鍛冶師のはずが⁉2
「へえ、ティアが初めて作ったんですか?すごいですね」
「だな。店に並んでいるものと遜色なさそうだけど」
「いやいや、そんなことないですよ。アラン、おだててもコロッケのおかわりはないからね?」
夕食時、セシルさんとアランから、今日はどんなことをしたんだと聞かれたので、初めて肘当てを作ったことを話してみた。
すると、見てみたいなと言ってくれたので、作ったばかりの試作品を出して見せた。
本職の騎士に使い心地を聞いてみたらと言われ、持ち帰っていたのだ。
残念がるアランの様子を見るに、先程のはやはりお世辞だったようだ。
ちぇーと言いながら、残りわずかになったコロッケを名残惜しそうに口に入れている。
揚げたてコロッケ、美味しいもんね。
気持ちは分かる。
今度はもっとたくさん作ろう。
午前中のうちに仕込んでおいたコロッケは、どうやら騎士たちの口に合ったようで、ひとり二個では足りなかったようだ。
「いやでも、コロッケを抜きにしても、マジで初めて作ったとは思えないって。ティアって、料理も裁縫もできるけど、鍛冶師の才能もあったんだな〜」
「まあ一応、鍛冶師のジョブを与えられた身だし?それと、そんなにコロッケを噛み締めながら言われても、全然説得力ないからね?」
もくもくと食べるアランに呆れながら答えると、セシルさんがふふっと笑った。
しまった、セシルさんの前だったのに!
「これではどちらが年上か分かりませんね?」
ああ〜アランとひとまとめで笑われちゃったじゃない!
もう!
ぷうっと頬を膨らませていると、ごめんごめんとセシルさんが頭を撫でてくれた。
うわ、ありがとうございます、役得です!
どうやらセシルさんはこれから用事があるらしく、夕食を済ませると席を立った。
そして、頑張ってねと笑顔で手を振ってくれた。
その腕には、見覚えのある腕輪が付けられていた。
あれ?私の作ったものに似ているけど、あげた覚えはないし……。
気のせいかなと思い、ほわほわした顔で手を振り返して見送ると、前方からアランにジト目で見られているのに気付いた。
「ティア、前にも伝えた気がするが、悪いことは言わない。セシルは止めとけ」
「?ああ、初恋とかそういうんじゃないから、大丈夫。ただああいう顔とキャラが好きなだけだから」
きゃら……?とアランが不思議そうな顔をした。
まずい、ぽろっと前世の単語や子どもらしくないことを言ってしまうクセ、直さないと。
「あ、あーっと、じゃあ私もそろそろ片付けて、中敷きを作ってみようかな!」
「まあ、ただのファンだっていうなら別に良いんだけどさ。ん、ごちそうさま。すっげー美味かったってケイトさんにも言っておいて」
なんとなく意味を分かってくれたようで、すぐに話を終えてくれた。
ありがたい。
そしてアランとはそこで別れ、今度は皿洗いだ。
ケイトさんは隣で洗ったお皿を拭いてくれている。
先程アランが言っていた、美味しかったという言葉を伝えれば、嬉しそうに笑ってくれた。
「ティアちゃんが来てから、部屋が綺麗になっただけじゃなくて、賑やかになったわねぇ。それに、騎士たちもみんな楽しそう。ふふ、ありがとうね、ティアちゃん」
お礼を言うのは、お世話になっている私の方なのに。
それにちょこっと手伝いをしているだけで、大したことはしていない。
「それでも、よ。あの無愛想なクリスでさえ、あなたには優しい顔をするのだから、全く驚きだわ」
今日は夜勤らしく、夕食に姿を見せなかったクリスさんの姿を思い出す。
確かに、基本的には無表情だが、意外とよく笑うし、それに私のことも優しく見守ってくれている。
「そういえばクリスさんも、コロッケ好きでしたね」
少し多めに作ってあった、まだ揚げる前のコロッケのタネを見つめて呟く。
「あら、あの仏頂面なのに分かるの?ふふ、明日のお昼に帰ってきたら、パンに挟んでスープと一緒に食べさせるわね。ちゃんとティアちゃんお手製って伝えておくわ」
いや別にそこまでは……と、なぜか赤くなった頬を隠すように、洗い物を再開させたのだった。
「さあ!じゃあ中敷き作り、始めるわよ」
洗い物を終えてお風呂などを済ませ、私は自室の机に向かった。
まずは素材選び。
ポリウレタンやウール、革などが思い浮かんだので、とりあえず修行の帰りに布屋さんに寄って色々と買ってみた。
魔法を付与するとはいえ、やっぱり元からひんやりしたものや通気性の良さそうな素材じゃないと変に思われるもんね。
となると今回はウールはナシかな。
でも、寒くなってきたら逆に保温効果がある中敷きを作るのに使えそう。
それでなんだけど……実は私、そんなに素材に詳しいわけじゃないんだよね。
なんとなくは分かるけど、だからって詳しいわけじゃない。
前世では、商品に冷感とか保温って店員さんが貼ってくれているから選びやすかったけど、こちらの世界ではそういうものはない。
しまった、買う前に聞けば良かったと後悔していると、精霊姿のルナが、肩に乗って覗き込んできた。
「なぁに、今度はなにを悩んでるの?」
実は……とわけを話すと、きょとんとした顔をされた。
「そんなの、鑑定を使えば良いじゃない」
いやいや……なに言ってるのか、このルナは。
そんなスキル、私が使えるわけないじゃない。
「あら、気付いてないの?天上界から知らせがあるはずだけど。まあ良いわ、ステータスを見てみなさいよ」
ルナが冗談を言っているようには見えず、半信半疑でステータスを開く。
すると、そこに書かれた変化に、驚くこととなった。




