私を取り巻く変化1
そしてティアが魔導具師であることを知った夜、クリスはサクからの報告を聞いていた。
「魔導具師……」
「ああ。それにしてもあのチビ、予想以上に精霊を惹き付けるのな。オレはお前と契約してるからそうでもないけど、その辺のやつらはメロメロだぜ」
ルナと同じく、ティアに惹かれる精霊たちが見えるサクは、げんなりとした顔をした。
契約精霊は、色々と問題が出るためか、基本的に主人以外の人間に惹かれることはない。
もしクリスと契約していなかったら、自分もあんな風になっていたのだろうかと思うと、微妙な気持ちになったのだ。
「だが、ティアならば、精霊たちを利用しようとはしないだろう。そんな人間だから、精霊たちが惹かれるのではないか?」
実際、あの少女はとても人を惹き付ける。
幼く儚げな美少女なのに、中身は頼りになるお姉さんというアンバランスな魅力で、独身寮の騎士たちからの人気も絶大だ。
魔法付与の件だって、ティアは上手く隠せているつもりでいるが、気付いている者は気付いている。
しかし、彼女にも事情があるのだろう、守ってやりたいという、騎士たちの暗黙の了解により、誰もが知らないフリをしているのだ。
そんなティアに、精霊たちが惹かれたとしても、不思議ではない。
「……そうだな、オレたちはちゃんと人を選んでいるからな。悪意の塊のような人間に惹かれることは、まずない」
予想通りの答えをサクは口にした。
そして、クリスをじっと見つめる。
その視線に気付きながらも、クリスはふいっとそっぽを向いた。
「それと、どうやらお偉いさんにも目をつけられたみたいだぜ」
「!どういうことだ?」
ばっと振り向き、クリスは精霊姿のサクをつかまえ、思い切り両手で握った。
あまりの力に、サクの口からは、思わずぐえっと声が零れてしまう。
そのスカした顔を崩してやりたいと思っての言葉だったのだが、思っていた以上の反応があったことに、サクは驚いた。
少し前、どうやら前世持ちであるらしいという話をしてから、クリスはさらにティアの情報に対して過敏になった気がする。
その理由は、やはりあれなのだろうか?
「お、まえ……ちょっと、過保護すぎやしねぇ、か?とりあえず、力、ゆるめろ……」
バタバタともがいて苦しそうなサクに、クリスははっとして手を離した。
そして、すまないと謝り、ため息をついた。
解放されたサクは、やれやれと息をつき、調べてきたことをクリスに伝える。
この精霊も、一見すると粗野な風貌なのに、意外と仕事は丁寧で、細かく調べてくる。
精霊の事情で話せないことはもちろん教えてくれないが、そうでないものは、いつだって期待以上のものを持ち帰ってきていた。
「まさか、国王陛下の目にも止まるとは……」
「それだけ稀少な存在ってことだな。どうする?団長に報告するのか?」
魔導具師であること、前世持ちであること、そして、精霊たちにとてつもなく好かれやすい体質であること。
「……とりあえず、怪しいことはないと報告する。それらのことを我々に知らせるかは、ティア本人の意思に任せるさ」
ただひとつ、気になるのは、ティアの家族について。
分かるなら調べてほしいとサクに伝えていたのだが、何の報告もない。
ということは、そういうことなのだろう。
精霊が関わっているというのは厄介だなと、クリスは眉間に皺を寄せるのであった。
* * *
「とりあえず、できちゃった」
しかも、こんなに早く。
一晩で完成させてしまったネコの刺繍入り冷感タオルと、送風と冷感の効果がある中敷き。
それぞれ三つずつ用意してあり、騎士団の訓練で一度使ってもらうことになっている。
魔導具師の能力で作業が簡略化され、短時間で上質なものが作れたと思う。
しかも、効果はきちんとついていた。
鑑定で確かめたのだから、間違いない。
いくつか試作品ができたら持ってきてくれと言われたので、こうして持参したのだが、昨日の今日でって、驚くよね?
