王様の無茶振り2
「えーっとつまり?ランディさんは国王様で、本当の名前はランドルフ陛下?しかも鑑定持ちのすごい方で?私の作ったものに魔法付与がかかっていることも知っていたと」
「そうそう」
「それで、側近の方々にその力を認めてもらうために、運気を上げるアイテムを装着して出席した隣国会議で、予想以上の成果を収めてしまったと」
「そう!関税についての会議だったんだけどさ。まあ色々と運がこちらに傾いてね。助かっちゃったよー」
「さらに私が今朝騎士のみんなに渡した中敷きとタオルの効果を聞いて、これはと思って呼び出したと?」
「うん。聞いただけだけど、すごいね。私にも何か作ってみてくれる?」
…………。
ちょっと待って。
話が飛躍しすぎていて理解が追いつかない。
そしてランディさんとして普段通り話してしまっているが、国王陛下に失礼な態度を取っている私を、誰も咎めないのはなぜだろう。
執務室らしき部屋には、何人か側近であろう人もいるのだが、誰も気にしていない。
いやそもそも、『そんなに畏まった口調だと他人行儀で寂しい』とか言って、いつものように話そうと言い出したのは陛下なのだが。
だからって、ねぇ?
ズキズキする頭を押さえて、なんとか状況を整理しようとする私の前に、クリスさんがすっと歩み出た。
「恐れながら陛下。ティアに望んでいることはなにか、それを明確にしてはどうかと」
「うーん、まあ一理あるね。では、単刀直入に言おう。君を、王宮専属の鍛冶師として招き入れたい」
「え……?」
陛下の単刀直入にも程がある言葉に、私は呆然とする。
王宮専属?
まだ鍛冶師としても見習いの私が?
だが、陛下の目は冗談を言っているようには見えなかった。
「さて、ここからは私と君だけの話にしようか。ふたりだけの秘密にしたい話もあるからね」
そう言って陛下は、パチンとウインクをした。
イケオジは、様になるウインクまで習得しているらしい。
「はあっ!?」
すると、脇に控えていたひとりの男性が、声を上げた。
陛下よりも年上に見える、黒髪の男性。
そんな男性に向かって、陛下はまるでしっしっと追い払うかのように手を振った。
そしてそれにご立腹な様子の男性。
側近のようだけど、仲が悪い……のかな?
戸惑ってふたりを交互に見つめると、その視線に気付いたのか、男性がこほんと咳払いをした。
そして嫌々には見えるが、他の人に続いて扉の方へと歩き出した。
後からきちんと説明しろよ!と陛下に叫んで。
その際、陛下が男性に向かって、手でなにやらサインを出した。
すると男性は、ハッとして足早に退出して行った。
?いったいなんなんだろう。
「ティア、ひとりで大丈夫か?」
「あ、えーっと、大丈夫です。心配してくれて、ありがとうございます」
クリスさんもうしろ髪引かれる様子で扉へと向かう。
仕方ないよね、国王様の命令じゃあ誰も逆らえない。
そしてふたりきりにされてしまったが、ランディさんとはいえ、国王様だ。
そんな人とふたりきり。
クリスさんには大丈夫だと言ったが、正直言って怖い。
「さて、やっとふたりきりになれたね」
しかも、台詞がちょっと悪役……。
いや、幼女とのこの絵面はちょっと犯罪臭が……。
「いやいや、変なことを考えないでね?私が愛しているのは妃ただひとりだし、ロリコンでもないから!」
私の考えが読まれていたらしい。
いや、顔に思い切り出ていたのかもしれない。
慌てて否定する陛下の表情は、お店で接するランディさんのものだった。
まあ私も本気でそうだとは思っていない。
それで、なぜ幼くまだ未熟な私を専属として雇いたいのかと問えば、にこにことした笑みが返ってきた。
「魔導具師」
「え……」
「あたりでしょう?これがひとつ目の理由。おめでとう、ジョブ進化したんだね」
そ、それはまだ誰にも言っていない秘密なのに!
なぜそれを!?
なんだか今度は、こちらが悪役みたいになってきた。
いや、そんなことより、どうしてそれを陛下が?
「そして、ふたつ目。エーレンシュタイン侯爵令嬢の、セレスティア嬢。ちなみに本当は十五歳。別に、それほど幼くもないよね」
そ、そのことまで!?
なんで?
どうして?
個人情報流出しまくりじゃない!
驚きすぎて言葉にならないとはこのことだ、ぱくぱくと口を開閉するだけで、頭も真っ白。
「どうしてそれをって顔してるね。ふふっ、君は本当に良い表情をするなぁ。楽しくなってきたよ」
あ、この人ヤバイ人だ。
すんっと顔が固まるのが分かる。
間違いなく悪役。
腹黒国王様だ。
「いやいや、そんなに引かないでよ。傷付くなぁ」
へらりと笑う顔が、逆に怖い。
なんだろう、ストーカー的な密偵でも付けられていたのだろうか。
「いいや?私のスキルがあれば、簡単なことだよ。君もさっき言っていたじゃないか。私が鑑定スキル持ちだって」
「鑑定……って、ああっ!?っていうか、いつの間に私を!?」
あ、やっと声が出た。
「便利だよね、コレ。まあ、気付かれないように鑑定するのは、なかなか難しいんだけどね」
陛下によると、鑑定は人物にも使えるが、基本レベルが自分よりも高い相手には、弾かれてしまうらしい。
つまり、私は陛下を鑑定することはできない。
基本レベルは普通に生活していても上がるけど、魔法やスキルのレベルを上げたり、訓練したり、魔物と戦ったりでも上がる。
普通に考えると、私の倍以上生きている陛下の方がレベルが高いのは当然よね。
だけど、私は魔法やスキルをまあまあ磨いてきたから……きっと陛下も、かなり諸々のレベルが高いんだと思う。
そういえば、今上陛下は元冒険者だったって講義で習ったっけ。
そりゃ敵わないのも当然だ。




