初めてのプレゼント4
ふわふわした気持ちで快諾すると、クリスさんは腰から鞘ごと剣を引き抜いて、差し出してくれた。
う。お、重い。
重いだろうなぁとは思っていたが、予想以上だった。
なんでこんなに重いものをブンブン振り回せるのだろう。
細身に見えるけど、きっとクリスさんもすごく鍛えているんだろうな。
両手でずしっと剣を抱える私に、くすっとクリスさんが笑った。
「俺が支えているから、頼む」
そう言ってすぐ側の歓談室に移動すると、ソファにふたり並んで座る。
できるだけ動かさないように立てていて欲しいと言えば、すぐに頷き返してくれた。
やっぱり、立派な剣。
それに。
「すごく綺麗、ですね」
夜の森で出会った時はよく見えなかったけれど、黒を基調とした騎士剣は、荘厳でとても綺麗だと思った。
「そうか?この剣は少し変わっていてな。剣身の部分も黒いんだ」
そう言って少しだけ鞘から抜いて見せてくれる。
わぁ、本当だ。
普通は銀色よね?
「どうして黒いんでしょう?黒曜石かなにかで作られているんですか?」
「さあな。ただ、これには闇の魔力が備わっている。だから黒いのではないかと皆は言うな」
ははぁ。
闇=黒なんて考え、単純ね。
でも確かにそれっぽい。
「魔王様!って感じでカッコいいですね」
つい前世のゲームを思い出して目を輝かせてしまうと、何を言ってるんだと苦笑された。
国を守る騎士様が魔王だなんて、とんでもないってことかな?
うーん、でもクリスさんのイメージだと、ダークヒーロー系が似合いそうなんだもの。
柄頭の輪に紐を通し、金具で留めながら言葉を探す。
「そりゃ悪い魔王は恐いですけど、クリスさんはそういうのじゃなくて、誤解されやすいけど、実は優しくて仲間思いの、カッコいい魔王様のイメージです」
なんとなく口から出ただけだが、それはぴったりクリスさんに当てはまる気がした。
「ほら。こうして紐で飾ると、ますます輝いて見える」
なんとなくクリスさんをイメージして編んだものだったけれど、実際に付けてみると、品位を損なわずしっくりと馴染んで見えた。
少し色味が加わったことで、一層黒が引き立っている。
振った時の感触を確かめてもらうために、一度鞘から抜いてもらった。
クリスさんの瞳と同じ、黒曜石のような剣身。
さっきは何も感じなかったのに、なんでだろう、キラキラと輝いて見える。
「すごく、素敵です……」
構えている姿が、すごく絵になる。
そう思ったら、自然と口から言葉が出てしまっていた。
「そうか?感覚が変わるかと思ったが、今のところは大丈夫そうだ。実際に使ってみないと分からないが」
「あ、そうですね。もし使っていて邪魔になったら、遠慮なく外して下さい。私が勝手に作ってしまっただけなので」
ぽーっと見惚れていたが、冷静なクリスさんの言葉に我に返る。
剣にもクリスさんにもすごく似合っているけれど、使いにくくなってしまっては本末転倒だ。
「いや、振っても意外と邪魔には感じないな。それに、万が一使いにくかったとしても、ティアがせっかく作ってくれたものだ。別の用途で使わせてもらうさ」
こんな子どもが作ったものを、そんな風に言ってくれるなんて。
やっぱりクリスさんは優しい。
渡そうか渡すまいか悩んでいた私の心が、すっと軽くなった。
「ありがとうございます。その時は私がリメイクしますから、遠慮なく教えて下さいね」
どんなものに変えるんだ?と真顔で首を傾げるクリスさんに、あははと笑顔を返す。
勇気を出して良かった。
アランもクリスさんも、喜んでくれた。
この調子でセシルさんの簡易アイテムバッグも、喜んでもらえるように、頑張って作ろう。
よしと気合を入れ、魔物討伐へと出かけるクリスさんにお気を付けてと声をかけ、そこで別れた。
その日の夕方。
いつものように、キッチンでケイトさんと一緒に夕食の準備をしていると、ガヤガヤと騎士たちが帰って来た声がした。
今日の討伐、順調だったのかな?
いつもより帰りが早い。
ああそうだ、みんな怪我とかしてないかな。
おかえりなさいを伝えるため、キッチンを出て食堂の扉を開けようとすると、突然バン!と向こう側から扉が開いた。
「アラン!?びっくりしたじゃない。そんな焦った顔して、どうしたの」
勢い良く食堂に飛び込んできたのは、アランだった。
息が切れているし、急いで帰って来たみたい。
そんなにお腹空いていたの?と思っていると、アランが腕を上げた。
その勢いで袖が下がり、今朝渡したばかりの腕輪がちらりと覗く。
「これ!ティア、一体君は何をしたんだ!?」
「ほえ?」
アランが何を言いたいのかさっぱり分からなくて、私は変な声を上げたのだった。




