縮むのかしら。
「では、エレクトラ嬢また明日。
午前は授業も無いから、ゆっくり休んでほしい。
悪いが午後に最終チェックの為来てくれ。よろしく頼む。」
「分かりましたわ、リロイ様もしっかりと体を休めてくださいませ。
それでは失礼します。」
女子寮の前まで来るとリロイがつかんでいたエレクトラの手を離し、振り返ると微笑んで言った。
やや上目遣いに視線をもらい、思わずきゅんとするも安定の微笑みの鉄仮面を全面に押し出し何事もないように言葉を返す。
かわいげない態度だと自分でも思う。
ここで頬を染めたり、口ごもったりしたのならリロイも意識したりするのだろうか。
「おやすみ。」
閉まる扉の向こうで微笑むリロイに別れをつげて自分の部屋に向かっていった。
「エレクトラ様、おかえりなさいませ!
…顔が赤いですよ?」
部屋で待っていた侍女兼学友のメリッサが不思議そうな顔をする。
「そんなことありませんわ。」
「耳まで赤いですよ!風邪ですか!?」
「違います!」
「そんなことありません!何年一緒に居ると思ってるのですかエレラ様!」
懐かしい愛称にはたと反撃の声をひそめて、エレクトラはそっぽを向きながらボソボソと答えた。
「風邪でないわ。ちょっとリロイ様に送ってもらっただけよ。」
「まぁ!まあまあ!照れてらっしゃるのエレクトラ様!ドキッとしました!?ときめきました!?」
ずいずいと寄ってくるメリッサに壁際に追い詰められながらモゴモゴと歯切れ悪くエレクトラは答える。
「そんなんじゃないわ、ただ可愛い顔していても紳士な方だなと思ったけど…
それにときめくなんて…」
「エレクトラ様。」
不意に真剣な顔にメリッサがなる。
「もう、婚約は破棄されたんです。
ときめいたって、はしゃいだって、大口開けて笑うことだってできるんですよ。
社交界や働けばそれもある程度は制限を受けるでしょう。
ですが、今は学生の身です。
好きなようにしていいんですよ。
…昔みたいに。」
王太子の婚約者になる前、沢山の枷と制限を受ける前のエレクトラはお転婆なこどもだった。
3つ上のメリッサと泥だらけになって遊んだことも、イタズラしたことも数知れず。
まぁ、大人しい質のメリッサをぐいぐい巻き込んだというのが正しいと言えたが。
今のように、主人と侍女という身分差も意識せず、仲良しのお友達…親友か姉妹のように過ごせていた。
婚約者になったとたん子爵令嬢…しかも両親が亡くなりあとを継いだ親族に疎まれ放り出されるようにしてエレクトラの家に迎えられたメリッサが側に居るのは相応しくない…と何度も横槍が入った。
その度、全力で抵抗した二人は完璧であるため血のにじむような努力をして。
身分と後ろ楯の弱いメリッサは自分よりもそれは苦労した事をエレクトラは知っていた。
二人きりで居るときでさえ、いや一人きりであったとしても誰かの監視下に居ることを意識しなければならない日々。
けれども、そうか…
エレクトラは思った以上に枷と制限に縛られていたようだ。
犠牲や弊害はあれどなにもなくなったのだ。
自由に生きれるのだ。
「そうか…そうなのね。
じゃあ、ときめいたって恋したっていいのかしらね。
昔みたいにメリーとお茶だってできるわ。」
「はい、なんだってできます。
ふふ、エレラ様とまたお呼びできますね。」
幼い頃のように、水筒とバスケットをもって敷物も敷かずに野原に腰をおろして陽が傾くまで他愛ないお喋りもできるようになったのだ。
愛称で呼び合う事だって。
「…ねぇ、メリー。」
「はい、なんでしょう?
…その顔は何か憂いがある顔ですね。
にどーんと話してみてください。二人ならば解決できるかもしれません。」
とても真剣にエレクトラは言った。
「背はどうしたら縮むのかしら…?」
ヒールを脱いでも余り縮まらない相手との身長差は年頃の意識する相手の居る乙女にはとても重い問題だった。
互いに想い合わないとは分かっていても身長差的にはお似合いのリロイとハナを見るたび、どうしたって落ち込んでしまう。
リロイが気にしない質の人ではあると分かっていてもだ。
エレクトラは飛び抜けて身長が高いわけではないのだが、リロイが小さいからヒールを履けばつむじも見えてしまう。
結局、空が白むまでああでもないこうでもないと話し合った女子二人。
結論として、リロイの成長に期待することとなったのだった。
タイトルはリロイとの距離と身長差をかけてみました。




