風邪っぴき騎士と魔道具師 前編
番外編を、時々ですが投稿しようと思います。
とりあえず冷却シートの案を頂いたのでこのお話を……。
後編は夕方に投稿しようと思っています(*^^*)
「え、風邪……って、クリスさんがですか?」
「ああ、どうやら訓練の時から調子が悪かったみたいでね。今日の夕食はいらないって、帰ってすぐ、部屋に戻って行ったよ」
ある日の夜、騎士のみんなのために夕食を配膳していると、カイルさんがそう教えてくれた。
本人は『寝てれば治る』と言っていたようだが、夕食も食べずに寝るって、余程辛いのではないだろうか。
大丈夫かな……と心配になる私を見て、カイルさんがにっこりと笑う。
「すまないが、後で少し様子を見に行ってやってくれないか?クリスも、お嬢ちゃんになら看病を許すかもしれないからな」
「あ、もちろんです。私だからどうということはないと思いますけど……」
私にならと言われたが、そりゃ厳つい騎士のみんなに看病されるよりは、幼女のがマシってくらいなものだろう。
「それなら、後片付けは私がやっておくから、ティアちゃんは食事が終わったらクリスの所に行ってあげてちょうだい」
ケイトさんもそう言ってくれたので、今日はお言葉に甘えることにした。
あ、食べられそうなら、おかゆでも作ろうかな。
この独身寮には、少しだけどお米も常備してあるので、やろうと思えば簡単に作れる。
寝ていたいかもしれないし、とりあえずご飯だけ炊いておいて、様子を見に行ってから決めよう。
無理なら、おにぎりでも作って他の騎士にあげれば、無駄にはならないだろうし。
そう考えた私は、配膳を終えるとお米を研ぎ、少しだけ急いで夕食を口に運んだ。
その後、お米の炊いている鍋をケイトさんにお願いして、クリスさんの部屋へと向かった。
「失礼しま~す」
控えめにノックをしたのだが、返事がなかったので、静かに扉を開ける。
すると、真っ暗な部屋に、少しだけ荒い息遣いが聞こえた。
魔法で淡い光の玉を掌の上に作り、そっとベットの方へと近付く。
そこに横たわるクリスさんは、やはりというか、かなり辛そうだ。
普段とは違う、弱った姿を目の当たりにして、自然と眉が下がってしまう。
「うわ、熱っ……」
そっと手を伸ばしクリスさんの額にあてると、かなりの高熱であることが感じられた。
汗もたくさんかいているし、暑そうだ。
「きっと、無理して訓練に参加してたんだろうなぁ」
独身寮で一緒に過ごしている中で気付いたのだが、クリスさんはほとんど人に弱音を吐いたり悩みを打ち明けたりしない。
時々難しそうな顔をしていることはあるが、どうしたのかと聞いても、なんでもないとはぐらかされる。
まあ見た目からしてそんな感じだから、予想通りなんだけど、ちょっと寂しくもある。
「っ……あつ、い」
「!あ、ぼーっとしてる場合じゃなかった。えっと、とりあえず汗を拭くのと着替えかな」
汗だくのままだと悪化してしまうし、着替えたら冷やした方が良さそう。
えっと、熱が高い時は脇の下を冷やすんだよね。
でも保冷剤的なものはないし……って。
「……そっか、作ればいいのか」
なんたって私は魔導具師。
「少し待っていて下さいね」
簡単に顔周りの汗を拭いて冷水で冷やしたタオルを額に置く。
水属性魔法でぬるくなりにくくしたから、しばらくは冷たいままだろう。
その間に、ちゃちゃっと作っちゃおう!
というわけで、またそっと扉を閉め、私は自室へと早足で向かった。
「へぇ、前世にはこんな便利なものがあったのね」
「うん、冷却シートっていってね。熱がある時に額に貼ると、気持ち良いの」
部屋に戻った私は、ルナに手伝ってもらいながら、保冷剤もどきと、冷却シートもどきを作ってみた。
どちらも水属性魔法を付与すれば、簡単に作ることができた。
まあ、冷却シートのあのプニプニを再現するのは難しいので、粘着性のある冷たい布という感じになってしまったが。
「冷感タオルでも良いかなと思ったんだけど、タオルだと寝返りをうった時に落ちちゃうからね。これなら軽いし、多少動いても平気なの」
試しに自分のおでこに貼ってみたが、まあまあの着け心地である。
あのプニプニとまではいかないが、ひんやりしていて爽快だ。
「じゃあ、急ぎましょ。まあ、あの騎士にはティアがお世話になってるからね」
なんだかんだ言いつつ、ルナは優しいなと思いながら微笑むと、睨まれてしまった。
でも、その頬がほんのり赤くて、私はまた笑みを零したのだった。




