初めてのプレゼント1
「よしっ、できた!」
出来上がったばかりのアンクレットを掲げて、にんまりと笑う。
うん、我ながら良い出来だ。
先日描いたデザインをアランに見せたところ、とても気に入ってくれた。
『こんな本格的に作ってくれるなんてすごいな!』だって。
そりゃ人様にあげるのなら、ちゃんとしたものをあげたいし、どうせなら気に入って欲しい。
アランからすれば、何気なく言った言葉なんだろうけど、実は結構嬉しかったのだ。
作って欲しいなんて、今世では誰にも言われたことがなかったから。
「あと、これも作っちゃったんだけど……もらってくれるかな?」
作業机の引き出しを開け、そこに入っていた黒と紫、それに少しの金を組み合わせた飾り紐を取り出す。
これは、クリスさんのために作ったものだ。
さあアンクレットを作り始めよう!という時に、ふと思い立ったのだ。
クリスさんにも、作りたいなって。
お礼……と言えるほどのものではないけれど、私がこうしてここにいられるのはクリスさんのおかげだ。
それなら、ここに来て人に作る初めてのものは、クリスさんのものが良いような気持ちになった。
まあ、出来上がったのに結局渡せず、ここにこうして仕舞われているんだけどね。
作ったのは、剣の飾り紐だ。
イメージは中国の剣の柄頭にシャラッとついているあれ。
クリスさんの剣の柄頭にも、輪になっている部分があるので、そこにつけられるようにした。
でも、あんまり長いと剣を振るのに邪魔かもと思ったので、細めの糸を短めに何本か編んで、それを金具で留められるようにしてみた。
なぜ剣の飾り紐にしたかというと、助けてもらったあの時、剣さばきが速くて、すごく強いんだなって思ったから。
剣がクリスさんを守ってくれると良いなって、御守りみたいなものだ。
ただ、渡すタイミングがつかめずにいる。
「アランのが出来たら一緒に渡そうって思ってたけど……迷惑じゃないかな」
「なぁに?また悩んでるの?そんなの、はいどーぞ!って渡しちゃえば良いのに」
呆れたような声で覗き込んできたのは、精霊姿のルナ。
散歩してくると言って出て行ったのに、どうやら戻って来たらしい。
でも、ルナの言う通りだ。
もう三日もどうやって渡そうか悩んでいる。
クリスさんって、初めて会った時――――王宮までの道のりは、小さい子に慣れていない感じはしたけれど、すごく優しかったし、よく笑ってくれた。
でも、私がここでお世話になるようになってからは、ちょっと素っ気ない。
上手く言えないんだけど、話しかけても二言三言で会話が終わってしまったり、あまり笑ってくれなかったり。
無視されるとか、あからさまに避けられることはないんだけど、なんとなく道中とは違う気がする。
私、何かしたかな?って考えたけど、思い当たることもない。
「そんなに悩むなら、作らなきゃ良かったのに」
「もう!ルナの意地悪!」
はいはいとルナが私の肩に止まって、ため息をつく。
ルナの言う通りだ。
言う通りなんだけど……。
「でも、お礼に何かしたかったんだもん」
私に出来ることなんて、これくらいだし。
掃除や料理は仕事だから、お礼にはならない。
お菓子も考えたんだけど、甘い物があまり好きじゃないって聞いたから、断念した。
でも、こんな子どもが作ったものなんて、大事な剣につけたくないかもなぁ。
「……やっぱり、止めておこうかな」
だんだん弱気になってしまって、ついそんなことを口にしてしまう。
すると、ルナが私の頬をぷにっとつついた。
「ダメよちゃんと渡さなきゃ。何を心配してるのか知らないけど、大丈夫よ。ちゃんと喜んでくれるから!」
「……そう、かな」
励ましてくれるのは嬉しいけど、喜んでくれると確信は持てない。
面倒くさいと思われるかもしれないけど、意外と私は繊細なのだ。
「当たり前よ!だってそれには――――っと、これは言っちゃダメなんだった」
息巻いていたルナが、突然口を手で塞いだ。
?言っちゃダメって何が?
「とにかく、それはとっても良いものなの!喜ばないヤツなんていないから、自信持って渡しなさい!」
びしっ!とルナに指を差されてしまった。
この飾り紐が良いもの……って、どういうことなんだろう。
確かになかなかの出来だと自分でも思うし、クリスさんに似合いそうだなぁとは思ってるけど。
だけど、それほど高い糸で作ったわけでもないし、作ったのも素人の私。
大したものじゃない。
「前から思ってたけど、どうしてティアはそう自己評価が低いのよ……。勉強はできるし、魔法だってかなり使いこなしてる。料理や裁縫も上手で騎士たちもティアを頼りにしてるじゃない」
ルナはそう言ってくれるけれど、勉強は前世の記憶があるから、子どもにしては理解が早かっただけだし、家事は前世でひとり暮らしをしていたから、できても珍しくない。
魔法や裁縫は、ただ好きだからやり込んでいるだけだ。
「そんな、買いかぶりすぎだよ。……うん、でも、この飾り紐はちゃんと渡そうと思う。クリスさんのために作ったんだもんね。それに、ちゃんとお礼言いたいし」
きゅっと飾り紐を握る。
ルナに背中を押してもらったんだし、尻込みしてないでちゃんと渡そう。
「ありがとう、ルナ。ちょっと勇気出た」
「そう?なら良かったわ」
アラン用とクリスさん用、ふたつの小さな袋に入れてリボンでラッピングし、机に並べる。
明日、朝食の時に渡そう。
受け取ってくれると良いな……。




