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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第一章

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王様の無茶振り3

「ここではセレスティア嬢と呼ぼうか。その姿は、時空の精霊の力かな?ひょっとして、契約精霊?」


そこで、今までどこかに行っていたルナが、精霊姿で戻って来た。


難しい顔をして、私の耳元で気を付けてと囁いた。


そして、それからも陛下は次々と私の秘密を披露してくれた。


エーレンシュタイン侯爵家での不当な扱い。


恐らく時空の精霊の力を借りて幼女の姿となっていること。


四属性の付与のみならず、光と時空の魔法も付与できること。


どうやら、自分で確認したことと、団長さんやカイルさんから報告された内容を繋ぎ合わせて、その答えを導き出したようだ。


正確にはルナじゃなくて、精霊王様の力を借りてるんだけど……。


素直にそんなことを口にするほど、私は能天気ではない。


それに、王のための騎士団なんだから、私のような怪しい人間の調査と報告は、して当然だ。


それについては予想していたが、鑑定スキルについては完全に予想外だった。


「とまあ、想像の範囲内も含め、私は君の秘密を色々知っている。そして、まだ才能が開花したばかりだとしても、その重要性も。側に置きたいと思うのは、当然だろう?」


ここで陛下の表情が変わった。


ランディさんのものではない。


為政者のもの。


誤魔化しや拒否など許さないと、その目が語っている。


「……それは、元の姿に戻って、王宮に勤めろということですか?」


「うん?まあそうだね。その姿では、蔑まれたり、実力を疑われたりするだろうから。それに、君のその容姿、本来の姿に戻ればかなりの美人だろう。なんなら、王子の誰かと婚約を結んでも良いよ。年頃を考えれば、第三王子が適当かな。君とも面識があるだろうし」


はぁ!?


なんか色々とぶっとんでいるというか、説明を求めたい内容があった。


子どもだから軽視されるっていうのは分かる。


王子と婚約、これもまあ、よくある誘い文句だ。


でも、面識があるってどういうこと?


「おや、知らないのか。まあ大っぴらに公表しているわけじゃないからな。でも、あいつからはよく君の話を聞いていたんだがね?」


ますますよく分からない。


とりあえず王子と婚約うんぬんかんぬんについては、きっちりとお断りさせて頂きたい。


王子妃なんて面倒くさい地位、まっぴらごめんだ。


元引きこもりをなめないでほしい。


それと王宮で働く件についてだが……こちらも、遠慮させてもらいたいとお断りする。


「なぜだい?そんなに悪い話だとは思わないけどね。君を蔑ろにしてきた家族を見返すこともできるし、私といううしろ盾がある以上、王宮での立場も安泰。王子が嫌でも、高位貴族の令息を夫にすることも可能だ。私から話をつけてやろう」


そうね、確かに貴族令嬢にとっては魅力的な話ばかりだわ。


けれど、私は普通の貴族令嬢ではない。


転生者だ。


私は、シャーロットをはじめ、エーレンシュタインのみんなを家族だと思っていなかった。


不遇な扱いも、私にとっては気楽な生活だった。


王宮でチヤホヤされながら魔導具師として働く?


そんなの、私は望んでいない。


私は、ただ大切な人たちの役に立てて、誰かの小さな幸せに貢献できたら、それで良い。


王子妃?


高位貴族の夫?


