初めてのプレゼント3
「あら、そういえばクリスを待っていたのよね?あの子、そろそろ食事を終える頃……あ、ほらお皿下げていったわ」
「え!?ケイトさん、ごめんなさい。後から洗うので置いておいて下さい」
ケイトさんの腕の中でのんびりしていたら、うっかり渡しそびれるところだったわ。
やっと渡す決心をしたのに、ここで渡せなかったらきっと、やっぱり止めようって思ってしまう。
危ない危ない。
教えてくれて助かった。
快く送り出してくれたケイトさんにお礼を言って、用意していた包みを握る。
ぱたぱたとクリスさんを追いかけるが、長身のクリスさんは歩くのも速い。
食堂を出て、廊下の曲がり角の手前でやっと姿が見えた。
「待って!クリスさん!」
姿が見えなくなる前にと、咄嗟に叫ぶ。
すると驚いたような顔をして、クリスさんが立ち止まってくれた。
はあはあと息を切らしながら追いつく。
うぅ……完全に運動不足だわ。
「……どうしたんだ?俺に何か用か?」
私の息が整うのを待って、控えめに聞いてくれた。
ごめんなさい、時間取らせました。
どうやって切り出そうかと色々考えていたのに、いざとなると何も思いつかない。
結局、ええいままよ!と包みをクリスさんに突き出した。
「……これは?」
そりゃそうだ。
突然思い当たることのない包みを差し出されても、説明しないと分かるわけがない。
「ええっと、この前アランから頼まれて、足首や手首につける飾り紐を作ったんです」
そこまで話すと、知っていると素っ気ない声が返ってきた。
あれ?ちょっと怒ってる?
でもここまできて怯むわけにはいかない。
顔を見ながらだと上手く話せないかもしれないと思い、やや俯きながら言葉を紡いでいく。
「作ろうとして、思ったんです。私がここでこうして生活できているのは、クリスさんのおかげだって。だから、お礼……という程のものではありませんが、まずはクリスさんのために何か作ってプレゼントしたいなって」
差し出したままの包みをぎゅっと握る。
通じたかな。
私、上手く話せた?
しばらく経っても反応がないのが怖くなって、恐る恐る視線を上げると、そこには目を見開きながらほんのり頬を染めるクリスさんがいた。
へ?
意外すぎる表情に呆気にとられていると、我に返ったクリスさんが、慌てて顔を逸らした。
「っ……それはつまり、俺のために作ってくれたということか?」
「え、あ、はい。大したものではありませんが、良かったら」
もう一度クリスさんに向かって、包みを持った手をおずおずと伸ばす。
するとクリスさんは、そっとそれを受け取り、まるで宝物かのように慎重に包みを開いた。
「これは……いや、紐、か?」
取り出した時に、クリスさんがはっとしたのは気になったけれど、聞き返すことはせず、質問に答える。
「?はい、剣の飾り紐なんです。初めてお会いした時、助けてもらった剣さばきがあまりに見事だったので」
すごく強いんだなって思った。
だから、その剣に、ちょっとだけ祈りを込めたお守りを。
少しだけ、剣が軽くなって持ち運びしやすくなると良いな。
少しだけ、剣の効果が上がると良いな。
そして、剣がクリスさんを守ってくれると良いな。
ちゃんと、無事に帰って来てくれるように。
そんな、ささやかな願いを込めて。
「……ありがとう、ティア」
あ。
久しぶりに名前、呼んでくれた。
それだけなのに、なんだかすごく嬉しい。
「早速付けたいのだが、もし良かったら、ティアが付けてくれるか?」
ふわっと優しく微笑んでくれたのも、久しぶり。
「もちろんです。私も剣に付けたところ、見たいですから!」
気に入らなかったら、適当にお礼だけ言って付けないっていう選択肢もある。
だけど、ちゃんと私の目を見てお礼を言って、その上、騎士の命とも言える剣にまで触れさせてくれるなんて。
――――嬉しい。
短くてすみません(T_T)
物足りない方のために?
短編の小説をアップしたので、興味のある方は是非読んで頂けたらと思います!
https://book1.adouzi.eu.org/n1634hj/
悪役令嬢モノ、よくある話です。
一度書いてみたくて、好きに書きなぐりました笑




