月の夜と精霊王1
短めです
すみません、キリが良いので……
短い別れの時間を過ごした後、私は荷物の整理を始めた。
荷物、といってもそんなに多くは持って行けない。
簡素な服を数枚かと、手芸の材料くらいだろうか。
あとは――――ルナ。
ルナに、会いたい。
お昼に会ったばかりだけど、まさかあれが最後の別れになるなんて思ってなかった。
ちゃんと、さよならしたかった。
ありがとうって、伝えたかったな。
けれど探す時間はないし、見つかってしまう可能性もある。
仕方ないと割り切るしかない、そう思った時だった。
ちりん……。
「にゃあ」
「え……ルナ!?」
鈴の音に振り向けば、そこには月の光に照らされたルナがいた。
窓から入って来たのだろうか? 会いたかったその姿が突然現れたことに、驚きを隠せずにいると、頭の中に直接声が響いた。
「この子を助けてくれたお礼に、力を貸してあげる」
「え?だ、誰!?」
周りを見回しても、猫のルナしかいない。
一体誰が?と思っていると、にゃあとルナが鳴いた。
すると、月の光からキラキラと輝く粒子が現れた。
その光の粒子が少しずつ一点に集まっていくと、人の形を作っていく。
信じられない思いで呆然としていると、光はだんだんとくっきりとした形になり、やがてとても綺麗な女の人の姿になった。
「め、女神様……?」
足元まで伸びた淡い金色の髪と、紺碧の瞳。
まるで月の女神様のようだと思った。
その美女が、私の言葉にふふっと笑って口を開く。
「あら、ちょっと惜しいわね。私は時空の精霊王。そしてそっちの猫は、私の従精霊見習いよ。ほら、元の姿にお戻りなさい」
精霊王と名乗った女性が人差し指を振ると、ルナが光に包まれた。
その光が少しずつ弱まると、そこにいたはずの猫の姿はなく、代わりに背中に羽の生えた、掌に乗るくらいの小さな女の子がいた。
「ルナが、精霊……?」
「そう!セレスティア、お話できて嬉しいわ!助けてくれてありがとう。ずっとお礼が言いたかったの」
ラベンダー色をしたふわふわのツインテールを揺らして、ルナが笑った。
え、ちょっと待って、ルナが猫じゃなくて本当は精霊で、こっちの美女が精霊王様で……。
「って、時空の精霊王様!?」
「そうよ」
にっこりと微笑むこの美女が?
信じられないと二度見する。
この世界には精霊が存在していて、それぞれの属性の精霊達の頂点に、精霊王様がいる。
そして、私達は彼らの力を借りて魔法を使っている。
火、水、風、土の四大精霊は人に好意的で、ほとんどの人に力を貸してくれる。
しかし、光、闇、時空の精霊は、数が少ないのか、それとも人に好意を持っていないのか、その力を貸してくれることはほぼない。
理由が分からないのは、基本的に精霊は人に姿を見せないから。
友好的な四大精霊であっても、その姿を見せてくれるのは、契約するに足りると選ばれた人だけらしい。
それなのに、そんな稀少な時空の精霊どころか、精霊王様までもが今私の目の前に……。
「ど、どういうこと?何でここに?」
混乱する私と、そんな私を見ていたずらが成功したとばかりに、にこにこと微笑み合う精霊王様とルナ。
夢?これは夢なのか?
誰かこの状況を詳しく説明できる方、いらっしゃいますか……?




