それぞれの思惑
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今回は第三者視点となります。
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同じ頃。
騎士団長室では、クリスとセドリックがふたりでティアについて話をしていた。
「それで、クリス。どう思う?」
「……ティアに、怪しい所はありません。ただ、言葉では表しにくいのですが、あの子には不思議なものを感じます」
ほう?とセドリックは興味深げにクリスを見る。
普段あまり他人に興味を向けないこの男が、被害者とはいえ、あの少女を自らの馬に乗せて連れて来たことにも驚いたが、さらに驚愕したのは、ティアをかわいがろうとする自分達に嫉妬のような感情を向けたことだ。
「何にせよ、街で問題視されていた窃盗・暴行の犯人グループを捕まえることができました。それに、あの様子ならばティアは独身寮でも上手くやれるでしょう」
確かに頭を悩ませていた二件が上手い方向に行って、自分としても重荷が減ったとセドリックは思う。
犯人グループについては言わずもがな、家政婦については本当に悩んでいた。
といっても彼は独身者ではないので、寮には住んでいないのだが、若い騎士からなんとかならないだろうかと、カイルと共に相談を受けることが多かった。
王立騎士団は貴族出身の騎士で構成されている。
それゆえその独身寮は、いわば若いご婦人にとっては良い婚活の場なのだ。
募集を出せば、それこそ山のように希望者は出るだろう。
だが、本当に騎士たちのことを考えて家政婦として働いてくれる者は、その中にどれほどいるのだろうか?
……そしてあの汚い男だけの空間という現実を、若いご婦人に突き付けて良いのだろうかという葛藤もあった。
また、家政婦のケイトのこともある。
ある程度の年の者だと、双方ベテランなので、互いに譲れないことも出てくるだろう。
補助役として働くのだ、彼女と良い関係を築ける者でないと、務まらない。
それを考えれば、平民とはいえ、かなりの教育を受けているとひと目で分かる言動と所作。
幼稚さのない、謙虚で大人びた性格。
そして騎士たちにかわいがられる愛嬌を持ちつつも、色恋沙汰など起こらないだろう年齢、またケイトとも上手くやれそうなティアを、家政婦見習いにと言うカイルの案は、とても良いものに思えた。
ただ、気になるのはティアについてだ。
両親を亡くした割には悲壮感がなく、七歳程度の見た目よりも遥かに思慮深く見える。
また、クリスからの報告で、ティアは男たちに囲まれた際、魔法を使おうとしていたと聞いた。
実際に発動しなかったため、どれほどの魔法かは分からないが、かなりの魔力を感じられたという。
恐らくジョブを与えられたばかりの年齢、そして裕福とはいえ、商人の娘。
魔法に精通する血筋の貴族ならばともかく、あの年でクリスがかなりと評するほどの魔力を持っているなど、あり得るのか?
そしてそれは、目の前のこの男も分かっているはずだと、セドリックはクリスの様子を窺う。
「ティアは悪い者ではない。俺が保証する」
「……お前の見る目は信用している。それに俺も、あの子は良い子だと思う。ただ、何かを隠している可能性はあるからな。注意は必要だぞ」
分かりましたと頷くと、クリスは一礼して退室した。
ひとりになったセドリックは、椅子に寄りかかり、はあとため息をつく。
「やたらと庇うじゃないか。確かに良い子だと思うし、将来はかなりの美人だろうが。……あいつ、幼女趣味ではなかろうな?」
ティアの素性も気になるが、一匹狼の実力派と名高い隊長の、不名誉すぎる疑惑を拭い去ることができず、セドリックは頭を抱えるのであった。
一方、エーレンシュタイン侯爵家。
「くそ!セレスティアはまだ見つからないのか!?」
「あなたたち、あの子の姿を見ていないの!?」
「……申し訳ありません。昨夜いつものように食事を下げてからは、今朝まで部屋には誰も行っておりませんので」
セレスティアが家出した翌日。
朝、できるだけ遅い時間に、アンナはセレスティアが自室にいないことを侯爵夫妻に告げた。
いつものように起こしに行ったが、すでに姿はなく、心当たりの場所を探しても見つからなかったということにしたのだ。
「失礼ですが、旦那様、奥様。なぜセレスティアお嬢様の姿が見えないことに、そんなに心を乱されているのですか?いつもなら、そのうち帰ってくるだろうと言うではありませんか」
例えば八歳くらいの時。
庭園をひとりで散歩していた際、セレスティアがうっかり眠ってしまったことがあった。
昼食の時間になっても姿を見せないことにアンナが動揺しても、このふたりはそう言って相手にしなかった。
――――妹のシャーロットが茶会などで迷子になった時は、慌てふためくというのに。
「……っ!私たちにも、色々と事情があるのだ!」
「そうよ!良いからあなたたちは黙ってあの子を探しなさい!」
夫妻の言葉に、使用人たちはバタバタとセレスティアを探しに行く。
アンナもまた、一礼して何食わぬ顔で出て行く。
そんな大人たちの様子を、部屋の外でシャーロットは見ていた。
「お姉様が、いなくなった……?」
やっと苦しむ顔が見られると思ったのに。
天使のようだともてはやされる、その可憐な容姿にそぐわない、深い皺を眉間に刻んだシャーロットの呟きは、誰の耳にも届かなかった。




