私を取り巻く変化2
あけましておめでとうございます!
今年もよろしくお願い致します(*^^*)
「?この大型のフライパンで作った玉子焼き、重いだろうから俺がと思ったのだが……。玉子焼き器でもあれば、ティアにも扱いやすいのだろうがな」
頭上から聞こえる美声と、胸キュンなシチュエーションにどぎまぎしていたのだが、どうやらそれは私だけだったらしい。
そりゃそうだ。
何度も言うが、私は幼女。
「あ、ソウデスネ。すみません、ではお願いします」
クリスさんはそんなつもりじゃないのに、なに勝手にドキドキしてるんだ私。
心の中の自分に、バシッと喝を入れて冷静になる。
確かに大きい丸形フライパンで作っただし巻きは、かなりの大きさだ。
フライパンを持ち上げるのも難しいし、私では落としてしまうかもしれない。
あれ?でも、この世界に玉子焼き器なんてあるのかしら。
まだ見たことないけど……クリスさんが知ってるってことは、きっと存在してるのね。
まあ、鍛冶にも慣れたことだし、自分で作っても良いかもしれない。
「じゃ、どんどん焼くのでお願いしますね」
ひとりで顔を赤くしているのがバカらしくなってきた。
よし、今度は形が崩れないように、集中集中!
「そんな表情で頬を染められると、中身が大人だと分かっている俺には、目の毒だな……」
クリスさんのそんな呟きに気付かないくらいには、私は綺麗にだし巻きを作ることに集中していたのだった。
「ティア、君はなんて物を作ってくれたんだい?」
仕事を終えて帰るにはずいぶん早い時間。
夕食の準備中だった私を捕まえ、眉間をぴくぴくと痙攣させたカイルさんが、帰寮して開口一番、そう言った。
「え!?ひょっとして、何か不具合でもありましたか!?」
迷った末、二日間おいて今朝渡した例のタオルと中敷き、多分それのことだろう。
自分のお試し用にと作ったやつは何ともなかったのに、何か不手際があったのだろうか?
不安になって見上げると、そうじゃないと首を振られた。
良かった、失敗作だったわけじゃないみたい。
でも、じゃあ何?
「悪いが、団長から呼び出しだ。今からクリスと一緒に王宮に行ってくれるか?陛下が話をしたいらしい」
そう言うカイルさんのうしろから、クリスさんも姿を現した。
……っていうか、え?
王宮?
呼び出し?
陛下、って……。
「えええええー!?」
「嘘でしょ……」
あの後、さすがにエプロン姿で登城するわけにもいかないので、簡単ではあるが身だしなみを整えた。
そうして乗り込んだ王宮へと向かう馬車の中、げんなりした顔でクリスさんと向かい合う。
カイルさんは別にやることがあると言われ、別行動だ。
つまり、ふたりきり。
王宮までほんの数分とはいえ、非常に居心地が悪い。
なぜかといえば、クリスさんがものすごく険しい顔をして、なにやら考え事をしているからだ。
普段は饒舌とまでは言わないが、ある程度の会話はしてくれるのに。
こういう雰囲気だと、僅かな時間であっても長く感じてしまうものだ。
ああ、早く着いてほしい。
いや、その後のことを考えると、着いてほしくない気もする。
内心あわあわとしていると、チリンと鈴の音が鳴った。
そうだ、ルナも一緒に来ていたんだった。
馬車に乗る時に、駆け込むようにして来てくれたのだ。
「……その猫、本当にお前に懐いているな」
その時、それまで黙っていたクリスさんが口を開いた。
「え、あ、はい。そうですね。もう、私の家族のようなものですから」
ごろごろとルナの首元を撫でる。
ふふ、気持ち良さそう。
しかし、口にしてからはたと気付いた。
しまった、設定では、両親を亡くしたことになっているんだった。
これでは天涯孤独の少女の、哀愁漂う姿に見えてしまうのではないか!?
ばっと顔を上げると、気まずそうに私から目を逸らしたクリスさんがいた。
あ、まずい。
「あ、いや、別にそういう……」
「お待たせいたしました。到着しました」
なにか気の利いたことを言わなくては!と思ったら、御者の方から到着を知らされ、クリスさんが立ち上がった。
「行こう。気を付けて降りろよ」
先に馬車から降りて、私の前に手を差し出してくれた。
うう〜。
クリスさんてば、騎士様だからか、こういうことが自然にできるし、非常に様になる。
こちとら侯爵令嬢とはいえ、中身は引きこもり歴の長い庶民なんです。
ジョブが与えられてからは、こんな扱いされたことないんですよ。
だからといって拒めるわけもなく、結局手を取って降りることになるんだけどね。
「……ありがとうございました」
一応お礼は言う。
恥ずかしいのは私の勝手な都合で、クリスさんには関係ないのだから。
それなのに、それを聞いたクリスさんがぷっと吹き出した。
「顔、赤いけど」
「!こ、これは!慣れてないから……!」
きっと子どもなのになに考えてるんだとか、そんなことを思われているのだろう。
恥ずかしい。
これ以上口を開くと、ますます余計なことを言ってしまいそうで、ぷいと顔を背けて歩き出す。
そのうしろから、まだくすくすと笑う気配を感じるが、知らんぷりだ!
「これから国王陛下に会うっていうのに、緊張も吹き飛んだよ。ねえルナ?」
にゃあ!と返事をする、腕の中のルナと話していると、聞き覚えのある声が前方から聞こえてきた。
「その姿……でも……」
私は、油断していたのだ。
こんなところで、私の知っている人に会うはずがないと。
はっとして前を向くと、そこには。
「セレスティアお姉さま……?」
久しぶりに見る、相変わらず天使のような可憐な風貌。
実の妹、シャーロットの姿があった――――。




