不思議なお客様2
とかなんとかやっているうちに、ランディさんはお仕事の時間になってしまったようで、護衛らしき人に連れられて行った。
……引きずられて行ったという表現の方が、正しいかもしれないけれど。
でも、ああいう人が付いているってことは、やっぱり貴族とか相当な身分の人だと思う。
「やれやれ、やっと静かになったな。さて、んじゃこれが昨日までの売上げな。おチビちゃん、初めてなのにかなり儲けてんぞ」
そう言ってアイザックさんがくれた袋の中には、たくさんのお金が入っていた。
最初の取り決めで、売上げはひと月に一回ずつ頂くことになった。
そして、今日が初めてのお給金日。
店を出すための資金を貯めたいということを伝え、そのお金は基本的にバンクという、いわゆる銀行的な機関に入れることにした。
一階のギルドにも併設されているので、こうして金額だけ確認し、日常で使う分だけ抜いて、あとはアイザックさんに預け一階で手続き、ということになっている。
それにしてもと思う。
中身が多すぎやしないだろうか。
「えっと、これ、単純計算なんですけど、持って来た商品ほとんど売れたってことですか……?」
「そうだな、まあ幸運の噂が広がってからは特に、店頭に並べればすぐに売れるぞ」
人気があるとは聞いていたが、まさかそれほどとは。
順調すぎて怖い。
なにかワナでもあるんじゃないだろうか。
「で、だ。お前さんの作るものは質も良い。もう少し値段を上げても良いと思うのだが、どうだ?」
あ、アイザックさんが商人の顔になった。
そりゃそうよね、それだけ儲けが出るってことだもの。
確かに嬉しい提案だが、そうやって金額を釣り上げていくのもなぁ……。
「あのなぁ、これも必要なことなんだぞ?これだけ上質で、しかも妙な効果付きの商品を、みみっちい値段で売られちゃ他が困るんだよ。最初は様子見の値段だったが、これだけ人気が出たんなら、上げて当然なんだよ。まあ、おチビちゃんに分からないのは当たり前だけどよ」
需要と供給ってやつか。
そう言われてみれば、確かにそうだ。
「……じゃあ、お願いします。金額は、アイザックさんが適正だと思うもので」
この世界の、しかも平民の基準が分からないので、アイザックさんに任せることにした。
まあ子どもだから分からなくて当然、って思ってもらえたのだから良いか。
あまりなんでもかんでも知りすぎていると、怪しまれそうだもんね。
いつもうっかり大人感覚で話してしまうから。
無意識だったけど、良い仕事したなと思っていたのだが、アイザックさんは驚いたようにこちらを向いた。
「……なんだ、やけに理解が早いな。しかも“適正”なんて言葉、よく知ってんな。おチビちゃん、何度も聞くが、まじで七歳か?」
「!ええっと、亡くなった両親が商人だったので、なんとなくは教わってて!あ、あはは〜」
ダメだ、全然子どもらしくなかった。
伝家の宝刀、“亡くなった両親”を使ったのでそれ以上はつっこまれなかったが、ちゃんと気を付けないとな……。
私は七歳、私は七歳、と脳内で自分に言い聞かせるのだった。
その夜、私は自室でいつものように、ルナに今日の出来事を話していた。
「でね、あんまりたくさん頂けたから、びっくりしちゃって。それに、価格も上げてもらえるなんて、驚きだわ」
「ふぅん。そのアイザックって人、ちゃんと分かってるのね。魔法付与された物なんだから、それくらいしてもらわないと」
そんなの当然よ!という口ぶりでルナが答える。
そうか、そういうものか。
まあでも、確かにちょっとしたラッキーが続くのって嬉しいもんね。
少しくらい値が張っても、欲しいって思う人はいるだろう。
「この調子で人気が安定すると良いんだけどね。あとは、そろそろ新しい商品を考えたいところなのよね……」
アクセサリー系はデザインを変えれば良いとして、他にも新作を出したい。
アイテムバッグも売れ行きは良いが、作るのに結構時間がかかるのよね……。
大量生産しやすい物で安定して売れる物があると良いなと思っていたのだ。
最近暑くなってきたし、冷感のものとか?
そういえば、エーレンシュタイン家にいた時、ベッドのシーツに刺繍とかしてたんだけど、夏はなんとなくひんやり冷たくて寝やすい、って思ってた。
その時は魔法付与のことなんて知らなかったから、そういう素材があるのねと納得していたんだけれど、もしかして無意識に冷感シーツを作っていたのかもしれない。
いや、きっとそうだ。
そう感じるようになったのは、私が刺繍をするようになってからだもの。
でもシーツって冒険者向けじゃないわね。
一般家庭用だわ。
それに、大量生産は難しい。
となると、もっと手軽な布製品……あ、タオルとか?
夜寝る際に、枕代わりにするとひんやり涼しいですよ〜とか。
あとある程度の冷たさなら、昼間首に巻けば、熱中症予防にもなるかも。
「そうね。タオルなら消耗品だし、そんなに高くないから、手を出しやすいかもね」
ルナもそう言ってくれた。
タオルなら、無地のものの端に、例のロゴの刺繍をするだけで良いもんね。
うん、すごく良いアイディアな気がしてきた。
あ、そうだ。
明日の朝食の時に、騎士のみんなにもなにかアドバイスがないか、聞いてみよう。
冒険者と同じ、戦うことが仕事の人たちだ。
なにか良いアイディアが出るかもしれない。
あ、でも私の魔法付与のことを知っている人に限るか。
じゃあ、アランかクリスさんかカイルさんかな。
よーし、新作の開発も頑張るわよ!