やっぱり二、三日経ってからにしようかな?
そして魔導具師と鑑定のこと、クリスさんやカイルさんには言った方が良いのかな……?
なぜこんなに早く作ることができたのか、説明するには必要なことだと思うけど、何でもかんでも頼って良いのかとも思う。
ルナいわく、魔導具師ってかなり珍しいらしいし、そんなこと言っても、困らせるだけじゃないだろうか。
でも、隠し事をするのもなぁ……。
そう悩みながらも、結局持って来てしまったのだが。
そんな悶々とした気持ちで、だし巻き玉子を作っていたら、ちょっと形が崩れてしまった。
あ、やっちゃった。
そんなこと、騎士のみんなは気にしないだろうけど、私は気にする。
くそう。
「おや、今日はタマゴヤキだね?いい匂いがする」
「あ、カイルさん、おはようございます」
はあっとため息をついていると、うしろからカイルさんが私の手元を覗き込んできた。
新婚夫婦ならどきっとするシチュエーションだ。
しかし今の私は七歳の幼女。
大丈夫かなー?と心配で覗く父親と言った方が、近い気がする。
「……副団長、近いですよ」
「あ、クリスさんも早いですね。おはようございます」
そこへ、クリスさんもやって来た。
私のうしろでくんくんするカイルさんを見て、怪訝な顔をしている。
「だし巻き……」
そして、私の作っているものを見て、目を見開いた。
あれ?
カイルさんは普通の玉子焼きだと思ったみたいだけど、クリスさんは知ってるんだ。
この世界、醤油とか味噌とか、鰹節などの乾物も存在していて、和食だってある。
ただ、それは遠い東方の国のもので、あまりレシピは知られていないのだとか。
そういった調味料は、一応この寮にも置いてあった。
それを見つけた時の私の喜び、分かります?
でも、目玉焼きに醤油をたらすとか、そんな程度の使われ方しかしていなかった。
そんなのもったいない!と私が立ち上がったのは、言うまでもない。
さすがにいきなり、ザ・和食!は抵抗あるかなと思って、少しずつ小出しにしているところだ。
ミルクスープに味噌を溶かしたり、目玉焼きじゃなくて玉子焼きにしたりとか。
ティアはよく知ってるな〜とみんなに感心される程度には、和食ってマイナーなのに、クリスさんたら、だし巻き玉子なんてどこで知ったんだろう?
「へぇ、ダシマキって言うんだ?タマゴヤキとは何が違うんだい?新作の料理、早く食べたいから私も準備、手伝うよ」
そう言ってカイルさんは、皿の準備などを本当に手伝ってくれた。
副団長様にこんなことをさせて、良いのだろうか?
そう思ったのだが、ケイトさんも、気がきくわねぇと言って普通にやらせていたので、黙っておくことにした。
それよりも私は早く人数分焼かないと、と思っていたら、すっとうしろから手が伸びてきた。
「焼けたものは、俺が切って皿に盛り付けよう。一人何切れずつだ?」
なんとクリスさんまで手伝ってくれるらしい。
そのことに驚きながらも、お言葉に甘えて、切る幅や数を伝えた。
こうして並んで料理をしていると、さっきも思ったが、新婚夫婦ならきゅんきゅんするところよね。
ま、私は幼女だから関係ないけど。
そう思っていたら、そっとフライパンを持つ手に、クリスさんのそれが重ねられた。
「ティアには重いだろう?まな板に移すときは俺がやる」
いつの間にか、背後から覆われるようにしてクリスさんが立っていた。
その上、フライ返しを持つ方の手まで重ねられて。
「!?ちょ、クリスさん!?」
今年最後の投稿となります。
ここまでお読み頂き、またブクマや評価、感想に多々ある誤字の報告、ありがとうございました!
新年もどうぞよろしくお願い致します♡
皆様良い年をお迎え下さい〜(*´∀`*)




