鍛冶師のはずが⁉3
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セレスティア・エーレンシュタイン(偽名・ティア)
エーレンシュタイン侯爵家 長女 十五歳(七歳のフリをしている)
基本LV21
HP:208//328
MP:1005//1125
ジョブ:魔導具師(スキルのレベルアップにより、進化しました)
状態:健康
魔法:火属性魔法 LV5
風属性魔法 LV5
水属性魔法 LV5
土属性魔法 LV6
光属性魔法 LV2
闇属性魔法 LV0
時空属性魔法 LV3
スキル:鍛冶 LV5
裁縫 LV8
編み物 LV8
料理 LV6
魔法付与 LV8
鑑定 LV1(ジョブの進化により、追加されました)
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「…………」
シュッ。
待って。
ちょっと待って。
一旦落ち着こう。
開いたステータスを一度消して、よく考える。
魔法やスキルのレベルが上がっているのは分かる。
このところ頑張っていたもの。
それなりに上がっているのも頷ける。
だけどひとつ、いやふたつ、解せないことがある。
ジョブ:魔導具師(スキルのレベルアップにより、進化しました)ってなに!?
スキル:鑑定 LV1(ジョブの進化により、追加されました)ってなんなの!?
「ジョブ進化、おめでとうティア。そのうちなるだろうな〜とは思ってたんだけど、思っていた以上に早かったわね!」
あっけらかんとしたルナが、拍手をする。
「えっ!?ルナは知ってたの?っていうか、さっき天上界から知らせがあったって言ってたよね?どういうこと?」
事情を知っているらしいルナをがしっと掴み、ぶんぶん振って説明を求める。
ちょっと力を込めすぎてしまったらしく、苦しがられた。
ごめん、つい。
「もう……。っていうか、本当に気付かなかったの?ピロリンとかキラリンみたいな音が鳴ったでしょ?」
「あ、そういえば……」
グレンさんのお店で聞いたピロリンッという音、あれがそうだったらしい。
そしてルナは、私のジョブの進化についても教えてくれた。
聞けば、鍛冶師のようなものづくりジョブは、固定スキル(鍛冶師である私は鍛冶)と四属性の魔法、それに他のつくりもの系のスキルのレベルを上げると、魔導具師というジョブに進化するのだとか。
私の場合、鍛冶と魔法の他に、裁縫や編み物といったスキルだ。
ここ最近、鍛冶スキルと火属性魔法レベルが上がったため、魔導具師に進化するための条件を満たしたらしい。
そしてその進化とともに、魔導具師の固定スキルである鑑定が使えるようになった、と。
私は元々持っていたけれど、魔法付与もそうなんだって。
「まあ材料に精通していないと、魔導具は作れないからね。一度使ってみると良いわ。素材の性質とかが分かるはずよ」
ルナにそう言われ、恐る恐る鑑定を使ってみることにした。
とりあえず、ポリウレタンっぽい生地からやってみよう。
「鑑定」
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布生地
ポリウレタン素材で作られている。
クッション性があり、足の疲れを軽減することができる。
汗を掻いたときや、雨の時は蒸れやすい。
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……す、すごい! 本当に使えた!
ステータスを見るときのようなウィンドウが現れ、そこに中敷きを作るための情報が書かれていた。
「術者が今知りたい情報をピックアップして、教えてくれるのよ。便利でしょ」
「うん、すごい!他のも鑑定してみるね」
そして色々な布を鑑定して、クッション性のあるものと、蒸れにくい素材のものを組み合わせることにした。
「じゃあまず、ふたつの布を靴に合わせた形に切って……」
「ちょっと待った」
ハサミを手にして、いよいよつくり始めるぞ!というところで、ルナがストップをかけた。
「魔導具師になったんだから、そんな面倒な工程、魔法でぱぱっとやれば良いのよ」
どういうこと?と首を傾げると、指先に魔力を込めて布を滑らせるだけで良いのだと教えてくれた。
それもイメージが大切だと言うので、指先に意識を集中させて布にあてる。
ルナに教わった通り、靴底の形をイメージしながら滑らせていく。
すると、綺麗な切り口でするりと切れていった。
次はこれを縫い合わせる。
これも同じように、縫い合わせるイメージで、ぎゅっぎゅっと押すように、ゆっくり形をなぞっていく。
その際、水と風の魔力を込めて、冷感と送風の効果を付与していく。
「すごい……簡単にできちゃった」
そうして出来上がった中敷きを手にして、感動する。魔導具師、すごい……!
「そうやって魔法を使って、様々な効果のある道具を作るジョブを、魔導具師っていうのよ。そう考えると、鍛冶師も捨てたものじゃないでしょ?人間の貴族はバカにしているみたいだけど、本当は磨けば光るジョブなのよ?」
得意気にルナが解説してくれる。
そっか、鍛冶師だからって、バカにする人や同情的な目を向けてくる人ばかりだったけど、胸を張って良かったんだ。
「周りに流されずに、自分にできることをコツコツと積み重ねてきたティアには、ぴったりなジョブだと思うわ。だから、おめでとう!」
満面の笑みでルナが称えてくれる。
今までの私を、全部受け入れてくれた気がして、胸がきゅうっとなって、目に涙が滲んだ。
「えっ!?ご、ごめんティア。あたし、なにか変なこと言った?」
焦ったルナが私の周りを飛び回る。
よく分からないけどごめん!って、あせあせしているのが可笑しくて、ふふっと笑った。
「違うの、嬉しくてつい。ありがとう、ルナ」
エーレンシュタイン家を出て、色々あったけれど、ここまで来れたのは、ルナのおかげだ。
そりゃあ、クリスさんたち騎士のみんなやグレンさん、アイザックさんたちにもお世話になっている。
だけど、ずっと一緒にいて、励ましたり、話を聞いてくれたりしたのは、ルナだ。
ひとりだったら、もっと心細い旅になっていた。
いつだって、ルナが明るく笑ってくれていたから、頑張れたんだ。
「私が私らしくいられたのは、ルナがいてくれたおかげ。だから、魔導具師になれたのも、ルナのおかげだよ。ありがとう」
たくさんの感謝の気持ちを込めて、そう伝えると、ルナがぶわっと真っ赤な顔をした。
「っ!も、もういいから!ほら、さっさと次のを作るわよ!タオルにも付与するんでしょ?」
照れ隠しなのだろう、早口でまくし立てるのがかわいくて、あははと笑うと、なんで笑うんだと怒られた。
だけど、それがなんだか嬉しくて。
私はまた、さらに声を上げて笑った。




