげで疲れにくくはなってるけど、油断は禁物よ」
「あ、私ってば意外と体力あるのね〜と思ってたんだけど、そういうことだったのね。なるほど、じゃあちょっとくらい夜更ししても……」
「ティア!」
「じょ、冗談よ〜。無理はしない、約束する」
まったくもう……と眉間にしわを寄せるルナに、大丈夫!と指切りをする。
そうね、この年で無理をして過労死なんてことになったらマズイもの。
でもきっと、そうなる前にルナがちゃんと止めてくれると思うけど。
「……なあに?」
「ううん。ね、今日の夕食は何にしようか?騎士のみんな、何が食べたいかな?」
どうせあいつらは肉でしょと答えるルナに、あははと笑い返したのだった。




