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噂のあの人 3



 アランの言葉通り、二人はほんの少しの時間で戻って来たものの、やけにボロボロになったライアンの姿を見て驚いたルルは、咄嗟に鞄の中から自分用にと携帯していた、傷薬を差し出す。

 

「だ、大丈夫ですか?」


「ルル、ライアンはこう見えて頑丈だから、薬なんてもったいないよ」


 そういって、薬を取り上げようとしたアランに、ルルは珍しく強く言い返した。


「ダメです! 小さな傷でもちゃんと治療しておかないと、後で化膿したりしたら大変なんです!」


「ぐっ……」


 怪我や病気をそのままなんの手当もせず、見過ごすことなんかルルに出来るはずもなく……。正論をぶつけられて、流石のアランも思わず言葉に詰まった。


 そして、一見気弱そうに見える少女が、アランに言い返し、先ほどあれほどまくし立てたはずなのに、そんな自分の傷の手当してくれるルルを見て、ライアンは意外そうな口ぶりで声を掛けた。


「あら、いつもアランにまとわりついている女性達とは違って、あなたって優しいのね」


「あ、初めまして。ルルと言います。さっきは混乱して、変な事を言ってしましました。実は以前、アラン様とルーカス様に助けられた事がきっかけで、今とてもお世話になっています」


「ああ、あなたが噂の女の子なのね。アタシはライアン。アランとはコイビ……同僚よ」


 うっかり調子の良い事を言おうとしたライアンだったが、アランの鋭い視線に咄嗟に言い換えた。


「ライアン様ですね。この怪我、どうしたんですか? まだどこか痛む所はありませんか?」


「え、ええ……。少し転んだだけだから、大丈夫よ」


 真剣に心配してくれるこの状況で、アランにやられたなどと、本当の事でも口にしてはいけない事くらいはライアンにも分かった。


「たいした怪我ではないみたいで良かったです。ライアン様の事は、以前ルーカス様やジョージ様からお名前をお聞きしていました。とても、アラン様と仲の良い方だとおっしゃっていたので、お会い出来て嬉しいです」


 ルルは素直に思った事をそのまま口にした。しかし、ジョージはともかくルーカスの口から“仲が良い”というのは皮肉以外の何ものでもない言葉なのだが、けれどそういった言葉を純粋に鵜呑みにして、キラキラとした眼差しの少女からそう言われると、流石のライアンも毒気を抜かれたような気がした。


 しかし、なるほどと思いライアンはあらためてルルを眺める。

 詳しい事は聞いていないが、水路事業立ち上げのためルグミール村へ向かったはずのアランとルーカスの二人との連絡が途絶えた時、ライアンは我先にと救援に駆けつけようとしたが、すぐに森の中のとある家で療養しているという知らせが舞い込み、ひとまず安堵していた。


 それから数日後、回復したルーカスが本部へ報告に戻ってきたが、アランの姿は一緒になかった。それほど悪いのかと心配し、ルーカスに付いて行こうとしたら、ものすご〜く嫌な顔をされた。

 その事にライアンの女の勘(?)がピンと働いた。きっと、女の世話になっているのだと。

 しかし、今までのアランを思うと一人の女性に執着することはなかったから、その時はまたすぐに王都に戻ってくると思っていた。


 ところがだ。


 やっと、アラン自身が王都に戻ってきたかと思ったら、報告が終わるやいなや飛ぶようにまたルグミール村に向かおうとしていたのを、ルーカスがまだ仕事があると引き止めると、アランのものすごい剣幕にもう少しで取っ組み合いになる寸前だった。


 そんな、アランの姿はライアンにとっても初めての事だったので、報告内容をこっそり調べてみれば、案の定、一人の少女が関わっている事を知り、何とか事情を聞き出そうと思っていても、猛然と仕事をこなし始めたアランにとりつくしまもなかった。


 そして、仕事が終わるとそのまま水路事業の監察のためという名目でルグミール村へ行き、しばらく王都を留守にすると言うのだ。それから、お互い仕事ですれ違ってばかりで、ライアンはこれまでやきもきとさせられていたのだ。


 けれど、やっとアランが王都に戻って来たと聞き、街中を探してみれば、傍らには例の女性の姿が……。アランをここまで夢中にさせるなんて、一体どれほどの女なのか詰め寄ってみれば、特別美人というわけでもない、まだ幼さの残る少女だった。


 しかし、まだ出会って少ししか言葉も交わしていないこの短時間でも、ルルの健気さや心の優しさが充分に伝わってきて、心のどこかでなるほどと妙に納得させられたライアンでもあった。


「な、なんだか純粋すぎて、調子が狂うわね……。でも、まあ良いわ。今のところ私の方が魅力では圧倒的(あっとうてき)に勝ってそうだから、お茶くらい付き合ってあげる」


「え、で、でも……」


 とりあえず、今までアランを取り巻いていた見た目は美人でも、気位ばかり高い女性達とは違って、非常に好感のもてる少女ではあった。

 だから、お茶の誘いにルルが遠慮しそうにすると、ライアンはアランから見えない方でパチリとウインクした。


 すると、それを見たルルは、一瞬目を見開いたけれど、すぐに少しホッとした表情を浮かべて、ライアンの誘いに素直に頷いたのだった。



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