魔法付与1
「ふぅん?では、お嬢ちゃんはこれを作る時に何か特別なことをしたわけじゃないんだね?」
「えっと、はい。糸も普段からよく使っていたものですし、留め金も同じです。何も変なことはしていないはずですけど……」
夕食の後、私はカイルさんの部屋に呼び出され、アランと共に事情を聞かれていた。
「だが、この腕飾りとアンクレット?だったか。この二点から、微量ではあるが魔力を感じる」
そしてなぜか、クリスさんも同席している。
どうでも良いけど、イケメンたちに囲まれてあれこれ聞かれるのは、正直ちょっと緊張する。
アランによると、せっかく作ってもらった腕輪とアンクレットだから、早速着けてみたいと思い、装着して今日の討伐に参加していたらしい。
その気持ちは分かる。
新しいものって早く使いたくなるよね。
ちょっと良い気分になりながら魔物と戦っていると、なぜかいつもよりも体が軽く感じたのだとか。
最初は気のせいだと思っていたのだが、戦いが進むたびにあれ?と思うことが増えていったらしい。
いつもと違う。
そう確信したのは、手強い個体と対峙した時。
元々身軽で剣もスピード重視なアランだが、明らかに今日は体がよく動く。
そして、速く動ける。
それに跳躍力も上がっている。剣だって、いつもより速く振れる。
その油断で魔物の攻撃を許してしまい、あ、これはかなり深く入ってしまう、そう思った時。
咄嗟に体が、動いた。
いつもなら反応できない程の速い攻撃、絶対に避けられないと思ったのに。
これはひょっとして――――。
そう思ったのだという。
「で、それを見ていた副団長に捕まってさ。どういうことだって聞かれたから、多分ティアにもらったコレのせいだと思いますって話したんだ。あ、マジで助かったよ、ありがとなティア」
えええ……そう言われても、私には全然身に覚えがないんだけど。
「気のせいじゃない?たまたま体調がすこぶる良かったとか……」
「いや。十中八九、ティアが作ったものが関係している。その証拠に、俺にも変化があった」
たまたまだろうと推す私の言葉を遮り、クリスさんがそう主張する。
「『俺にも』とは?どういうことか説明してくれるか、クリス」
「ええ。まず、俺も今朝ティアに剣の飾り紐をもらい、剣につけてもらいました。これがそうです」
そう言うとクリスさんは、腰元の剣をみんなに見えるよう、少しだけ持ち上げた。
やばい。
なんでだろう、ちょっと恥ずかしいんだけど。
そんなみんなに見せびらかすようなものじゃないし、何よりカイルさんとアランが、いつの間にもらったんだ?って顔してるじゃない!
「なんだ、クリス隊長にも作ってたんだ」
「言っておくが、俺のものが先だからな」
しかもアランと謎の張り合いをしている。
クリスさんって、そういうキャラだっけ?
「まあまあ。それで?クリスにはどんな変化があったんだ?」
「もらったときから、魔力を帯びていることに気付いてはいましたが、まず剣が軽くなりました。重さが変わって使いにくくなるかと思いきや、逆に軽くて使いやすいです。そしてご存知の通り、この剣には闇の魔力が込められているのですが、その魔力が増幅しています」
カイルさんがやんわりと話を戻すと、クリスさんが淡々と説明を始めた。
渡した時のあの反応は、魔力を感じていたからだったのね。
それにしても、剣の軽量化に効果の上昇かぁ。
……ん?それって――――。
「あとは、かなり耐久性も上がったように思います。魔物の攻撃を受ける時の感覚から、そう思っただけですが」
「なるほど。お前の場合、身体能力ではなく、剣が強化されたというわけだな」
んんん?
『少しだけ、剣が軽くなって持ち運びしやすくなると良いな。
少しだけ、剣の効果が上がると良いな。
そして、剣がクリスさんを守ってくれると良いな。』
じわじわと思い当たる節が出てきて、だらだらと変な汗が流れてきた。
あーでもないこーでもないと三人が見解を述べているところに、そろそろと手を挙げる。
「えーっと、やっぱり思い当たること、ありました」
控えめな声だったはずなのに、しっかりと三人の耳には届いていたようで、揃って私の方を向いた。
その勢いと視線に抗うことができず、結局私は製作時に考えていたことをこと細かに話す羽目になった。
「魔法付与、か」
いつになく真剣な表情のカイルさんがそう呟く。
まほうふよ?
「簡単に言うと、物に様々な効果を付け加えることだな!ってことはこの腕輪には力を上げる効果があって、アンクレットには素早さを上げる効果があるってことか?」
見た目は普通だけどなーとアランがまじまじと腕輪を見つめる。
そうだよね、見た目はいつも作っているものとそう変わらない。
クリスさんの飾り紐だってそうだ。
ちらりとクリスさんへ視線を向けると、なぜだか若干頬が緩んでいる気がする。
「おいクリス。お嬢ちゃんがどれだけお前のことを考えて作ってくれたのかを聞かされて、浮かれる気持ちは分かるが、いい加減戻って来い」
呆れたようにカイルさんがクリスさんを窘める。
ええ〜、浮かれる?いやいやクリスさんに限ってそんな……。
「すみません。嬉しくてつい」
……そんなことあった。
なぜだ。
素直に謝るクリスさんに、やれやれとカイルさんもため息をついた。
意外だ。
カイルさんってば、実はちゃんと副団長の仕事してるのね。
「お嬢ちゃん?何か失礼なことを考えてやしないか?」
「ソンナコトアリマセン」
その上心の声まで読み取るとは。
人は見た目によらないものだ。
「それでティア、君は自分のステータスを把握しているか?一番最近で見たのはいつだ?」
クリスさんがすぐに切り替えて、私にそう質問してきた。
どうやら、魔法付与のスキルを持っているか、確認してほしいということらしい。
「いつ見たか、覚えていないくらい前ですね。ちょっと今、開いてみます」
この世界では、自分のステータスを確認する、ウィンドウのようなものを出すスキルが使える。
ゲームなんかでよくある、HP、MP、スキル、使用魔法などが確認できる。
ちなみに鑑定のスキル持ちは、他人のステータスも見ることができる。
まあ鑑定スキルなんてすごくレアだから、なかなかそんなスキル持ちの人はいないんだけど。
「ステータス オープン」
そう唱えると、小型テレビくらいの大きさのウィンドウが現れた。
ちなみに内容は本人にしか見ることはできず、覗き見しようとしても何も見えない。
大して変わらないだろうなぁと思いながら読み進めていくと、いくつか目新しい点があった。




