表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
番外編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

53/92

妹とその後のはなし

なんだかんだと忙しい毎日を送っていたが、最近ようやく家政婦業とお店、魔導具開発の兼業に慣れてきたある日。


「シャーロットからだ。なんだろう?」


少し前に和解した妹のシャーロットから、手紙が届いた。


時々こうして手紙のやり取りをしているが、意外とシャーロットは筆まめだった。


私の方がなかなか返事を出せなくて、むしろ怒られることもある。


「なあに、あの子から?変な内容じゃないでしょうね?」


そしてルナは、未だにシャーロットに対して厳しい。


これまでの私への対応に、不満を持っているようだ。


私も悪かったし、もう良いのよって言っても、頬を膨らませている。


「ええっと、――――お忍びで、遊びに来ても良い?ってことみたい」


「ええっ!?それ、オッケーしちゃうの!?」


うーん、ルナは微妙みたいだけど、私は良いと思う。


少しずつ時間に余裕もできてきたし、やっぱり面と向かって話すのも、姉妹のコミュニケーションとして必要だと思うのよね。


今まで私もちゃんと相手してあげられかったし、シャーロットが望むのなら、ゆっくり話してみたい。


「ダメかな?ルナがどうしても嫌なら、その間お散歩してても良いわよ?」


「〜〜〜っ!わ、分かったわよ!あたしも、姿は見せないけど、ちゃんと同席しますからね!」 


というわけで、お店がお休みの日に、シャーロットを招いてゆっくりお茶をすることになったのだ。





そして約束の日、約束の時間通りに、休業の看板が掛けられたお店の扉が、カランと音を立てて開かれる。


「いらっしゃい!って……、アンナ!?」


「お久しぶりです、セレお嬢様」


「お邪魔します。お姉様も会いたかっただろうから、一緒に来てもらったの」


うわーっ!うわーっ!!


シャーロットってば、なんて気遣いのできる子なの!!


「あ、ティアに優しかった、乳母の人ね」


ルナもアンナを覚えていたみたいで、ふーん優しいところあるじゃんと、シャーロットを褒めている。


「シャーロット様からお話は聞いていましたが、本当に幼い頃のお姿なのですね。でも、間違いなく、セレお嬢様です」


アンナは乳母として私が赤ちゃんの時から側にいてくれたので、当然私の幼い時の姿を知っている。


懐かしそうな目で、私を見つめてくれた。


「とりあえず、中に入れて下さい。座って、ゆっくり話しましょう?」


そう言われ、喜ぶ私たちを見て満足したシャーロットを、店の奥の休憩室へと案内する。


こぢんまりとしたスペースだが、水場や冷蔵庫、応接セットなどもあり、居心地が良いので私も気に入っている。


シャーロットにはソファに座ってもらい、お茶を淹れようとしたのだが、アンナにティーポットを取られてしまった。


ここはお言葉に甘えて、久しぶりに淹れてもらうことにする。


「面と向かって話すのは久しぶりね。元気だった?」


「まあまあです。一応お父様とお母様も、元気ですよ」


王宮での一件以来、両親とは疎遠だが、元気なことを聞けてほっとする。


正直、ふたりに対して親と娘という感情はないけれど、(私的には)不自由なく育ててくれたのだ、息災を喜ぶくらいの情はある。


そうしてお互い近況を伝え合う。


アンナの淹れてくれる、慣れ親しんだ味のお茶もとても美味しくて、話は弾んだ。


こんな風にシャーロットと話せる日が来るなんて。


あの日、シャーロットに再会できて良かった。


和やかな姉妹の会話に、ルナもちょっと肩の力を抜いたようで、いつの間にか猫の姿になって私の膝の上にいる。


「ところで、お姉様に相談があるんですけど!」


会話が途切れた時、シャーロットが意を決した表情でそう切り出した。


相談?私に?


