初期費用を貯めよう2
* * *
「全く……。ティアの無自覚に精霊を呼び寄せる体質は、どうにかならないのかしらね」
その日の夜遅く。
ティアが眠ったのを確認したルナは、外を散歩しようと、猫の姿でティアの部屋の窓から飛び降りた。
精霊は基本的に睡眠を必要としない。
だから、ティアが寝ている時間は、こうして情報を集めに出ることも多い。
猫の姿だと、人は警戒心を解いてくれるので、結構色々と話してくれる。
隠れてこそこそとしている人には、見えないように精霊の姿に戻ることもあるのだが。
それにしてもとルナは思う。
先程暴露された、前世のことだ。
貴族令嬢にしては、型破りというか、規格外というか……。
とにかく変わっているとずっと思っていたが、まさか前世持ちとは。
しかも異世界の。
「精霊王様は知ってたのかな……」
「知ってたんじゃねーの?」
ひとりごとに返事が返ってきたことに驚いて、ルナはばっと声のした方を向いた。
「やっぱりな。契約者だろうとは思っていたが、まさか時空の精霊とはな」
そこにいたのは、白金に黒い瞳の、一羽のカナリヤ。
愛くるしい姿をしているが、目は獰猛な獣のようだった。
ぱたぱたと木の枝から飛び上がると、そのまま精霊へと姿を変えた。
「闇の精霊……。やっぱりあの男の……」
ルナの嫌そうな声に、サクはにやりと笑う。
「そんな顔すんなよ。どうせ主人とはいえ、お前のことは報告できないんだ。まあ、話せるのはギリ前世持ちってことくらいか」
「ティアの邪魔をしたら許さないから!」
叫び、精霊の姿に戻ると、ルナは亜空間を作り出した。
油断していたとはいえ、いきなり高度な時空魔法を使われたことに、サクは笑いながら身震いする。
「約束しなさい。でないと、ここから出さない」
「恐ぇーなぁ。そんなに威嚇しなくても、オレは別にお前らの敵じゃねぇ」
そう言うサクの目を、ルナはじっと見つめた。
嘘は言っていない。
だが、信用はできない。
尚も亜空間を解除しないルナに、やれやれとサクは口を開いた。
「あーじゃあ、いっこだけ。クリスは別に、お前らの邪魔をしたいわけじゃねぇ。むしろあのチビを守りたいと思ってる。だから安心……はできねぇかもしれねぇが、とにかく無駄な神経と魔力は使うな」
がしがしと乱暴に頭を掻くサクの様子を見て、ルナは解除を唱えた。
さっと景色が元の庭に戻る。
「分かったわ。それだけは信じてあげる。じゃあね、もう二度と会いたくないわ」
そう言うと、ルナはふんと鼻を鳴らして猫の姿に戻り、サクがいる方とは反対の道を、ぽてぽてと歩いて行った。
「気の強ぇーヤツ」
その様子を、サクはくっくっと笑って見つめるのだった。
* * *
「どうでしょう!?」
休憩時間、持って来たものを作業台に広げる。
ここ一週間程、空いた時間に作ってみた小物たちを、グレンさんに一度見てもらうためだ。
グレンさんは、若い頃冒険者として活躍してたんだって。
あのムキムキボディもだからか!と納得した。
その伝手で、ギルドのアイテムショップも紹介してくれたんだけど、持っていく前に一応こんな物で売れそうか、聞いてみたいと思ったのだ。
「あら!本当に器用なのねぇ。ヤダこれ髪飾り?カワイーわねぇ、髪が長かったらアタシも欲しいくらいだわ!」
使い方を見せると、グレンさんは絶賛してくれて、髪を伸ばそうかしらとまで言ってくれた。
お世話になってるし、今度個人的に何か作ろうかな。
ともかく、グレンさんからも売れそうだと言ってもらえたので、今日の修行が終わったらギルドに寄ろう。
「どれだけの売り上げが出るか、楽しみねぇ。そうだわ、もしも継続して納品できるようなら、アナタの作ったものって分かるように、ロゴを作ると良いわよ!」
「ロゴ……ですか?」
「ええ。プレートを作って、バッグのチャックに付けたりすると良いわ。人気が出れば、この作者さんのシリーズをまとめ買い!なんてこともあるからねっ」
パチンとグレンさんがウィンクする。
お、おぅ……マッチョなイケオジ(オネエさん)のウィンク、破壊力抜群です。
でもそうか、ロゴかぁ……確かに前世でもブランドロゴとかあったもんね。
人気のものだと、それがついているだけでよく見えるのだから不思議だ。
プレートは、前世のように細かくて複雑な作業はしなくても作れるのよね。
魔法ってすごい。
「やーねぇ、ティアちゃんだから作れるのよ?アタシはともかく、他の従業員じゃ、そうそう簡単に模様の入ったプレートなんて出来ないから!」
そう、グレンさんの言う通り、火だけじゃなくて、土、風、水の魔法レベルもそれなりにある私は、鍛冶スキルも高かった。
よく考えたら、鉱物は土属性だし、火力の調整に風は便利、冷やすのには水が必要だもんね。
侯爵家で鍛冶師としての勉強はさせてもらえなかったけれど、魔法はコツコツ練習しておいて良かった。
何であろうと、出来ることはやっておくものである。
まあそれは置いておいて、ロゴかぁ……何にしよう。
うーんと目を瞑って考える。
ロゴといえば、文字とか、動物とか……あ、そうだ!
ちょこちょこと誤字多くてすみません……
誤字報告下さる皆さま、ありがとうございます!!




