ある騎士団員たちの集い
その日の夜、クラインシュミット王国騎士団独身寮では、ある会合が行われていた。
「全員揃ったか?」
「夜勤の者以外は、全て。確認済みです」
普段とは違う、ぴりりと緊張感すら走る会場の歓談室。
参加している騎士たちの顔も真剣だ。
「よし。では始めよう」
「それではこれより、第十六回、我らが天使ティアちゃんのかわいさを語る会を開催する!」
その開始の合図に、いえ〜い! ぴーぴー! と騎士たちからの歓声が上がった。
そんな盛り上がりを見せる中、この会合に初参加だったアランは、ひとり微妙な笑いを浮かべていた。
先輩に誘われて来たはいいが、一体これはなんの集まりなのだろうと。
「俺、今週夜勤が続いててさ……。ちょっと体調変だなーと思ってたら、夜勤明けにティアが消化にいいパン粥作ってくれて、温かくして眠れば元気になりますよって言ってくれたんだ。そしたら、本当に次の日治ってて!マジ天使っているんだなと思ったね!」
この件、実はティアの無自覚な回復魔法の付与によるものだったのだが、この場にそれを知るものは誰もいない。
「俺は頼んでた腕輪が完成したからって、渡してくれた時の笑顔にヤラれたね。訓練頑張って下さいねって、その言葉だけでクリス隊長のシゴキに耐えられたぜ!」
そもそもシゴキ自体、そのシーンを目撃したクリスが苛立ったせいなのだが……この事実を口にするものはいなかった。
「僕は、あのグレーの毛並みの猫ちゃんと戯れている姿に癒やされます。猫ちゃんを抱いたティアちゃんを、まとめて一緒に抱き締めたい!」
これには多くの同意の声が上がった。
たしかにそれはちょっとやりたいかも、アランもそう思った。
「って、先輩たち!こんなことばっかり話すために集まったんですか!?そりゃティアはかわいいですけど、こんなことしてないで普通に仲良くすればいいじゃないですか!」
いつもは頼りになる先輩騎士たちの意外すぎる姿に、思わずアランはそう声を上げてしまった。
「「「「あ"あ"ん!?」」」」
そして、そこに騎士たちの怒気を孕んだ声が響いた。
あ、まずい。
アランはそう思ってばっと両手で口を閉じた。
……が、遅かった。
「てめぇアラン!ちょっとばかしティアちゃんと仲が良いからって、図に乗んなよ!」
「そうだ!十六のお前は並んでも兄妹みたいに見えるが、俺らは幼女と並ぶと犯罪臭がするんだよ!」
「嫁ナシ、彼女ナシ、色めく話もナシ!そんな俺らの唯一の癒やしの時間なんだよこれは!てめぇにそれを否定する権利はねぇ!」
怒涛の騎士たちの主張に、アランも返す言葉がない。
そうですね、その通りですと、どこかの世界のサラリーマンよろしくイエスマンに成り下がった。
(まあティアがかわいいのは事実だしなぁ)
作るご飯は文句なしに美味しいし、繕い物も綺麗に直してくれる。
誰に対しても優しく声をかけ、思い遣りがある上にあの容姿だ。
そりゃ先輩方がかわいがるのも当然だろう。
「じゃあお前たちに聞くぞ。ティアちゃんが一番かわいい顔をするのは、どんな時だと思う?思い付く者から手を挙げろ!」
この会合のリーダー的な騎士がそう言うと、あちらこちらからピンと伸びた手が挙がった。
あの時も、この時も!と騎士たちは大盛り上がりだ。
そんな中、アランもまた、笑顔でくるくるとよく働くティアの姿を思い浮かべる。
いきいきと動き回る彼女ももちろんかわいらしいが、それが一番ではなく――――。
『クリスさん!』
最初に彼女を連れてきた、自分の直属の上司の姿が思い浮かんだ。
「うーん……クリス隊長の前だと、すごく表情が豊かになるなぁとは思うけど……」
嬉しそうな笑顔も、迷うような仕草も、ちょっぴり拗ねたような表情も――――。
「ま、親鳥を慕うようなものかもしれないしな」
いつか気持ちに変化があるかもしれないけれど、自分はいつまでも彼女の味方でいたいなと思う。
それはきっと、ここにいる騎士みんなの総意だ。
小さなレディの幸せを、心から願っている。
「「………………」」
そんな騎士たちの会合を、窓の外でふたりの精霊が見守っていた。
「ねえ、“第十六回”ということは、少なくとも十五回、似たような会が開かれたってこと?」
ひくひくと頬を引きつらせるのは、ルナ。
「まあ、そういうことじゃねえ?」
対するサクは、無表情なので考えが読めない。
「嘘でしょ!?あいつら、一応王宮の騎士なんでしょ!?バカ?バカなの!?もっと他に話し合うべきことがあるでしょうよ!」
「あー……まあ、人間の男って生き物は、あんなモンだろ、多分」
意外と真面目なルナは驚き呆れ、サクの胸ぐらを掴んで揺さぶり叫んだ。
(言えねぇ……実は“ティアの連れている猫を愛でたい会”や“ティアに着せたい服を語る会”なんてものまであるなんて……)
ぐらぐらと頭を揺らされながら、諜報活動の得意なサクは、心の中だけでそう呟くのだった――――。
色々忙しくてお久しぶりになりました……
少し時間を頂くと思いますが、次からは続編を投稿していきたいなと思っています。
お待ち頂けると嬉しいです(^^)




