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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第一章

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それから2

あの時の、陛下との交渉。


『では、私が保証人になって、店を出すことにしよう。もちろん場所も建物も金もこちらが用意する。表向きは普通の雑貨屋でもなんでも良い。君が売りたいものを売れば』


そんなうまい話ある?って思ってたら、やっぱりそんなことはなくて……。


『表向きは、ね。そして、王宮からの要請があれば、特別に武具や消耗品などを作ってほしい。ああ、君は時空と光の魔法も使えるらしいしね?中敷きやタオルのように、騎士たちの役に立ちそうな魔導具を思い付いたら、どんどん提案してほしい』


それって王宮で働くのと、どんな違いが……と思っていたら、陛下はちゃんとプレゼンしてくれた。


『もちろん、これは秘密裏にしよう。表向きは普通の雑貨屋だ。武具まで扱うなんて、思う者はいないだろう。そして独身寮での生活だが、これも暫くそのまま続けてもらう。突然辞められては、騎士たちも困るだろうからな』


どうやら陛下は、寮の環境整備や食事のことも把握しているらしい。


騎士たちの癒やしを奪うのは、本意ではないとも言われた。


癒やしとはたぶん、食事のことだと思う。


でも私としても急に辞めるのは寂しいもの。


いつか自立をと思っていたが、もう少し先になる予定だった。


せっかくケイトさんや騎士のみんなと仲良くなれたのだ、できることなら、もう少しみんなと一緒にいたい。


『それと修行先のことだが……。雇い主に聞いたところ、君には教えたいことは、ほとんど伝え終わったということだ。飲み込みが異常に速かったらしいね?ほぼマスターしているみたいだよ。だから、困った時はいつでも来ればいいが、毎日修行に来る必要ないということだったよ』


これには本当に驚いた。


グレンさん、毎日違ったものを作らせてくれていたけど、得意不得意を見定めているだけだと思ってた。


まさかもう修行の必要がないだなんて……。


『ギルドのアイテムショップは気にしなくて良い。私が話をつけておくから』


最後に、良い笑顔でこう言われた。


勝手なことしやがって!と私の脳内のアイザックさんが、ランディさんに怒った。


うん、恐らく現実でもこのやり取りは行われただろう。


とまあこんな感じで、家政婦の仕事を続けながら、空いた時間に新しい武具や装飾品の試作品や、お店に並べる予定の商品を作っている。


魔導具師になったことで、作業のスピードがかなり上がったので、そんなに無理なく行えている。


むしろ、楽しくて色々作りまくっている。


また、鑑定で材料や出来上がったものの品質を調べることができるので、質の良いものを作れるし、不良品はすぐに見つけることができる。


鉄の棒

状態:質が悪く、壊れやすい


こんな感じで教えてくれる鑑定さんは、とても便利だ。


こういう仕事は信用が第一だからね。


納期を守ることと安定した品質維持は大切なことなのだ。


お店の開店はもう少し先だが、実を言うとちょっぴり……いやかなり楽しみだ。


家政婦業や制作時間のこともあって、実際にお店を開くのは週にニ、三日にする予定で、そんなにバリバリ売るつもりもない。


でも、前世でもちょっと憧れていただけあって、こうして転生後に、小さな夢の実現ができることを嬉しく思ってしまうのだ。


“私の店”なんて、ドキドキしちゃうよね。


侯爵家で引きこもっていた頃の私が聞いたら、いったいなにが!?って驚くだろう。


ドキドキと驚きといえばもうひとつ、セシルさんのこと。


王宮から帰った次の日、ふたりだけで話したいと呼び出された。


今までセシルさんとふたりになったことなんてなかったから、それはもうすごくドキドキした。


いや、こんな幼女姿でなにをと思うかもしれないが、一応中身は大人ですからね。


でも、ふたりきりになってからのセシルさんの話で、そんなドキドキウフフな想像は飛んで行ってしまった。


『父の勧誘を断ったそうですね。ですが、騎士団のために力を貸してくれることには了承したと。私的には、一番ありがたい結果になりました。ああでも、婚約の話を蹴られたのは、少し残念です』


はじめは何を言われたのか、全く分からなかった。


でも、一呼吸おいて色々考えてみると、答えはあっさり導き出された。


『おっ、王子!?セシルさん、第三王子様だったんですかっ!?』


当たりだよと笑われた。


その表情がすごく素敵でドキッとしてしまったのは、ここだけの秘密だ。


よく考えたら、セシルさんの家名、フェンドラーって王妃様の実家だ。


そして、この前付けていた腕輪も、やっぱり私が作ったものだった。


陛下がアイザックさんの店で買ったものを、渡していたみたい。


そして、元冒険者の陛下の教育方針なのか、王子たちはそれぞれ騎士団だったり冒険者だったり、心身を磨くために修行に出るんだって。


『あれ?でも第三王子……?陛下ってどう見ても四十そこそこですけど、確かセシルさんはアランと同い年で十六……』


『ああ。あの人、顔面詐欺だからね。本当は今年で五十だよ』


驚いた。


すんごい驚いた。


そりゃ上にご兄弟がいてもおかしくないわ。


『それはともかく。私はティアにわりかし好かれている自信があったんですが?まさか即決で断られるなんて、傷付いたなぁ。ああ、ひょっとしてクリス隊長ですか?でも彼は、君が本当は今年成人の侯爵令嬢だとは知らないはずですよね?』


な、ななななぜそこでクリスさんの名前が!


そんなんじゃありません!と否定しておいたが、信じてもらえたかは不明だ。


「急に黙って、どうした?」


「ひぇっ!? い、いえ。なんでもありません……」


つらつらと王宮に呼ばれてからのことを思い出していると、急にクリスさんが覗き込んできた。


か、顔!


近い!!


「顔、赤いぞ?」


くっ……!相変わらず近くで見てもイケメンだ。


顔が赤いのは、セシルさんに言われたことを思い出していたからであって、決して意識しているわけではない!と自分に言い訳をする。


そんな私たちを、私が実は十五歳だと知っているふたりの精霊が見つめていた。 


サクはにやにやと、ルナは呆れた目をして。


「もう!あなたたち三人には、もうおやつ作らないからね!」


なんであたしまで!?とルナが叫んでいるが、知らんぷりだ。


いくらサクがゴマをすってこようが、クリスさんが謝ってこようが、そんな笑いをこらえた顔で言われても、全然反省しているようには見えないんだから!

残り2話は、明日一度に投稿する予定です。

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