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急変 1



 遠くで、扉を叩く音がする。


 ふ、と意識が浮上し瞼が押し上げられたが、何だかいつもより重く感じる。


 カーテンの隙間からは、日の光が差し込んでいた。

 いつもならうっすら明るみはじめるころには起きているのに、どうやら今日はその日の高さに寝過ごしてしまったことを認識させられた。


 朝になったので、アランとルーカスが迎えに来てくれたのかもしれない。

 目が覚めたものの一向にはっきりと覚醒しない意識のなか、ぼんやりと考えていると部屋の外から呼び掛けられた。


「ルルちゃん、おはよう。もう、起きたかな? ……返事がないな。まだ寝ているかな」


「いつもなら、とっくに起きている時間のはずだ。昨日はだいぶライアンに連れ回されていたからな……、疲れているのかもしれん」


 思った通り、アランとルーカスの二人だった。

 二人の会話を聞きながら、昨夜言われた通り鍵をしていたので部屋に入れないでいるのだろうと思い、扉を開けるため起き上がろうとしたが、全く力が入らず身動きが出来ないほどだった。


「あ、れ……?」


 やけに体が重く感じた。

 今度は、必至で全身の力を込めてみたが、それでも体中だるくて寝返りを打つのがやっとだった。これでは、到底自分の力だけでは起き上がる事は出来そうにない。

 咄嗟に扉の向こうにいるルーカスとアランに助けを求めようとしたが、喉が掠れていて、なかなか声にならなかった。


「二人とも遅いわよ〜。あら? ルルはまだ寝てるの?」


 必死で助けを呼ぼうと藻掻いているうちに、ライアンの声まで聞こえてきた。


「返事がないし、鍵がかかっているからそうみたいだ。昨日散々、お前が連れ回したせいで疲れているんだろう……」


「もう、すぐアタシのせいにするんだから……」


 アランに責められ、ぶつぶつと文句を言いながら、ライアンが再度呼び掛けてみる。


「ルル? ルル、おはよう! 朝ご飯食べに行くから、早く起きなさい!」


 ドンドンと、先程より強めの力で扉を叩くライアン。


「おい、他の客にも迷惑だろう?」


「あら、ゴメンナサイ。疲れてるんならもう少し、寝かせてあげたほうがいいのかしら」


「いや、それにしても、遅いと思うんだ。普段ルルちゃんは、もっと早く起きて働いているから……」


「しかし、慣れない王都でルルもいつも以上に気疲れしたのかもしれない」


「確かに……」


 三人の会話に、早くしないとどこかへ行ってしまうと思って、力を振り絞ってベッドの上を這いずっていると、急に体が傾げてドスンと大きな音を立てた。


 ベッドから落ちてしまった。

 床に体をしたたかに打ちつけてしまった痛みに、それでもうめき声ひとつ出ない。


「おい!? 今の音は何だ……?」


「ルルちゃんっ、大丈夫? ルルちゃん!」


「返事をしてくれ、ルル!」


 物音に気づき異変を感じたルーカスとアランは、すこし焦った様子で呼び掛けてみるが、ルルからの返事は一向に返ってこなかった。


「アラン、店主に言って鍵借りてこい」


「いや、しかし……ルルの承諾もなく、いきなり部屋にはいるのは……」


「そんな悠長な事を言ってる場合じゃないでしょ? もしかしたら具合を悪くしているのかもしれないじゃない! あぁ、もう! 二人には任せておけない」


 ライアンがそう叫んで一瞬の間、ドーンと大きな音がして、少し部屋が揺れた様な気がしたと思ったら、扉をぶち破ったライアンが、ベッドから落っこちた状態のルルを発見してくれた。


「やだぁ!? ルル、大丈夫? どうしたの、具合悪いの? 二人とも店主に頼んでお医者呼んで!」


 ライアンがルルを抱きかかえてベッドに戻すと、アランとルーカスに指示を飛ばす。二人は項垂れた姿のルルを心配しつつも、素早くライアンの言葉に従った。



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