弟子入りしました!1
今日は珍しくちょっと長めです!
ルナと一緒に時空属性魔法を練習するようになってから、二週間が経った。
現在魔法レベルは2に上がった。
ちなみに最大でレベル10らしい。
しかし、今までとは違って、夜に自室で隠れて練習しているため、なかなかレベルは上げ辛い。
仕方ないよね、時空属性魔法はそもそも使える人がほぼいないし。
こんな小娘が使っていたら、みんな驚いてしまうもの。
だけど魔法の練習は、久しぶりだけどやっぱり楽しい。
それに新しい魔法を覚えるのも、すごくわくわくするもの。
そして、もうひとつ。
なんと騎士団御用達の鍛冶屋さんを紹介してもらえることになったのだ!
約束通りケイトさんがカイルさんにお願いしてくれて、カイルさんからそれを聞いた団長さんが口を利いてくれたのだ。
そして今日の昼食の後、早速見学に行くことになっている。
今日は見学だけで、明日からしばらく鍛冶屋の仕事について教えてくれることになっているが、そのしばらくがいつまでになるかは、私の仕事ぶり次第ということだ。
ということで、これから午前中は家政婦、午後からは鍛冶屋で修行、夕方に戻って夕食の手伝いをし、夜は魔法の練習という一日のスケジュールとなる。
なかなかハードにも思えるが、午前中の家政婦の仕事は、朝食さえ終わってしまえば、あとはお風呂場の掃除と繕い物くらいだ。
ちなみにアランに渡した腕飾りやアンクレットが、他の騎士からも欲しいと評判で、息抜きがてらにこの時間に作っている。
もちろん、ほんの少しだが魔法を付与して。
セシルさんに頼まれていたアイテムバッグも、一応作って渡した。
とりあえず容量拡大は断念して、普通に騎士服のベルトに金具で止めるタイプのものだ。
使いやすいって喜んでくれたけど、時空魔法のレベルが上がったら、バレない程度の容量拡大の魔法を付与してリベンジしたい。
ああそれと、私が来て以来、騎士たちが自主的に掃除するようになり、共用スペースもできるだけ汚さないようにしてくれている。
どうやら、幼女にみっともない姿を見せられない!というプライドに触れたようだ。
そうね、大事だと思うよ、そういうの。
そんな騎士たちの意識を持続させるために、時々私が部屋の見回りに行っている。
これが効果覿面なのだ。
あの腐海の部屋の主ですら、ちょっと散らかっているくらいで済んでいる。
人間、やればできるものである。
だいたい、毎日のちょっとした怠けが部屋を汚くするのよね。
明日捨てれば良いか、ちょっとくらい良いか、ってやつ。
共用スペースにしても、あいつが置きっぱなしにしてるんだから俺も良いか〜って思っちゃうのよね。
そういえば前世でも、消耗品棚から必要なものを出してフタを開けっ放しとか、上に乗っているものを退かさずに取って、乱れたままにしておくヤツ、いたっけ。
みんな直すのが面倒だから段々汚くなっていくのよね……。
あ、思い出したらイライラしてきた。
話は逸れたが、とにかく騎士たちが毎日のちょっとしたことを気を付けてくれるようになり、掃除の仕事が激減して、ケイトさんも大喜びというわけだ。
朝と夜の料理にしても、私は一品作るくらいだから、そう大変でもない。
昼は非番と夜勤明けの騎士の分くらいだから、ケイトさんひとりでも大丈夫だと言ってくれた。
そんなわけで、午後からの四時間程を鍛冶屋へ修行に行かせてもらう。
ドキドキするけど、やっぱり楽しみ!
「ティア、準備できたか?そろそろ行くぞ」
非番だからと私に付き添ってくれることになったアランが、部屋の扉をノックした。
「あ、はーい!」
その声に応え、よしっと気合を入れると、身なりを確認して扉を開く。
鍛冶師としての第一歩、頑張るわよー!
