それから1
「ちょっと!アンタさっき最後のひとつ食べたでしょ!?それはあたしのよ!」
「ケチ言うなよ。お前はいつでもコイツの作ったものが食べられるんだから、こういう時は譲るのが優しさってモンだろ?」
なんでアンタに優しくしなきゃいけないのよ! と金切り声を上げているのは、ルナ。
「いや、初めて食べたけど、実際まじで美味い。あんた、食堂でも働いていけるんじゃねぇ?」
「はは……。それはどーも……」
そしてこっちで私の作ったパンケーキをぱくぱく食べているのが、サク。
なんと闇の精霊。
クリスさんの契約精霊だっていうから、驚きだ。
「おい、サク。俺たちしかいないからって、遠慮なさすぎじゃないか?全く、いつもはもっと用心深いのに……」
そして私の隣では、ため息をつくクリスさんが同じようにパンケーキを口にしている。
甘さ控えめにして、チーズを乗せたのだが、気に入ってくれたらしい。
もちろんヨーグルト入りのふわふわのやつ。
型だって自分で作って、厚みのあるものに仕上がっている。
あ、そうそう。
なぜ私たちが契約精霊を隠すこともなく、こうしてお茶をしているのかというと、話は王宮に呼ばれた日に遡る。
ランドルフ陛下との話の後、クリスさんの待つ部屋に入ると、そこにはサクも一緒にいた(らしい)。
らしい、というのは、私には見えなかったからだ。
でも、一緒にいたルナは違った。
『ああっ、あんた!もう二度と会いたくないって言ったのに、どうしてここにいるのよ!』
『はっ!約束した覚えはねぇからな。どこにいようと、俺の勝手だ』
とまあ、こんな感じでケンカを始めた。
互いに自分の契約精霊しか見えない私とクリスさんは、???って感じだったんだけど……。
こうなったらもう仕方ないよねってことで、ルナもサクも、姿を見せてはじめましてをしたというわけだ。
どうやら闇の精霊は隠密行動が得意なようで、クリスさんはサクに頼んで、私のことも色々と調べていたみたい。
先日も思ったが、まあそれは仕方ない。
それに、精霊の掟で他種の精霊に干渉しないことになっているから、私が精霊王様の力を借りて年齢を偽っていることはクリスさんには伝えていないみたい。
なので、まあそんなに支障はないかということで、こうして仲良く?やっている。
「で?昨日オレが手伝ったショートソードは、出来上がったのか?」
「あ、うん。サクが協力してくれたから、ちゃんと闇の魔力も付与されたよ、ありがとう。この剣で薙ぎ払えば、魔法攻撃が無効化されるみたい」
そう言いながら、クリスさんに頼まれていた剣を取り出して見せる。
我ながら、なかなか良い出来だと思う。
ほら、日本には懐刀ってあるじゃない?
西洋風のこの世界には馴染みがないみたいだけど、打ち合っていて剣を落とした時なんかのために、短い剣を持っておくのも良いのではないかと提案してみたのだ。
そして試しに作ってみてほしいとクリスさんに言われ、サクの協力の下、こうして作ってみたというわけだ。
「……良い剣だな。手にしっくりと馴染む」
良かった、クリスさんにも気に入ってもらえたみたい。
普段使っている剣も、闇の魔力が込められているって言ってたし、持った感覚が似ているのかもね。
「お試しだと言っていた、容量二倍のアイテムバッグも、かなり活躍している。小さいのによく入るから、俺のような前衛には重宝する」
そう、やっと容量拡大のアイテムバッグも大っぴらに作ることができた。
拡大できるのは、今のところ頑張って二倍くらい。
前衛の人だって、少しでもポーションを持っていた方が良いよなぁと思い、以前のものとは違う、剣を付けるベルトに引っ掛けられるタイプの、コンパクトなものを作ってみたのだ。
クリスさんがそう言うならきっと、使い勝手が良かったのだろう。
ちなみに先日試作した中敷きやタオルも、陛下の許可が下りて、騎士団から正式に制作の依頼が来た。
ただ、私が作っているってことは基本内緒で、だけど。
騎士団員分って、そんな時間と場所がないんじゃ?って思うでしょ?
でもね、それがあるんだなぁ、これが……。
短くて……申し訳ありません(汗)
あと3話で完結となる予定です。
できれば最後までお付き合い下さい(*^^*)




