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【書籍化】ハズレジョブ持ち令嬢?いいえ、磨けば光るチートな魔導具師です!  作者: 沙夜
第一章

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初期費用を貯めよう5

「良かったな。いきなり売ってもらえることになるなんて、すごいと思うぞ」


「はい!すっごく嬉しいです。頑張ったかいがありました」


それまでずっと黙っていたクリスさんも、そう言って褒めてくれた。


今日は良いことばかりで、にまにまと頰が緩んでしまう。


「それにしても、ティアは色々なことを考えて作っているのだな。アイテムバッグもだが、女性用の商品も」


「そうですね。大して冒険者さんのことを知っているわけではありませんが、どうせ売るなら、喜んでもらえるものを作りたいですから」


これまで私は、エーレンシュタイン侯爵家でも様々なものを作っていた。


それらは決して家族から褒められることはなかったし、お礼を言われたこともない。


前世から作るのが好きだったから、という理由もあるけれど、結局は少しでも認められたいと思っていたからなのかもしれない。


ありがとう、すごいね、助かったよ。


その言葉たちを、どこかで求めていた。


「誰かがどこかで、私の作ったものを喜んでくれている、なんて、ちょっと素敵じゃないですか?」


立派な鍛冶師になって、店を持つ。


その夢だって、ひとりで生きていくためだけじゃない。


誰かに、喜んでもらいたいから。


「そうそう上手くいくとは思っていませんけどね。まだまだ、学ぶことはたくさんあります。でも、一歩くらいは前進したのかなと思うと、やっぱり嬉しいです」


隣で私の歩幅に合わせて歩いてくれているクリスさんにそう言うと、微かに微笑んで、くしゃりと頭を撫でてくれた。


「ふふっ、今日の夕食は、何が食べたいですか?特別に、クリスさんの食べたいものを作りますね」


毎日作らせてもらっている、一品のおかず。


今日は、お礼も込めてクリスさんの好きなものを作りたい。


「……玉子焼き、かな」


意外にも和食好きなのねと思いながら、分かりましたと笑顔で返した。




* * *


カラン


「おっ?久しぶりだな。仕事が暇になったのか?」


そんなわけないかと、アイザックがその客を笑って迎え入れる。


ティアとクリスが帰ってすぐ、ひとりの男がギルドのアイテムショップを訪ねて来た。


年の頃は四十前後に見える。


変装して質素なものを身に着けているが、只者ではないと、分かるものには分かる風格がある。


「元気そうだな、アイザック。暇なわけではないが、たまには息抜きにな。情報収集も兼ねて寄ったんだ。なにか面白いことはないか?」


他の客がいないことを確認して、男は帽子を取った。


そんな男の問いに、アイザックはにやりと笑って返す。


「そうだなあ、面白いおチビちゃんが先程まで来ていたんだがな。多分だが、お前のところの騎士を連れていたぞ」


そしてアイザックは、ティアのことを話していく。


それを聞いた男は、ほう?と興味を持った様子で、ティアが作ったアイテムバッグを手に取り、じっと見つめた。


「七歳のお嬢ちゃんだって話だが、ありゃ年齢詐欺だな。それで?何か“視え”たか?」


「……報告は聞いていたのだが、予想以上だな。それと、こっちのものは何だ?」


男はその他のアクセサリーにも興味を持ったようで、アイザックの説明を聞きながら、しげしげとそれらを眺めた。


「なるほどな。年齢詐欺とはそういうことか。よし、では妻と子どもたちに、この三つをもらおうか」


そしてヘアアクセサリーをふたつと腕輪をひとつ選び、いくらだとアイザックに尋ねた。


「オイオイ。お前の嫁と子どもたちにって、そりゃあちょっと……」


本気か?という表情でアイザックは男を見つめる。


しかし、その目が冗談を言っているわけではないと告げていたので、諦めて値段を提示した。


「ふふ、良いのさ。悪いが、これらにはそれだけの価値がある。値段も安すぎるくらいだな。話題になった後は、値上げした方が良いぞ。それと、そのお嬢さんに私も会いたいのだが、次はいつ来るんだ?」


やばいヤツに目をつけられたなと、アイザックはティアに同情した。


しかし、それらの言葉をぐっと堪えて、三日後に来ることを伝えた。


「分かった。必ず来るからな」


それだけを言い残して、男は再び帽子を被り、店を出て行った。


それを見送ると、アイザックはため息を零す。


「ランディめ……この国の王様ってヤツは、いつから好きな時に抜け出せるほど、暇になったんだ?」


そんな呟きは、誰にも聞かれることはなかった。





その頃、エーレンシュタイン侯爵邸では、なかなか見つからないセレスティアに、侯爵夫妻が苛立ちを隠せずにいた。


「どうしてこんなに見つからないの!?あの子はいったいどこに行ったというの!」


「くそ……誤魔化すのも厳しくなってきたからな、ベンデルがかなり怪しんでいる」


「……」


そして、そんな両親の姿を、夕食の席でシャーロットは眉間に皺を刻みながら見つめていた。


せっかく邪魔な姉がいなくなったのに、ちっとも楽しくない。


使用人たちも教師たちも、何かといえば姉のことばかり。


教師たちなど、姉と比べることを止めるどころか、強まるばかり。


これなら、あの頃の方がまだ――――。


「お、お待ち下さい!」


「失礼する!」


シャーロットが唇を噛んでいると、突然使用人の焦った声と、傲慢そうな声が食堂に入ってきた。


「!ベンデル……男爵」


どうやら傲慢な声の持ち主は、話題のベンデル男爵のようだ。


威圧感のある長身に、軍人と言われた方がしっくりくるほど、体つきはガッチリしている。


五十代だということだが、黒々とした髪と鋭い目つきは、年齢を感じさせないほど若々しく見える。


しかし、噂通りの粗野な人間のようだと、シャーロットは思った。


「……どうかされたかな?今は、晩餐の途中なのだが」


内心の動揺を押し殺し、アデルバートは冷静に対応する。


しかし、そんなアデルバートの言葉など歯牙にもかけず、ベンデル男爵はきょろきょろと食堂を見回した。


「ほう?体調が悪いと聞いていたが、確かにセレスティア嬢はいないようですな。では、部屋に案内してもらえますかな?話がしたい」


まずい、そう思った夫妻は焦った。


ここでベンデルを追い出す理由がない。


普通であれば、当然の訪問は失礼だとか、娘は体調がと言っていくらでも言い訳ができる。


しかしベンデル男爵は、夫妻がセレスティアを疎んでいることを知っているので、心配などするわけがないと思っているはずだ。


それに幾度となく訪問を突っぱねている。


本来ならば、無理を押してでも、ここで一度くらい顔を見せるべきである。


だが、当の本人がいない。


「さあ、案内を。それとも、会うことができない理由でも?」


ここまでかと、アデルバートは腹を括って口を開いたのだった。


そしてそんな大人たちの様子を、シャーロットは冷めた目で眺めているのだった。

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