初めてのプレゼント2
「おおーっ!予想以上のカッコ良さ!これ、本当にティアの手作り?売り物みてぇ!」
翌朝、朝食の配膳が落ち着いたのを見計らって、アランにラッピングした袋を渡す。
その場で包みを開いたアランは、キラキラした目でアンクレットと腕輪を見ている。
良かった、どちらも気に入ってくれたみたい。
太さは違うけど、同じ色の糸を使ってデザインも揃いのものにし、一緒に身につけても良いように作ってみた。
「ホント器用だなー!これ、代金払うべき?」
「いらないよそんなの。趣味で作ってるだけだし。むしろすごく楽しく作れたから、私がお礼言いたいくらい。ありがとう、アラン」
子ども相手のお世辞だって分かってるけど、そう言ってもらえるとやっぱり嬉しい。
思わず頬が緩んでしまうというものだ。
えへへと照れたように笑えば、アランに両手でぐりぐりと頭を撫でられた。
「ちょ、アラン!また……」
「ティアはかわいいな。オレにもこんな妹がいれば良かったのに……!あんな傲慢な姉たちと同じ生き物だなんて信じられん!」
うっうっと涙でも流しそうな勢いだ。
どうやらアランにはお姉様がいるらしい。
それも複数の。
よく聞く話だけど、末っ子でパシリにされてるとかかしら。
すごく同情の気持ちが湧いてくる。お姉様たち、キャラが濃いのかな……。
なんとなく振り払うのも悪い気がして、しばらく大人しく撫でられていることにする。
「こらこらアラン。いつまでもそうやってレディに触れるのは失礼ですよ。おはようございます、ティア。アランが不躾に、すみませんね」
未だ私の頭を撫で回すアランを止めたのは、朝食のトレーを持ってやって来たセシルさん。
さすがのアランもハッと気付いて手を離してくれた。
「ごめんごめん、ティアがかわいいから、つい」
……何でそうつるっとかわいいを連呼するのだろう。
恥ずかしいから止めてほしい。
ほら、周りのみんなからも注目を浴びてるじゃない。
あっ、アランたら食べ始めたセシルさんにまで、腕輪とアンクレットを自慢してる。
「へえ。本当によくできていますね。それにアランにとても似合いそうだ」
「やっぱり?オレもそう思った!」
……このふたり、意外にも同い年で同期なんだよね。
セシルさんが落ち着きすぎていて、そうは見えないけど。
だけど、すごく仲は良さそう。
大人びているセシルさんも、友だちと一緒だと年相応の顔をするのね。
うーん、眼福です。
「ティア?聞いていますか?」
「え、あ、はいっ!?」
しまった、セシルさんが話しかけてくれたのに、ぼーっとしてしまった。
慌てて何でしょうかと聞き返すと、くすくすと笑われる。
あ、その表情も素敵。
「もし良ければ、私にも何か作っていただけませんかと言ったのです。そうですね……ちょっとしたアイテム入れのようなものがあると良いなとは思っていたんです。配置的に、ポーションなどを遠征時に持つことが多いので」
セシルさんは剣も魔法もアイテムを使った補助も、戦況を見てバランス良く動く隊に所属しているらしい。
賢くて状況判断にも優れた人ってことだよね。うん、セシルさんのイメージにぴったり。
でもなるほど、アイテムはまあまあの大きさがあるから、持つ量には制限がある。
比較的小さいポーションも、香水瓶くらいはあるしね。
でもよく使うから、ある程度の量は持ちたいはずだ。
ベルトなどで腰に固定する、簡易バックのようなものがあると良いかもしれない。
「分かりました。ちょっと考えてみますね。ちょっとお時間はいただくかもしれませんけど」
「構いませんよ。家政婦の仕事もありますし、ティアが無理をするのは本意ではありませんからね。急を要するものでもありませんから、のんびり作って下さい」
にこりと微笑むセシルさんに、頬が赤くなるのが分かる。
そのキラキラスマイルは反則だと思う。
それに、やっぱり優しい。
改めて王子様だわぁと思っていると、アランに胡乱な目で見られているのに気付いた。
「おいティア、騙されるなよ。こいつ、こんな人当たりの良いフリしてるけど、本当は……」
「アラン?ティアに余計なことを吹き込まないでくれるかな?」
セシルさんがアランの言葉を遮って、黒い微笑みを向けている。
なるほど、ただの王子様キャラではないようだ。
怒らせてはいけない人ってことかしら?
事実、アランが青い顔をして口をつぐんでいる。
……ま、まあ私には優しいし!
鑑賞対象だから問題ないわよね!
「えーっと、あ、お皿下げますね。今日は近くの森で、魔物討伐でしたよね。気を付けて、頑張って来て下さい!」
そそくさとお皿を持って洗い場へと向かう。
あまり深く聞かない方が良い。
私のカンがそう言っている。
クリスさんは……まだ食べてるわね。終わる頃に渡しに行くとして、洗い物を少しでも片付けてしまおうかな。
流し台を見ると、洗い物もずいぶん溜まっていた。
洗い物は基本的に私の仕事。
手が荒れそう?
ふっふっふ、それがそうでもないんだな!
こっそり水魔法で手の周りをコーティングしているのだ。
薄い手袋をしている感じ。
前世でも一時期、手が荒れて大変だったからね……。
それ以来、ゴム手袋が必須になった。
だが、この世界には残念ながらゴム手袋というものがない。
鍛冶師じゃゴム手袋なんて作れないよねぇ……。
世の中の奥様たちにバカ売れすると思うんだけどな。
あと、ここでの生活にも慣れてきたし、そろそろ鍛冶の勉強もしたいなぁとは思っている。
空き時間は意外とあるから、お買い物ついでに鍛冶屋さんとか覗いてみたい。
本当は弟子入りとかするものなのかもしれないけど。
そもそも私のイメージしているトンテンカンテンの鍛冶屋さんで合っているのかしら?
うーんと悩みながら皿洗いをしていると、ケイトさんがどうしたの?と話しかけてくれた。
実は……と鍛冶の勉強のことを伝えると、カイルさんに聞いてみると言ってくれた。
騎士団御用達の鍛冶屋もあるし、色々とツテがあるみたい。
「ありがとうございます、ケイトさん」
「このままここで家政婦してもらっても良いんだけどね。でも、ティアちゃんは鍛冶師になりたいんだものね。応援するわ」
ケイトさんがちょっぴり寂しそうに微笑む。
ここでお世話になるようになってまだ数日なのに、こうして寂しいと言ってくれるのは、とても嬉しいことだ。
……エーレンシュタイン家では、そんなことなかったもの。
だけど、応援すると言ってくれることも、とても嬉しい。
少しだけ胸がちくりと傷んだけれど、努めて明るい声を出す。
「ありがとうございます。だけど、何年後になるか分かりませんし、そもそも鍛冶師になれるかすらも怪しいですから」
「そう?それならそれで、独身寮は大歓迎よ。悔いのないように、やるだけやってみたら良いわ」
ケイトさんの言葉が、じんと心に染み入る。
「ありがとうございます。ケイトさん、大好き!」
笑顔で告げれば、ぎゅっと抱きしめられる。
かわいい、かわいいと連呼されるのはちょっと恥ずかしいけど、今の私は幼女姿だし、少しくらい良いよね。
温かくて、いい匂い。
前世でお祖母ちゃんに抱き締められていた時みたい。