* * *
「それで、今日は鍛冶屋へ見学に行くのだったか?」
「……そう聞いています」
その頃、騎士団長室ではセドリックがクリスから報告を聞いていた。
ティアが騎士たちに色々なものを作っていることはともかく、魔法付与のスキルについてはどう扱おうか、セドリックも悩んでいるところだ。
装備品については、材料によって様々な効果が得られるものがある。
回避率の上がる効果付きの鉱物で作られた鎧、命中率の上がる効果付きの木で作られた弓矢など。
だから、ティアの作ったものも、特殊効果付きの布や糸を使っているのだと言えば、まあ大体は誤魔化せるだろう。
実際は特別な効果のない、少しばかり肌触りのよい糸や布であり、その効果はティアの魔法付与によるものなのだが。
「かなり騎士たちから需要があるらしいな。……おや、カイルも身につけているじゃないか」
黙ってクリスの報告に頷いていたカイルの腕を見て、セドリックが驚く。
「ああ、注文するとお嬢ちゃんが嬉しそうに笑ってくれるのがかわいくてね。ひとつ頼んでみたんだ」
カイルは手首から今朝もらったばかりの腕飾りを外すと、くるくると指で弄んで見せる。
渡す相手をイメージした色合いで作っているという腕飾りは、緑と紫の糸が複雑に編まれており、金色の金具で留められていた。
それは人を選ぶ難しい色の組み合わせだが、カイルの雰囲気によく合っており、デザインもとても似合っていた。
「なかなか良いだろう?その上、きちんと魔法付与までしてくれたんだ。私のものは、魔法耐性が上がるようになっているらしい。基本の四属性に対してのみだけどな」
おそらく副団長で、指揮をとることの多いカイルのためだろう。
攻撃力よりは、防御力を上げた方が良いと判断したのではないかと予想する。
ティアはまだ七歳だという。
裕福な商人の娘で教育も受けていたとは聞いているが、それにしても賢すぎはしないだろうか?
しかも予想以上に家事を手際良くこなし、空いた時間に騎士たちに贈る手芸品まで本職顔負けのものを作り出している。
その上、所作も綺麗だし、言葉の端々には教養の高さが窺える。
幼い子ども特有の我儘さや甘えも見られない。
だが感情表現は豊かで、褒められて照れる姿や話しかけた時の笑顔に癒やされると、騎士たちからはとてもかわいがられている。
少し大人びたところはあるが、出来の良い妹ができたかのようだ。
しかし、彼女はいったい何者なのだろう?
少なくともこの場にいる三人は、そう思っていた。
「念の為、ここ最近貴族の令嬢の中に行方不明になった者はいないか、調査を行った。しかし結果は“なし”だ。本当に元裕福な商人の娘だったか、もしくは貴族との間の非嫡出子か……」
「さすが団長。まあ、そんなところだろうね。特に不審な言動もなく、平穏に暮らしたいと思っているようだ。いずれ寮を出て鍛冶師として店を持ちたいと言っているし、しばらくはその成長を見守っていけば良いのでは?」
「鍛冶師……」
セドリックとカイルの会話を聞いて、クリスが呟く。
その小さな声を拾ったカイルが、ああと思いついたようにため息をついた。
「そうか、鍛冶師という“不遇職”にあたった為に捨てられた、という線もあるな」
もしもそうだったならば。
夜の暗い森をひとり歩いていたティア。
いったい、どんな思いでいたのだろう。
小さな体でくるくると良く働く姿を思い浮かべて、クリスとカイルは眉間に皺を寄せる。
そんなふたりの様子を見て、どうやらあの子は随分とかわいがられているようだと、セドリックは少しだけ口元を緩めた。
しかし、もしもそうであれば、色々と問題も出てくる。
「そんな子が、“魔法付与”などという稀少なスキルを持っていたと知ったら、どうするのだろうな?」
セドリックの言葉に、ふたりは目を見開く。
「ふん。それで掌を返すような輩に、お嬢ちゃんを渡したくはないな」
「……ティアの意思を尊重したい。このまま暮らしたいと言うのであれば、俺はそれを叶えたいと思います」
ティアに飾り紐を巻いてもらった剣を握り、クリスは団長室の扉に手を掛ける。
「ティアのことは、一応あいつにも探らせて、また報告します。それでは、失礼します」
温度のない声でそう告げると、パタンと扉を閉めた。
「へえ?クリスのあんな顔、初めて見たな。それに、お嬢ちゃんのこと、今まで探らせていなかったんだ?」
「多分、疑いたくなかったのだろうな。だが、あの子に危険が及ぶ可能性が出てきたから、調べることにした、といったところだろう」
セドリックの予想は、多分当たっている。
クリスは意外と過保護だったんだなと、カイルが笑った。
そんなカイルを見て、あの子が捨てられたのではないかという話になった時のお前の顔も、私は初めて見たぞとセドリックは心の中で呟いた。




