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そして賽は投げられた

貴賓席に座り大量の甘味を食べていた若き美貌の鉄面皮宰相ボリスに野太い声がかかった。



「坊ちゃん、久しぶりですな。」



ボリスが視線を向けた先には、泣く子も戦く凶悪顔な副将軍…ベルケル・ハルシフォンが立っていた。

横には妻であり今なお最強の名をほしいままにする武闘家の妻もおり、黙礼をしつつ周囲をうかがう。



「坊ちゃんはやめてください。

これでも三児の父なんですから。

先日ぶりです、ハルシフォン殿。

夫人もご無沙汰しておりますが、相変わらずご健勝でなによりです。」



ドーナツを飲み込んで、ペコリと頭を下げるボリス。



「はっはっは、そうですなぁ。

うちの将軍が身を固めないもんで、ついつい時の流れが曖昧になる。

困ったものです。で、バルド将軍は何処に?」



ボリスやバルドの父とも親しいベルケルはちょくちょく二人を子ども扱いをする。

ボリスの父は、妻への愛ゆえ娘達を苦難の道に追い込んだ国王へ抗議と決別を決意し、妹のラクーアの嫁ぎ先に亡命に近い形で移住していた。

宰相として敏腕で代わりがいないとまで言われた人であったが、その椅子をあっさり蹴り飛ばし賛同する一族を引き連れて。

ボリスも行っても良かったが、まぁ、国王は屑としても地元…多種多様な菓子屋から離れたくないのと身重の妻が居たので残ったのだ。


内務で優秀な者が半分去ったとき、どんな思惑あれど国を維持するにはボリスの能力が必要とされると分かっていたのもある。


その時、父は残る息子をベルケルへ託した。


バルドとエレクトラの父は外務を司る。

いくら親交があれど、いざとなったら外交カードとして実子すら出すことを厭わない男でもあるので、人情に厚いベルケルに頼み込んだのだ。


英雄レスター・ウォルクラウンの存在が国内では表向き秘される事になり、

怒りと絶望からかつての副官ゲイツ・マイヤーが国を捨てたとき少なくない軍部の人間が流失した。

したのだが、レスターへの忠誠心からベルケルが残ったことで軍部の瓦解が防がれ、他国に攻めこまれたりすることもなく済んだ。

強面だが情に厚く、強い部下思いの男がある意味国の危機を救ったともいえる。

そんなベルケルだからこそ、なにかあれば息子を力ずくでも守ってくれると信頼されてボリスは託されたのだった。


苛烈な政治をするボリスは敵も時につくりやすく、自身だけでなく家族の命をも守ってくれているベルケルには大変感謝しているのだが…

本気で坊ちゃん呼びは勘弁してほしいと思っている。



「開催前に来賓がら一言をもらうじゃないですか。

一応、近衛騎士団長殿が頼まれていたようですが…

ほら、あそこの馬鹿息子やらかして軍部の砦にぶちこまれることになったでしょう。

その不祥事があったので、辞退した所にバルドが来たものですから、学園長直々に依頼があり来賓挨拶することになりました。」



「なるほど。

しかし…ザクイチ夫人もお痛わしい事ですな。」



「そうですわね。

あの方は大変優秀でいらっしゃる。

お子さん達もそれを引き継いだはずが、末は父親に似てしまったなんて…」



ため息と共にハルシフォン夫人がこぼした言葉に二人も同意する。

近衛騎士団長は確かに実力はある。

軍部のトップクラスには到底及ばないが。

そして顔もいい。

しかし、目が節穴な脳筋なのだ。



闘技場の対角線にある貴賓席に座るであろう騎士団長の顔を思い出し、ベルケルはなんともいえない気分になった。









そうこうしているうちに開幕となった。

式は粛々と進み生徒会代表としてリロイが話した後に、バルドが颯爽と壇上に立った。

どよめきが波のように広がり、そして静かになる。



「学生諸君、今日はおおいに励むといい。

ここで実力を認められた者達によって、今、国の平和は守られている!

過酷な中で国境や砦を守る者がいてこその、街や村を守る者の尽力があってこその平和だ!

それを保つ力を諸君らは持っている!

思う存分力をふるい戦うのだ!

健闘を祈る!!」



拡声器も使わず、響き渡るバルドの声。

一瞬の間をおいて歓声があがる。



「ははっ!愉快な挨拶をするじゃないか!!傑作だ!!!」



鳴りやまぬ拍手と歓声を聞きながら、ボリスがそれはそれは楽しそうに笑う。

バルドの激励を要約すると『国の平和は軍部が守ってるぜ!優秀な卒園者はぜーんぶ軍部(うち)がもらってるもんね。やーい』である。



「坊ちゃんはこういうときが一番輝いてるよなぁ…」



「父君にそっくりですわね。」



ハルシフォン夫婦は揃って苦笑いを浮かべるのであった。







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