そんなものに、興味はない。


前世でもからきしだったけど、恋だってしてみたいし、私の相手は私が決める。


それに、元の姿に戻って家族を陥れたいわけじゃない。


せっかくシャーロットと向き合う機会に恵まれたのだ。


父と母も、別に私を虐待していたわけじゃない。


食べ物も服も、教養だって与えてくれた。


私という存在が、侯爵家を不利な立場に立たせてしまうのなら、しばらくはこの姿のまま、ティアでいたい。


そして、いつか。


自分のお店を持って、訪れる人々を笑顔にできたら。


心配そうに見つめるルナに、ふふっと微笑みを向ける。


それが、私の幸せだから。


「――――君の考えは、よく分かったよ。信じられないくらい、無欲だということもね」


陛下は驚いたような顔をした後、ふうとひとつため息をつくと、表情を崩した。


あ、少しだけ、ランディさんの顔に戻った気がする。


「ただねぇ。騎士たちのために、武具や魔導具を作って欲しいんだよね。私も元冒険者だったから、尚更思ってしまうんだ。過酷な遠征を乗り越えるために。そして、帰りを待つ家族のために、君の力を貸してほしい。それもまた、誰かの幸せに繋がるとは、思わないかい?」


陛下の言葉に、独身寮のみんなの姿が思い浮かぶ。


今はまだ、厳しい遠征に送り出すことがなかったから、分からなかったけれど。


ケイトさんのように、家族を亡くした人も、たくさんいる。


そんな人たちの役に、私が立てる?


私の作ったものが、みんなを守れる?


それなら、答えは――――。


「そう、ですね。そう思います」


思わず、ぽろりと出てしまった答えは、肯定だった。


そんな私の言葉を聞いて、ランディさんはにこりと微笑む。


「ならば、これは代替案だ。君の希望も取り入れた、ね」


その後に出された提案に、半分呆れもしたが、まあそれも良いかもしれないと思ってしまったのは、巧みな陛下のプレゼンテーションのせいだと思う。





* * *


セレスティアとの交渉を終え、クリスの待つ部屋へと向かうのを見送った後、ランドルフは執務室の一角を見つめて口を開いた。


「さて、どう思われたかな?感想を聞きたいものだね」


カタリと向こう側から音がすると、隠し扉が開き、ベンデル男爵を先頭に、一組の夫婦とその娘が現れた。


娘はぽろぽろと涙を流しながら、お姉さま、ごめんなさいと呟いている。


「灯台下暗しの意味がよく分かった。まさか、騎士団に拾われた娘がセレスティア嬢だったとは。くそ、私が先に目をつけていたのに……!」


ベンデル男爵の悔しそうな表情に、ランドルフは嬉しそうに笑い声を上げる。


そして、それで君たちは?と夫婦に目を向けた。


「……娘の、セレスティアの優秀さに気付けず、そのジョブだけで判断したこと、浅慮だったと後悔しております」


辛酸を嘗めさせられたという表情なのは、エーレンシュタイン侯爵であるアデルバード。


そして、その妻であるスカーレットも顔を顰めている。


「せっかくの稀有な才能を、君たちは潰すところだった。あの娘が諦めず、自身を磨き続けたから、ああして才能が花開いたのだがね。君たちには、罰を与えようと思って呼び出したのだが……。あの娘に感謝することだね」


ぶるぶると震えるスカーレットに、ランドルフは冷たい目を向けた。


「侯爵夫人が身につけている宝石の類だって、元々の原石から光り輝くものは少ない。磨き上げられて、初めて光るんだ。与えられたジョブに慢心して、努力を怠ることもまた、愚かなことだよ。……先程、心を入れ替えた者もいるみたいだけれど」


ちらりとシャーロットを見る。


彼女はそれをよく分かっているのだろう、涙を流しながらも、こくこくと頷いている。


「神から与えられたものは、きっかけに過ぎない。どう輝かせるかは、その者次第だ。――――さて、心優しい娘に救われたその地位と権力で、これからも国のために尽くしてもらいたいものだな。私はセレスティア嬢のように甘くはない。無能な者は容赦なく切り捨てる。……二度目はないと思え」


温度の低い王の声に、震える三人は跪き、深く頭を垂れた。


もう、セレスティアには干渉しない。


彼女の好きなようにさせることを約束して。


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― 新着の感想 ―
[一言] 「なんなら、王子の誰かと婚約を結んでも良いよ。年頃を考えれば、第三王子が適当かな。君とも面識があるだろうし」 第三王子が誰であれ、要するに国が囲い込んで利用すると言ってますね。第三王子が思…
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