何だろう、今までシャーロットに頼られたことなんてなかったからだろうか、ムズムズしてしまう。


「な、なぁに?私で分かることなら、何でも聞いてちょうだい」


くっ……前世からの長女気質がここに来て全面に!


頼られて苦労もするけれど、喜びも感じてしまうのよ、長子って生き物は!!


自然と緩む頬を自覚しながらも、冷静を装ってシャーロットの話を黙って聞く。


「その……お姉様は、時空の精霊と契約したのよね?しかも、時空だけじゃなくて、光属性魔法も使えるんでしょ?」


「あ、うん。そう、ね」


意外な質問に、きょとんとする。


シャーロットは魔術師のジョブを神様にもらったけど、そんなに勉強していなかったし、あまり魔法に興味がないんだと思っていた。


そんなシャーロットが、魔法のことで相談なんて。


「お願い!私、光属性魔法に憧れてるの!やって見せて、ううん、教えて!」


「……へ?」


目を爛々と輝かせて、シャーロットはがばっと向かい側から私の手を握りしめてきた。


その瞳を見る限り、真剣だ。


「……シャーロットお嬢様は、どうやら“聖女”というものに憧れているようで……」


そこへ、アンナが苦笑いして話を継いでくれた。


どうやらここ数年、傷を癒やし人々を救う聖女の物語が、貴族平民老若問わず、女性の間で流行っているらしく、例に漏れずシャーロットもどハマリしていた。


そういえばルナも、シャーロットが光属性魔法の練習をしているところを見かけた、と言っていたなぁと思い出す。


それにしても、前世でもそういうラノベが流行っていたような……。


時空を超えて流行するなんて、聖女物語、恐るべし。


「お願いです!私も聖女様のような女性になって、物語みたいな素敵な男性と恋をしてみたいんです!」


「え、ええ〜っと……それは、どうかな〜?」


ちらりと膝の上のルナを見るが、ふっと鼻で笑い、ふるふると首を振られた。


私には見えないが、どうやら光の精霊の許可は下りなかったようだ。


教えろと言われても、精霊の助けがなければ魔法は発動しない。


「ちょぉっと、難しいかな〜?」


目を明後日の方向に逸らし、シャーロットの追撃から逃れようとする。


「そんなこと言わないで!お姉様のケチ!」


「い、いやケチとか言われても……」


「じゃあ教えてくれたって良いじゃないですか!涼しい顔して難しい魔法使ってズルい!」


「ズルくは……」


「ズルいじゃないですか!もう!私だってたくさん練習してるのに、ちっともできるようにならないんだもの!」


どうやらルナが見た魔法の練習風景は、日常茶飯事だったようだ。


「と、とりあえず落ち着いて……」


「ううっ、なんでお姉様ばっかり〜!」


今にも泣き出しそうなシャーロットに、あわあわとフォローの言葉を掛ける私。


「だいたいお姉様はいつもいつも!私のことバカにしてるんでしょ!?」


「はあ!?そんなことしてないわよ!それを言うならシャーロットだって、いつも私に嫌がらせばっかりしてたくせに!」


そしてついには、ケンカに発展してしまった。


わーわー言い合う私たちを、静かに見つめる者がふたり。


「そういうお年頃ですからねぇ。シャーロットお嬢様が、こんな方だったなんて、私も知りませんでしたわ」


「こっちの方がよっぽど親しめるわね。この子、ワガママだけど、ちょっとかわいく思えてきたわ」


そんな私たちを見ながら、アンナとルナがそれぞれ呟きを零す。


そんなふたりが、心の中で思うことは、同じだった。


『ちゃんと、姉妹らしく見えるわね』






ケンカするほど仲が良い、って言うから、ね?


これからは、ちゃんと本音でケンカもしようね、シャーロット。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 我儘な癇癪持ちなのに、愚か者では無くてちゃんと妹に見える。 上手いなぁ。 良い後日談でした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