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初めての王都 5



「じゃあルーカス、交代だからな」


「ああ、分かった。夕方になったら合流しよう」


 サマンサへの店は孫であるルーカスが付き添い、その後はアランと交代して今度はルーカスが警備隊の本部に報告へ行く事になっていた。


「じゃあ、ルルちゃん。アランと交代で今度は俺が仕事に行くけど、夕方には終わるから晩ごはんを一緒に食べよう」


「分かりました。本当に色々とありがとうございました。あ、あの、ルーカス様もお仕事頑張ってくださいね」


「うん、ありがとう。また後でね」


 ルルにとって、だんだんと特別から当り前のように交わせるようになってきた「またね」の言葉。その事がどうしようもなく嬉しい。


「はい、また後で。いってらっしゃいませ! ルーカス様」


 少し上目遣いに自分を見上げてそう言ったあと、小さく笑みを零したルル。

 森の家ではすっかり当り前のように交わしていたはずなのに、今日は場所が違うからなのか何処か新鮮な気持ちがして、ルルとのそのやりとりにあらためてルーカスの心は暖かくなった。


「いってきます」


 ルーカスもつられて笑みを浮かべると、ふと思いついたように、王都に着いた時のジョージを見習って、そっと手を伸ばしさり気なくルルの頭をぽんぽんと軽く撫でた。


 ルルは、その手の重みに、小さい頃出掛ける父がいつもそうしてくれていた事を思い出して、懐かしさを覚えると同時に、父の時とは違うドキドキとした胸の高鳴りも感じていた。


 しかし、そんな二人のほんわかとした見送りの様子を、おもしろく思わない男が1人……。

 ルルからの「いってらっしゃい」が死ぬほど羨ましくてたまらず、ルーカスの姿を忌々しそうに睨みつける。王都に着いてからすぐに仕事に向かった自分に、ルルは「頑張って」とは言ってくれたが、「いってらっしゃい」までは言ってくれなかったのに、どうしてルーカスにはあんなにあっさりと口にするのか……と、細かいことをぐちぐちと気にするアランだった。


 一方、サマンサは先程の孫の行動に改めて驚き、そして喜びを隠せなかった。


「ふふん。いい雰囲気じゃないかい。ウチの孫の方が一歩先って所かねぇ」


「……こ、これからですよ」


 婆さん呼ばわりの仕返しとばかりに、ニヤリと笑ってアランに意地悪そうに言ってやると、強がりながらも悔しそうに答えた。



 何はともあれルーカスが仕事に行くと、気を取り直してアランは再度ルルに声を掛けた。


「じゃあ、ルル。今から俺が、王都を案内しよう」


「いいんですか?」


 ルルは先程まで、仕事の話が上手く行くかどうかその事で頭がいっぱいだったが、馬車から眺めた王都の町並みや水路をみた時の光景が目に焼き付いていた。

 もちろん大いに興味がある。ただ、右も左も分からない状態なので、一人では到底歩けない。だから、ルルはアランの申し出にパッと顔を輝かせたのだった。


「ああ、俺に任せてくれ。ただ、街は人混みが多い。はぐれないように気をつけるんだ」


「はい、アラン様。よろしくお願いします」


 きらきらとした顔のルルに、アラン本人はいたって紳士的に振る舞っているつもりでも、端からは気味の悪いとしか言えない微笑みを浮かべていた。


「でも、やはり心配だから、俺としっかりと手を繋いで……」


「ルルは、王都が初めてだってねぇ。気をつけて行くんだよ」


 アランの心配をするふりをした邪な思惑に、サマンサは見ちゃいられないとばかりに横やりを入れる。


「はい! サマンサ様。今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします」


「ああ、何かあったらルーカスに伝言しておくれ」


「はい。分かりまし……きゃっ!」


 ルルの挨拶が終わるやいなや、(さら)うかのように少女を連れて行くアランにやれやれと思いながら、振り返りながら何度も元気よく手を振る少女に、サマンサも手を上げた。



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